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とりあえず主人公ぶっ殺します‼  作者: 水野アヤト
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「堕ちた者達編」 第二章 帰路(Ⅲ)

「ミーシャ!アイラに攻撃強化、クレアに防御強化を頼む!」

「はい、お兄様!」

「皆さん、どうか気を付けて⋯⋯⋯!」

 

 旅の道中に危険はつきものである。

ノイエハーゲンを目指して出発した、その二日後。シルヴァ達一行は、三体の魔族と交戦していた。


「私が一体片付ける!クレア、残り二体を抑えといて!」

「任せてくださいまし!さあ醜い魔族共、私の槍の前に跪きなさいな‼」


 昼間の街道を進んでいた、彼らの目の前に現れたのは、三体のオーガであった。

 オーガとは、人型の姿をした大型の魔族である。彼らの前に現れたオーガは、体長約五メートルほどであり、人間の大きさを軽く超えていた。三体とも性格は凶暴で、彼らの目の前に現れてすぐ、戦闘を仕掛けてきたのである。

 オーガ三体の目的は、シルヴァ達五人を仕留める事である。大型にして凶暴な魔族であるオーガは、食欲旺盛な肉食であり、自分達以外の他の生物を殺して喰らう。特に人間の肉は、オーガにとって最高に美味な御馳走であるため、腹を空かせたオーガが人を襲う事例は多い。彼らが襲われているのも、それが理由だった。

 

「行くわよ!消し炭にしてあげる、火炎(フレイム)竜巻(トルネード)!」


 街道で遭遇した三体のオーガ。その内の一体に対して、アイラは得意の炎魔法を放つ。彼女の声に応え、オーガの足下に魔法陣が展開され、オーガを囲むようにして炎が出現する。出現した炎は、オーガを囲んだまま高く舞い上がり、竜巻のように渦を巻いた。そして炎の渦は、中のオーガを焼き殺さんと襲い掛かった。

 炎に巻かれ、体を焼かれ、悲鳴を上げたオーガ。炎で相手を弱らせながら、アイラは次の攻撃の準備を始め、残りの二体が彼女の邪魔をしないよう、クレアは二体に突撃していく。二人の動きに合わせ、ミーシャは能力補助の魔法を発動し、アイラとクレアの能力を強化した。


「アイラさん、クレアさん!いつも通りお願いします!」

「ありがとうミーシャ!」

「感謝しますわミーシャさん!行きますわよ‼」


 アイラが次の攻撃を行なうため、得物である二本の剣を構える中、(ランス)を構えて突撃したクレアが、片方のオーガの体を刺し貫く。女子とは思えない突進力により、苦痛に呻くオークだったが、その大きく強靭な身体のお陰で、受けたダメージは小さかった。槍が突き刺さったまま、クレアに反撃するべく、オーガは拳を繰り出した。強靭な肉体から繰り出される、大きく力強いオーガの拳。当然、並の人間にこの拳が直撃したら最後、まず命はない。

 だが、彼女はオーガの拳から逃げなかった。オーガの身体から槍を引き抜く事も、回避行動に移る事もなく、槍の切っ先を突き刺したまま、その場を動こうとはしない。次の瞬間には、オーガの拳がクレアに直撃する。


「⋯⋯⋯この程度ですの?」


 彼女はオーガの拳を躱さず、左手で受け止めていた。岩をも砕くオーガの拳を、片手で容易く受け止めていたのである。

 今度はクレアの番であった。オーガの拳を左手で押し返し、得意の風魔法を至近距離で放つ。放たれた風魔法の強力な風圧で、巨大なオーガの身体が押し返され、地面に叩き付けられる。


「流石ミーシャさんの魔法、なんともないですわ」


 あの攻撃を簡単に防ぐ事ができたのは、ミーシャの補助魔法のお陰である。対象者に加護を与え、防御力を強化する魔法の力。ミーシャの魔法の力を信じていたからこそ、クレアは正面から相手の攻撃に受けて立ったのだ。

 槍に突かれ、自慢の拳は簡単に受け止められ、おまけに風魔法で吹っ飛ばされ、オーガの怒りは頂点に達した。クレアの思惑通り、二体のオーガは彼女に狙いを定める。二体相手に彼女が時間を稼いでいる中、アイラの攻撃が始まる。


「これで仕留める!はああああああああああああっ‼」


 炎に巻かれ、全身に大火傷を負ったオーガ目掛け、二本の剣を構えたアイラが駆け出した。刃に炎を纏わせ、真っ直ぐオーガ目掛けて駆けていき、オーガの眼前で高く飛び上がった。驚異的な跳躍力で高く飛び上がり、オーガの真上から落下していきながら、彼女は燃え盛る二本の剣を振り下ろしていく。


二本剣火炎斬(ツインソードフレイム)‼」


 頭から一刀両断しようと、アイラの剣がオーガの身体を切り裂いていく。オーガは頭から真っ二つに両断され、剣に纏っていた炎が、二つに分かれた身体に燃え移り、激しく燃え盛っていく。

