表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/35

06 パーティ結成

 俺がチコにモフモフされていると、衛兵のお姉さんが改まった様子で言った。



「あの、カウル君。お願いがあるのであります」



 俺は「なんすか?」と返事したつもりだったのだが、チコに揉まれていたせいで、



「にゃんすか?」



 とマヌケな返事になってしまう。

 お姉さんは、そんな俺もかわいい、とばかりにクスリと笑ったが、すぐに真面目な顔に戻ると、



「『オーワンファイブセヴン』を探すのを、手伝ってほしいのであります。われら衛兵団はパトロールを強化して捜索にあたっているのですが、いまだひとりも見つけられていないのであります。カウル君の協力があれば、見つけられるかもしれないのであります」



 なるほど、ようはこの国の平和を乱す悪者を、やっつけるのを手伝って欲しいというわけか。

 俺はウイルスとはいえ、この国に厄介になっているのだから、国のために働くのはやぶさかではない。


 それに……。

 こんな美人のお姉さんに頼まれて、イヤと言えるわけがないじゃないか。


 ルールルが、『べつに美人ではないと思いますけど』と横やりを入れてきたが、俺は黙殺してお姉さんの期待に応える。



「にゃんだ、そうにゅうことにゃらおにゃすいごにょうっす! こにょおれに、ろんとまかへてくらさいっす!(なんだ、そういうことならお安い御用っす! この俺に、どんと任せてくださいっす!)」



 俺はカッコよく決めたつもりだったが、まだチコに揉まれていたので、また変な声になってしまう。


 お姉さんはたまらず、「ぷっ!」と吹きだしていたんだけど……。

 その笑顔は、とても素敵だった。


 というわけで、俺は、ルーコとチコの3人でパーティを組み、『オーワンファイブセヴン』の撲滅に取りかかることとなった。


 『ルーコ』っていうのは、衛兵のお姉さんの名前。

 仲間になったのに『お姉さん』や『衛兵さん』じゃ他人行儀だから、教えてもらったんだ。


 俺はさっそくルーコとチコを引きつれ、街中をフワフワして、不審者を捜す。

 すると、大通りの真ん中で、赤いオッサンを発見。


 オッサンはスコップを使って、せっせと往来の道を掘り返していた。

 大胆な迷惑行為に及んでいるというのに、道行く人たちはイヤな顔ひとつせず通り過ぎている。


 気にしていないというよりも、全然気付いてないみたいだ。

 それどころか、オッサンを探しているはずのルーコやチコですら、そばによっても無反応。


 俺が教えてやってようやく、ふたりはオッサンを認識していた。



「おおっ!? ほ、本当なのであります! こんな近くに、こんな怪しい者がいただなんて、少しも気付かなかったであります!」



「でも、よく見たらたしかにいるのだ! こんなわずかな変化に気付くだなんて、カウルはすごいのだ!」



 ふたりともかなり驚いている。

 そして見つかったとわかるや、オッサンもビックリ仰天。



「うわあっ!? な、なんで俺がここにいるってわかった!? 完全に潜伏(ステルス)した俺を、どうやって見破ったんだ!? いつもならお前ら衛兵は、街に実害が出るまで、俺たちには気付かないってのによぉ!?」



