「堕ちた者達編」 第二章 帰路(Ⅱ)
次の日の朝から、シルヴァ達五人の行動が始まった。
宿を後にした五人は市場に繰り出し、旅支度を始めた一同は、それぞれ必要なものを買い集め、ノイエハーゲン目指して街を出発したのである。
市場で揃えた旅支度を背負い、一同は街道を進んでいた。市場で買い揃えたのは、食料の他に武器や便利なアイテム類である。道中どんな事態にも対処できるよう、準備は万全であった。
食料には限りがあるため、街道を進みながら、帰路の道中にある街々で食料類を補給し、母国ノイエハーゲンを目指すのである。課題を果たすのには一か月ほどかかったが、帰りは二、三週間ほどで到着できる。決して短い距離ではないため、道中の補給は必須であった。そうして街を巡っていきながら、安全にゆっくりと帰国する予定なのだ。
「ヒイロ、荷物重くないか?」
「大丈夫です。こう見えても私、意外と力持ちなんですよ」
旅はまだ始まったばかり。しかし、魔導士となるべく訓練を受けている四人と違い、ヒイロは貴族の娘である。旅に慣れているとは思えないため、旅の荷物を背負う彼女を心配し、傍に近寄ったシルヴァが声をかける。
彼に心配をかけまいと、ヒイロは笑って見せた。彼女の言う通り、荷物の重さなど平気な様子で、長い道のりを元気よく歩いていく。
「ちょっとシルヴァ。心配なのはわかるけど、ヒイロに近付き過ぎじゃない?」
「あらあら、アイラさん。もしかして妬き持ち焼いてらっしゃるの?」
「ちょっ、違うわよ!」
「アイラさんって、本当に素直じゃないですよね。まあそれは、クレアさんも同じですけど」
「そっ、それは!ミーシャさん、勘違いしないで下さいまし‼」
アイラもクレアもミーシャも、シルヴァの事を好いている。その事にシルヴァ自身は、まったく気付いていない。魔導士としての才能は一級品だが、彼は呆れるほど鈍感なのだ。
他人からの好意には鈍感なのだが、今彼は、ヒイロの事を気にかけ続けている。アイラが警戒するのも仕方がない。旅の仲間として気にかけているのではなく、異性として気にかけているのであれば、強敵の登場となってしまうからだ。
アイラも他の二人も、魔法学校では優秀な女子生徒であり、有名な美少女である。彼女達と行動を共にするシルヴァに、学園の男子生徒達からの猛烈な嫉妬が集中する程の、学園を代表する美少女なのだ。
だが、そんな三人が危機感を覚えるくらい、ヒイロは美少女なのである。ただの育ちの良い貴族のお嬢様ではない。男ならば息を呑んでしまう、魅惑の美しさを持つ少女である。実際シルヴァは、彼女を近くで見た瞬間、視線は彼女に釘付けとなり、息を呑んでいる。
「アイラ、どうかしたのか?」
「ふんっ!なんでもないわよ」
「?」
今日も鈍感全開なシルヴァに、アイラはツンっと顔を逸らした。いつもの事なので、クレアとミーシャは、二人の様子にやれやれといった顔をする。そんな中、四人の様子を見て、ヒイロは口元に手を当て、上品に笑っていた。
「ふふふっ⋯⋯⋯⋯。皆さん、本当に仲が良いんですね」
「そうかな?どういうわけか、俺のせいでみんなをすぐ怒らせるから、仲が良いのか悪いのか⋯⋯⋯⋯」
「こんなの、人を怒らせる内に入りませんよ。アイラさんはただツンデレなだけです」
「!」
ヒイロの発言は、アイラの性格を一発で見抜いていた。ストレートな彼女の発言は、ツンデレな性格を隠したいアイラを動揺させる。頬を真っ赤にさせるアイラを揶揄うように、彼女はさらに言葉を続けた。
「もっと素直になればいいのに、勿体無いですね」
「おっ、大きなお世話よ!」
四人と出会ってまだ日は浅いが、ヒイロはシルヴァと三人の関係性を察している。三人が彼を好いているのも、彼が鈍感である事も、既に見抜いていた。
「ヒイロさん⋯⋯⋯⋯、思っていたより注意が必要そうですわね」
「同意見です。お兄様と私達の関係、全部気付いているみたいですから」
「ヒイロさんがシルヴァさんを好きにでもなったら、厄介な強敵になりそうですわ」
道中会話を弾ませながら、シルヴァ達一行はノイエハーゲンへと向けて歩みを進める。帰国を目指す五人の旅は、女子三人にとってのライバル出現という事態以外、何も問題なく始まったのである。