 自身の剣術と炎魔法を掛け合わせた、彼女自慢の一撃が、まずは一体仕留めて見せる。これで残りは二体となり、前衛であるアイラとクレアによる、本格的な攻勢が始まった。


「クレア、一緒にやるわよ!」

「わかってますわ!ミーシャさん、支援魔法をお願いしますわ!」

「はい!お二人とも、気を付けて!」


 残り二体のオーガの内、槍で負傷させた一体に狙いを定め、アイラとクレアが同時に駆ける。残りの一体に対しては、二人の邪魔をさせないよう、詠唱を終えたミーシャの光の魔法が襲い掛かった。


「行きます!守護光球弾(ホーリーライトショット)!」


 ミーシャの周りに出現した、複数の光の球体。それは彼女の声に応え、弾かれるように一斉に動き出し、無傷のオーガへ目掛けて放たれた。光の球体は全てオーガに命中し、オーガの身体で爆発を起こす。爆発の衝撃によりダメージを受け、地面に膝を付いたオーガ。その隙に、アイラとクレアの連携攻撃が始まった。


「はあっ‼」

「せいっ‼」


 前衛二人の同時攻撃。アイラは剣に炎を纏わせ、剣を構えて駆け出し、クレアは風魔法の力を借り、突風の如き加速力を得て、槍による突進攻撃を行なう。

 オーガとの距離を一気に詰め、二人は強力な一撃を同時にぶつけた。クレアの槍は胸を刺し貫き、アイラの剣は首筋を切り裂く。


「吹っ飛びなさいな!」

「灰にしてあげる!」


 槍はオーガの心臓を貫き、二つの剣は動脈を切り裂いた。致命傷を与えた二人は、最後の仕上げを行なう。アイラは剣に纏わせていた炎を、両方ともオーガに向けて放ち、クレアは再び風魔法を発動して、オーガの身体を吹き飛ばした。

 突風の如き風魔法の力で吹き飛ばされながら、オーガの身体はアイラの炎魔法に巻かれ、激しく燃え上がっていく。致命傷を受け、念入りな止めの一撃まで受けたオーガは、最終的に燃え盛りながら地面に叩き付けられ、息絶えた。

 残りはあと一体。最後のオーガを仕留めるのは、前衛二人の役目ではなく、シルヴァの役目であった。


「黒き炎よ、その力で全ての魔を滅せ。黒炎(ダークフレイム)地獄(ヘル)(ドーム)!」


 アイラとクレアが戦っている間、シルヴァは一人、攻撃のための準備を行なっていた。魔力を練り上げた彼は、残った最後の一体に対して、必殺の一撃を放つ。

 詠唱を終えた彼の声に応え、オーガの足下に魔法陣が展開される。次の瞬間、魔法陣から黒き炎が出現し、オーガの身体を呑み込んでいった。黒煙はオーガを逃がさぬよう、大きな炎の籠となり、確実に相手の命を奪い去っていく。


「黒き炎に抱かれて眠れ」


 黒き炎で作られた地獄の籠。籠の中のオーガは、苦しみ悶えて悲鳴を上げる。しかしその悲鳴は、六つ数えた頃には静まり返った。やがて黒炎が消え去ると、そこにオーガの姿は存在しなかった。シルヴァの魔法は、あの巨大なオーガを、完全に消滅させてしまったのである。


「凄い⋯⋯⋯。あんな大きな魔物を消滅させるなんて⋯⋯⋯⋯」

「驚きましたかヒイロさん。あれがお兄様だけが持つ、特別な力なんです」


 三体のオーガを容易く倒した四人。特に、異様な力でオーガを消し去ったシルヴァに対して、ヒイロは驚愕していた。何故なら、彼の魔法はミーシャ達と全く異なる、異質な属性魔法であったからだ。


「あの黒い炎⋯⋯⋯。一体どんな力が?」

「お兄様の力は伝説の魔法、黒炎属性魔法です」

「そんな魔法が⋯⋯⋯。あんなに大きな魔族を簡単に消滅させてしまうなんて」

「黒炎属性魔法は、魔の存在を滅する究極の魔法です。相手がオーガであろうがドラゴンであろうが、お兄様の前では敵ではありません」


 自慢げにそう語って見せるミーシャの言葉に、興味と関心を示すヒイロ。オーガと遭遇してから、彼女はずっと四人の戦いぶりに興味津々であり、特にシルヴァの黒炎魔法に関しては、一番興味を抱いている様子であった。


