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自作小説倶楽部 第19冊/2019年下半期(第109-114集)  作者: 自作小説倶楽部
第113集(2019年11月)/「読書(※書籍)」&「サラダ」
20/30

02 柳橋美湖 著  サラダ 『北ノ町の物語』

【あらすじ】

 東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていたのだが、実は祖父一郎がいた。手紙を書くと、祖父の顧問弁護士・瀬名が夜行列車で迎えにきた。そうして北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。お爺様の住む北ノ町は不思議な世界で、さまざまなイベントがある。

 ……最初、お爺様は怖く思えたのだけれども、実は孫娘デレ。そして大人の魅力をもつ弁護士の瀬名、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩の二人から好意を寄せられる。さらには、魔界の貴紳・白鳥まで花婿に立候補してきた。

 季節は巡り、クロエは、お爺様の取引先である画廊のマダムに気に入られ、そこの秘書になった。その後、クロエは、マダムと、北ノ町へ行く夜行列車の中で、少女が死神に連れ去れて行くのを目撃。神隠しの少女と知る。そして、異世界行きの列車に乗って、少女救出作戦を始めた。

 異世界では、列車、鉄道連絡船、また列車と乗り継ぎ、ついに竜骨の町へとたどり着く。一行は、少女の正体が母・ミドリで、死神の正体が祖父一郎であることを知る。その世界は、ダイヤモンド形をした巨大な浮遊体トロイに制御されていた。そのトロイを制御するものこそ女神である。第一の女神は祖母である紅子、第二の女神は母ミドリ、そして第三の女神となるべくクロエが〝試練〟に受けて立つ。

挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ 奄美剣星 「カフェ」

  今月は忙しく過去のストック作品からです。




     66 サラダバーはダンジョンにある


 浮遊ダンジョン・トロイ。意地悪な落とし穴に放火装置まである第四階層を抜けた私たちは、ついに第五階層に達しました!

          ◇

 第五階層のスタート・ゲートを出ると、通路はすぐに二手に分かれていました。

 だんだんと私たちパーティーには役割分担ができまして、私・クロエの従兄・浩さんがスマホから電脳執事さんをダウンロードして、偵察にだしました。

 シルクハットの電脳執事さんにお供するのは、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんを守護する平安時代の少年が着る水干姿の護法童子くん、そして吸血鬼・白鳥さんが召喚した一つ目蝙蝠の使魔ちゃんです。

 出て右手の通路は袋小路。しかもそこには一階に戻してしまう落とし穴がある様子です。

 電脳執事さんが歩くと、自動的に距離と方角が測定され、浩さんのスマホにダンジョン・マップが描き込まれていきます。

 それで私たちは、左通路を通っていくと、第一から第二コーナーと、比較的単純な最も外側のルートを行ったわけです。第二コーナーのところで、まっすぐ行くルートと左に抜けるルートとがありました。そこでまた電脳執事さんたちの出番。まず左に分岐した通路に電脳執事さんたちを偵察やりましたが、執事さんが見た風景を浩さんがモニターで視ていると、また袋小路になりました。すると……

 白鳥さんが「ほお」と呟きました。

 白いスーツの白鳥さんも、使い魔ちゃんの目を通して風景を見ています。どうやら偵察隊の三人は、袋小路になったところでドアを見つけたのです。木調の重厚なドアで、上には看板の代わりにアールデコ・ネオンがあり、「サラダバー」と書いてありました。

「そういえば私たちって、このダンジョンに入ってからまだお食事をしていなかったわね。お店がやっているのなら食べて行きましょうよ」

 元魔法少女のマダムがそう言うと、参謀役が板についた瀬名さんが、「毒が入っているかもしれない」と首を横に振ります。

 白鳥さんは、三人からなる審判の女性・金ノ鯉、銀ノ鯉、未必の鯉さんに、

「このダンジョンって、クロエに試練を与えるためにあるようなものだろう。ならばクロエを餓死させたり、毒を盛ったりなんていうのは、いくらなんでもやり過ぎだと考えるが……」

