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自作小説倶楽部 第19冊/2019年下半期(第109-114集)  作者: 自作小説倶楽部
第109集(2019年7月)/「川・海」&「車」
2/30

01 E・Grey 著  車 『公設秘書・少佐』

   //粗筋//

公設秘書佐伯祐が、婚約者である長野県月ノ輪村役場の三輪明菜を助手に、水野秘書官が閣僚である建設大臣・島村センセイの極秘文書を盗み、仮想敵国であるソヴィエトに亡命を図った。その陰謀を打ち砕くべく佐伯たちは奮闘する。

挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ 奄美剣星 「別府温泉」




     6 逆転 


 会長の別荘の応接室に、今回の事件関係者が一同に会した。

「犯行の動機といえば――」

佐伯がそう言いかけたときに、彼あての電話がかかってきた。受話器を受け取ったのは執事で、燕尾服を着た執事がうやうやしく佐伯に渡した。

電話の主は、容疑者である大臣秘書官の、建設省同期だった。

「ほう、秘書官には、母親が存命で、妻子もいると……」

 電話を切った佐伯が話を続けた。

「――いくら大金を得たとしても、将来も約束されている男が、家族まで捨てて亡命しますかね? ふつうは、しないでしょう?」

 会長が焦れた顔で佐伯に聞いた。

「それじゃ佐伯君、秘書官はシロというわけだね」

「もちろん、じゃあ犯行の動機を整理していきましょう」

 佐伯が煙草を一服しようとして、くわえた煙草をまた箱に戻した。そして、「これから失礼なことを言いますが、問題解決の通過点ですので、お許しください」

「まずは、センセイは、次の政界ポスト「大臣」を狙うのに失点になる。財界の会長さんの場合は、仮想敵国に情報が洩れると関連機関御用企業が損をすることになる。――というわけで、お二人は除外」

 佐伯はついついジャケットの煙草に手をやるのだが、また、我に返ってやめた。そんな彼に、会長の執事が、佐伯あての電話伝言メモを手渡した。佐伯はメモを読んでほくそ笑んだ。

「注目すべきは、麗しき次官さんだ。次官は学生時代、直接手を出していなかったが、学生闘争のとき、黒幕じゃないかという疑いがあった。も一つ、運転手さんは、ギャンブル癖があり、次官が借金を肩代わりしたことがあるという話を聞いている」

「運転手さんの件はおっしゃる通りだけど、私が学生闘争の黒幕だったという噂というのは初耳ね。不確実な憶測ってものじゃない?」 

 佐伯ははにかんでみせた。

「次官さん、ハンググライダーの航続距離ってね、ふつうは30キロ、長いものでも50キロメートルなんだ。100キロ先にある足利だと、何回か、どこかに着陸し、燃料を補給する必要がある。第一、ハングライダーは飛んでいるだけで目立つのに、目撃証言がいない。これは貴官のシナリオの初歩的なミスなんだよ」

「事件は、だいたいこんなストーリーだろう」と佐伯が言い、こう続けた。「途中のドライブインで、手洗いのため三島センセイ――建設大臣――が車を降り、次官が続いて降りる。次に大臣秘書官が下りて、直後、首を締めて殺害。遺体をトランクに隠す。トランクの中に次官の髪の毛が落ちていても、常に大臣と行動を共にしていたわけだから怪しまれることはない。――それで、運転手は、会長の別荘に大臣と次官・貴女を降ろしてから、急に行くと言ってガソリンスタンドに向かい、途中にある人気のない林道横の茂みに、遺体を埋めたというわけだ」

 佐伯のニコチンがついに切れた。中毒症状だ。別荘の主である会長と、三島センセイのお許しを頂いて、煙草を上手そうにふかした。

 長野県警は手回しよく、邸宅の外に警察隊を配備していた。センセイが窓の外の警官に合図すると、私服の警部が管轄署に無線連絡をしていた。恐らくは、裁判所に逮捕令状を要請しているのだろう。

     ☆

 犯行のシナリオを書いた次官と、実行犯の運転手は逮捕されると、あっさりと自白した。

 防衛庁・建設省が組んで、離島に自衛隊レーダー基地を建設する計画があった。学生時代、学園闘争の黒幕で〝革命〟をもくろんでいた次官は、時が成就すれば、ソビエト連邦の軍事介入をにらんで、レーダー基地の配置図を渡そうとした。――その配置図は、彼女の〝同志〟がソビエトの代理人と接触しようとしたとき、張り込んでいた警察によって、取り押さえられた。

     ☆

 九州・別府温泉――

 フロリダ・ロングビーチあたりにあるのを模したような、リゾート・ホテルを背にした砂浜に置かれた、日傘つきの折りたたみ椅子に、私たちは背もたれて、海を見ていた。

 今回の事件で、佐伯はこんなふうに、次官を評した。

「選挙で国民世論を味方につけ、堂々と政権を勝ち取ればいいだけのことだ。思い通りにならなけりゃ〝革命〟とかいって、与党支持者を粛正する。無差別大量殺人犯と変わらないじゃないか。〝革命〟というのは〝内戦〟だから当然、血が流れる。それを防ぐために選挙というものがある。まったく、頭のいい奴らは、ときどき、思考回路がショートするらしいな」

 頭のいい奴らは思考回路がショートする? 佐伯はどうなのだろう。

「あのね、祐さん、こないだ、私の胸と次官の胸とを見比べて、閃いたと言っていたでしょ? あれどういうこと?」

「僕は、君たちのオッパイの大小で、ハングライダーの燃料タンクの大小で、航続距離が変わることを思いついた。それで実際にどれくらい飛ぶのか気になって、専門家に電話してみたというわけだ……」


 オッパイ→ハングライダー燃料タンク→航続距離


 これを切り口に佐伯は謎解きをしたのだ。まったく、頭のいい奴の思考回路ときたら……。

 オリンピックの少し前まで海外旅行は制限されていた。そのため、新婚旅行の定番といえば別府温泉だったのだ。私と佐伯とは、旅行前に入籍した。

 佐伯は、「野心は男の甲斐性だ」と言った。そしてまた、「野心家にとっての挙式は、政界要人に顔を売るための政治ショーだ」とも言っている。これから物入りが予想されるので、私は、今回の旅行はなくてもいいと言ったのだけれども、例の会長さんが、特別ボーナスだと言って、飛行機とホテルを手配し、旅費までだしてくれたのだ。飛行機はファースト・クラス、ホテルはスィートルームだった。

 ホテルに戻ると大臣から電話が入った。

「明菜、センセイがまたお困りのご様子だ。東京へ戻るぞ」

「えーっ!」

 次の事件だ。

          了

  //登場人物//


【主要登場人物】

佐伯祐(さえき・ゆう)……身長180センチ、黒縁眼鏡をかけた、黒スーツの男。東京に住む長野県を選挙地盤にしている国会議員・島村センセイの公設秘書で、明晰な頭脳を買われ、公務のかたわら、警察に協力して幾多の事件を解決する。『少佐』と仇名されている。

三輪明菜(みわ・あきな)……無表情だったが、恋に目覚めて表情の特訓中。眼鏡美人。佐伯の婚約者。長野県月ノ輪村役場職員。事件では佐伯のサポート役で、眼鏡美人である。


【事件関係者】

●島村代議士……佐伯の上司で建設大臣、衆議院議員。センセイと呼ばれている。本事件の依頼者だ。

●岸本会長……某財団会長。島村センセイの学友。中軽井沢に広大な別荘を構えている。

●安田次官……建設省官僚。グラマラスな美女。

●水野秘書官……国務大臣秘書官。極秘文書を盗んで失踪したとされる。

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