「そんな強力な魔法が使えるなら、どうして最初から使わなかったんですか?」

「それは⋯⋯⋯」

「アイラさんとクレアさんが戦わなくても、シルヴァさんの魔法があれば、三体とも一瞬だったと思うのですが⋯⋯⋯」


 尤もな意見を口にしたヒイロだが、ミーシャの反応は妙であった。何かを隠すかのように口籠って、口を閉ざしてしまったのである。

 すると、疑問を抱くヒイロに答えようとして、シルヴァが口を開いた。


「俺の魔法は発動に時間が必要なんだ。魔力を練り上げてる間は、三人に守って貰わなくちゃならない」

「あれほどの力なら時間が掛かるのも納得です。発動時間以外は、弱点のなさそうな最強の魔法ですね」

「そうでもないさ。魔族相手には確かに強力な魔法だけど、この力は――――――」

「お兄様、お話はまた後にしませんか?周辺への警戒はまだ終わっていませんよ」


 説明を続けようとした彼の言葉を遮り、ミーシャは周辺警戒を促した。三体のオーガを倒した後とは言え、他の魔族の襲撃があるかもしれない。他に敵はいないか、安全を確認できるまで警戒するのは、当然の行動である。


「どうやら、他に敵はいないみたいね」

「そのようですわね。歯応えが無くてつまらないですわ」


 周辺警戒を行なった四人は、周りにこれ以上魔族が存在していない事を確認すると、それぞれの得物の構えを解き、平常へと戻る。

 苦戦もなく、相手を簡単に倒せてしまった事で、少し退屈気味のアイラとクレア。そんな二人の様子を見ていたシルヴァとミーシャは、彼女達を頼もしく感じつつも、少し呆れ気味であった。

 シルヴァの魔法は確かに強力だった。だが、他の三人も驚くべき強さである。属性魔法を操る、接近戦に長けた二人の前衛。それを支援する、強力な補助魔法を操る後衛。そして切り札は、圧倒的な力を持つ黒炎魔法。各個人の高い能力と、息の合った連携を武器とするこのパーティーに、弱点はない。非常に強いパーティーなのは、戦闘に参加していないヒイロの目から見ても間違いなかった。

 自分達が強い故に、武闘派とも言える前衛二人は、相手の実力に物足りなさを感じてしまっている。シルヴァとミーシャが呆れ気味な中、ヒイロは四人の実力に一層興味を持ち、瞳を輝かせていた。


「皆さん強くて本当に頼もしいです。道中どんな魔族が現れても、皆さんと一緒なら安心ですね!」

「まあ、シルヴァがいれば魔族相手に負ける気しないし、クレアもミーシャもいるもんね」

「魔族相手に負ける気がしないって、どういう事ですか?それじゃあまるで、魔族以外には敵わないみたいに聞こえます」

「そういう訳じゃないわ。こう見えてもシルヴァ、格闘術も相当なものなのよ」

「ならどうして?」

「それは、黒炎魔法が魔族にしか効かないからよ。だからシルヴァは、魔法学校でも劣等生扱いされてるの」


 アイラが口にした劣等生という言葉。その言葉に反応したのは、シルヴァ本人ではなくミーシャだった。余程その言葉が気に入らないのか、顔をしかめて唇を噛んでいる。


「魔法を使わない対人戦は十分強いし、魔族相手には敵なしなんだけど、魔導士になるためには人間同士の対魔法戦闘が出来なきゃいけない」

「でもシルヴァさんの黒炎属性魔法は、魔族にしか効果がない、人間には無害な魔法ですの」

「それが、劣等生と言われてしまう理由なんですね⋯⋯⋯」


 人間同士の対魔法戦闘ができない。ただそれだけの理由で、魔導士として十分過ぎる実力を持つ彼は、魔法学校内で劣等生と言われ続けている。魔法国家ノイエハーゲンの魔導士の基準では、対魔法戦ができない者を、魔導士にする事ができないのである。つまりシルヴァは、黒炎魔法という伝説の魔法が開花してしまったがために、魔導士への道が絶たれたも同然なのだ。

 シルヴァ本人はそれを承知で、劣等生と馬鹿にされながらも、第一魔法学校で魔導士を目指している。魔導士への道を諦めず、自分が評価される機会が訪れるのを信じ、こうして学生を続けている。

 

「仕方ないんだ。昔からの魔導士基準は簡単には変えられない」

「シルヴァさん、でもそれじゃあ⋯⋯⋯」

「魔導士を諦めたわけじゃない。人を攻撃できない、色々と弱点がある魔法だけど、いつの日かこれを完全に制御して、ノイエハーゲン最強の魔導士になるつもりだよ」


 強い決意を口にしたシルヴァ。彼の諦めない意志が口に出された中、ヒイロはある言葉が気になっていた。


「シルヴァさん。黒炎魔法には、時間が掛かる以外の弱点が他にもあるんですか?」

「えっ?ああ、それは――――――」

「お兄様、そろそろ出発しましょう。日が暮れる前に、先へ進んでおかないと」


 またしても、シルヴァの言葉をミーシャが遮る。彼女の言葉にはっとして、シルヴァは語り出そうとしていた言葉を呑み込んだ。するとアイラとクレアも、彼女の言葉で気付いたように口を閉ざす。

 四人は何かを隠している。それを察したヒイロは、それ以上黒炎魔法について質問する事はなく、シルヴァ達と共に、オーガと戦った地を後にした。


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