「はい、おっしゃる通りです。ダンジョンがオリンピック競技場だとすれば、サラダバーは選手村の食堂みたいなもの。それからあそこには、カプセル・ホテルと、シャワールームも付いていたりします」

 ――わあっ、やったあ!――

 みんな大喜びです。

 サラダバーのドアを開けて入るとすぐにドーナッツ形をした大きなテーブルがあり、壁際の長テーブルには、ビュッフェの大皿が置いてありました。そこには野菜や海藻、果物、トーストにソフトドリンク、それから若干のアルコールまでありました。それぞれ自分の皿に取って席に着きます。

 私の右にはマダム、左には審判三人娘の皆さんが固まって女子会状態。対する男子会はその外側で、右から浩さん、瀬名さん、白鳥さんの順に座っていました。

 マダムがにこにこしながら、「クロエ、私の席をずらして瀬名さんを呼ぼうか?」とからかいます。前回、第四階層で大活躍した瀬名さんは、あまりにも格好良かったので、ついつい私が見惚れていたことをマダムは知っているのです。

 私の顔が火照った。たぶん真っ赤になっていることでしょう。

 そんな私を男子会三人組はときどき見やっては苦笑していました。

 瀬名さんは食後にグレープフルーツ・ジュースでしたけど、浩さんは珈琲で、白鳥さんはワインでした。……あのお、ビタミンCと一緒にカフェインやアルコールを一緒にとると、発癌リスクがあってよくないですよ。

 サラダバーに従業員は見えないけれど、審判さんたちの話によると、定時になると家事が得意な妖精ブラウニーさんがきて、料理や掃除、ベッド・メーキングをしてくれるのだとか。

 時計だと外は夜のよう。私たちは順番でシャワーを浴び、カプセル・ベッドで休みました。

          ◇

 翌朝。

 外に出ると〝お客さん〟がいました。

 シェパードみたいな大型犬で、頭が三つもあります。そう、〝地獄の番犬〟ケルベロス!

「みんな、クロエを守るように防御陣形だ」

 防御陣形は、男性三人が前に出て半円形を描き、内側中央に私、その後方にマダムがくるものです。男性たちはさらに自身の「守護者」たちを各々呼び出し、相手の隙を見て攻撃をかけるのです。

 ところがですよ、白鳥さんは私たちの隊列を抜け出して、懐から何やら小箱を取り出しました。中に入っていたのは、フランス製高級チーズで、ワインのおともにしていたもののようです。……白鳥さんったら、そのチーズをつまんで、ご自身のペットにやるみたいにして、ケルベロスの三つの頭部に、一つずつくれてやったのです。

 結果はって?

 いうまでもなく〝魔界の貴紳〟ですから、難なく餌付けに成功しちゃいました。それから白鳥さんは踵を返し、唖然としている私たちのほうに戻ってきて、「さあ乗って、僕の女神様」と私をお姫様抱っこして、ケルベロスさんの背中に乗せたんです。……馬代わりにもなるのですね?

 またまたたぶん、私の顔は真っ赤。

 第五階層探検はまだ続きます

          ◇

 それでは皆様、また。

          by Kuroe

【シリーズ主要登場人物】

●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。母は故ミドリ、父は公安庁所属の寺崎明。大陸に棲む炎竜ピイちゃんをペット化する。なお、母ミドリは、異世界で若返り、神隠しの少女として転生し、死神お爺様と一緒に、クロエたちを異世界にいざなった。

●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。妻は故・紅子。異世界の勇者にして死神でもある。

●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住みクロエに好意を寄せる。式神のような、電脳執事メフィストを従えている。ピアノはプロ級。

●瀬名武史/鈴木家顧問弁護士。クロエに好意を寄せる。守護天使・護法童子くんを従えている。

●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。魔法を使う瞬間、老女から少女に若返る。

●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。一つ目コウモリの使い魔ちゃんを従えている。

●審判三人娘/金の鯉、銀の鯉、未必の鯉の三姉妹で、浮遊ダンジョンの各階層の審判員たち。

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