 腰を抜かすオッサンに向かって、腰の剣を抜くルーコ。



「こっちには、力強い味方がいるであります! カウル君がいる以上、お前たちにはもう、好き勝手にさせないでありますっ!」



 オッサンは立ち上がり、「しゃらくせえっ!」とスコップを振り回し、ルーコに襲いかかる。

 俺はハラハラしたが、ルーコは大振りのスコップをヒラリとかわすと、



「ちぇすとー!」



 気合いのひと突きで、オッサンの胸を貫く。



「こ……こんなハズじゃ、なかったのにぃーーーーーーーーーっ!?」



 オッサンは不本意でしょうがないといった断末魔の後、アメーバのようにドロドロになっていく。

 それが、ロウ人形が溶けていくような死に様だったので、またしてもカートゥーンアニメっぽいな、と思ってしまった。


 ルーコは剣についた液体を払い落すと、何事もなかったように鞘に収める。


 道行く人たちは、突然始まった大立ち回りに唖然としていたが……。

 誰かが拍手をすると、それはやがて喝采へと変わる。



「いいぞっ! 衛兵さんっ!」



「やっつけたのは、『オーワンファイブセヴン』のひとりね!」



「以前にもアイツには街を壊されて、ひどい目にあったんだ! 倒してくれて、ありがとうよ!」



「ずっとやられっぱなしだったから、胸がすーっとしたわ!」



 ルーコは声援に応えながら、俺をモフッと掴んで天に掲げた。



「これもすべて、カウル君のおかげなのであります! カウル君がいる限り、この街のどんな悪事でも見逃さないのであります!」



「そうだったのか! いいぞーっ! カウルーっ!」



「へぇ! あんな子が、この街にいたなんて知らなかったなぁ!」



「うふふ、ちっちゃくてかわいいーっ!」



 俺は生まれてこのかたこんなに褒められたことがなかったので、なんだかくすぐったい気分だった。

 でも、こんな俺でも街の人たちからすっかり受け入れられたようで、本当に良かったと思う。


 ルールルは、すっかり呆れ顔だった。



『ウイルスに生まれ変わったというのに、細胞の味方をするだなんて……。カウルさんは、本当に変わってますね』



 まぁそう言うなって。

 俺の人生なんだから、どう生きようと俺の勝手だろう?


 ウイルスってのは、人間に害を及ぼす敵みたいなイメージがあるけど……。

 人間に味方するウイルスがいたって、別にいいじゃないか。


 するとルールルは、ふてくされるように俺から背を向けた。



『……別にふてくされてなんかいません。カウルさんがどうなろうと、わたくしには関係ありませんので』



 まぁまぁ、そう言うなって。

 ところでルールル、ずっと気になってたことがあるんだけど……。


 するとルールルは律儀に、『なんですか?』と振り向く。


 俺はウイルスだから、こんな見た目なのはわかったけど、なんでこんなにちっちゃいんだ?



『そんなことですか。それではまず、細胞の大きさから説明しましょう。

 衛兵である白血球は、12マイクロメートル前後、

 僧侶である血小板は、4マイクロメートル前後の大きさがあります。

 1マイクロメートルは、0.001 ミリメートル。すなわち1ミリの千分の1です』



 なるほど、血小板は白血球の3分の1くらいの大きさしかないのか。

 それで、ホビットみたいな小さい種族で表現してたんだな。


 それにしても、細胞ってちっちゃいんだなぁ~!



『それと比較してカウルさんは、500ナノメートルしかありません。

 1ナノメートルは、0.0001ミリメートル。すなわち1ミリの1万分の1です。

 カウルさんの大きさをマイクロメートルに換算すると、0.5マイクロメートルです。

 白血球の24分の1、血小板の8分の1の大きさしかありません』



 ち……ちっちゃ!

 そりゃ、赤ちゃんハムスターサイズにもなるわ!



『それでもウイルスの中では大きいほうなんですよ。インフルエンザウイルスは100ナノメートルで、ノロウイルスは30ナノメートルしかありません』



 そ……そうなんだ……勉強になるなぁ~!



『でもカウルさんがいま見ている世界は、わたくしが作りだしたものなので、スケールについては適当です。カウルさんを赤ちゃんハムスターサイズにしたのは、そのほうが絶望感があっていいと思ったからです』



 って、オイッ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★クリックして、この小説を応援していただけると助かります!
小説家になろう 勝手にランキング script?guid=on
― 新着の感想 ―
[良い点] カウルが見(せられ)ている世界は『ルールル・リアリティ』って訳ですね…(^-^; 名前の通り、このツンデレ女神がルールブックみたいなものでしょうが融通無碍ではなく一定の法則性に則って営まれ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