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自作小説倶楽部 第19冊/2019年下半期(第109-114集)  作者: 自作小説倶楽部
第114集(2019年12月)/「冬の樹木」&「鍋」
27/30

04 らてぃあ 著  冬の樹木 『小さな女王』

挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ 奄美剣星 「森は生きている」



 両親が死んで俺がお屋敷に取り残されたのは12歳になった年だった。父は旦那様の秘書だったこともあり、身寄りのない俺は、そのままお屋敷の使用人たちに育てられることになった。俺に最初に与えられた仕事は一つ年齢が下のお嬢様の話し相手と言われたが、実際はカナリアの代役だった。

 ちょうど飼っていたカナリアが死んで、その歌が聞けないから何か歌ってみろと言われたんだ。友達なんてとんでもない。俺は新しいペットだったんだ。

 俺がハーモニカを吹くと知ったお嬢様は、やっぱり聞かせろと命令して来た。人に聞かせるために吹いていたものではなかったから結果は散々だよ。お嬢様どころかメイドにまで大笑いされた。

 次の日、何の気まぐれかお嬢様は俺にぴかぴかの銀色のハーモニカを見せた。そして自慢げにフランス製で俺が一生働いても買えない高価なものだと言って、これを吹いてみろと言いだした。もちろん、とんでもないと首を振った。途端、お嬢様は不機嫌になった。しどろもどろで俺は自分には安物のハーモニカがふさわしく、その上それが父親から買ってもらった思い出の品だと説明した。安物で十分俺の宝物だと。

〈何よ、そんなもの〉

 つかつかとお嬢様は俺に近づくとハーモニカをひったくった。

 まずい、と思った時はすでに遅し。俺のハーモニカはガラスを突き破って窓の外に落ちていった。


               *


 お嬢様の癇癪はいつものことだったよ。病弱な奥様は長年別居、旦那様は仕事で海外を飛び回り滅多にお屋敷に帰ってこなかった。

 俺は自分が屋敷を出る方法をずっと考え、全寮制の学校に入ることが決まった時から入学式の日を指折り数えるようになった。

 お嬢様が突然俺の使用人部屋を訪ねて来たのは俺が屋敷を出る前の年末だった。

〈私の宝物をタイムカプセルで埋めるわ。手伝いなさい〉

 厚手のコートにブーツと完全装備のお嬢様は陶器の箱を持って夜の森へ歩いて行く。俺はコートを着るのが精いっぱいで、除雪作業で湿った靴に足を突っ込み、スコップを担いで後を追っかけた。

 宝物を埋めたのは森をまっすぐ歩いて、突き当りの、もみの木だ。

〈いいこと?〉お嬢様は雪がちらつく中、俺に言った。

〈タイムカプセルを埋めた場所をちゃんと覚えておくのよ。あなたなら、この森を迷うことなく歩けるでしょう〉

 俺はうなずいた。でも約束をする気はなかった。そもそも、あれは約束じゃなくて、命令だ。うんざりだったんだよ。屋敷を出て、奨学金で進学したから、もう縁は切れた。だから帰らなかった。

 それが、どうして今頃戻って来たのかって? 宝物を掘り出すためさ。当時、旦那様はしょっちゅうお嬢様に高価な品物を贈っていた。ハーモニカだって一生働いても買えないとかはさすがに大げさだがかなり高価なものだったらしい。

 少し物入りなんだ。木の下で腐らせるより俺が有効活用したほうがいいだろう?

 お屋敷やお嬢様がどうなったかって? 風の便りでお屋敷は売りに出されたと聞いたよ。お嬢様は、きっとどこかの金持ちを捕まえて今も贅沢三昧しているんじゃないかな。


 もみの木を探すのを少し手伝ってくれないかな、女の身でこんな森に入りこむなんて訳ありなんだろう? 宝物が見つかれば分け前をやるよ。


               *


 こんなものが入っているなんて思わなかったでしょう。古い紙きれは、お父様やお母様からいただいた手紙。そのハーモニカは、あなたに返すわ。やっと返せた。

 両親の仲がいつから破たんしていたのかわかりません。母は病気療養を理由に私を置いて実家に戻ったきり、父が帰るのは愛人の家でした。娘への罪悪感を誤魔化すためか毎月のように高価な贈り物を送って来ました。

 ほとんどの使用人は私を腫れ物のように扱って、大抵の我儘はかなえられました。

 でも実際は捨てられた惨めな子供です。

 親切なメイドが拾ってくれたあなたのハーモニカを返して、謝る勇気すら持たず。「命令」という行動でしか自分の欲求を叶えることができませんでした。

 ずっと待っていたのよ。あなたとタイムカプセルを開ける日を。驚くあなたにやっと謝れる。


               *


「山で男が保護されたんだって?」

 年末にそろって当直勤務することになった二人の刑事はコーヒーをすすりながら今朝の事件を話題にした。

「そうなんですよ。古いハーモニカを握ったまま、彼女を助けてくれと泣きながら山道を歩いていたそうです。女性が山に入った形跡もないため、男が落ち着いてから再度事情聴取する予定です」

「『森は生きている』って戯曲を知ってる?」

「子供の頃絵本で見たような」

「あれね。僕は森にマツユキ草を取りに行かされる主人公の女の子より、主人公と同じ歳の我儘な女王様のほうが可哀想だと思うんだよね」

「はあ、」

 首を傾げる後輩にかまわず、刑事はコーヒーを飲み干した。

               了

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