「堕ちた者達編」 第二章 帰路(Ⅰ)
第二章 帰路
ジャイアントスパイダーに襲われていた少女、ヒイロ・インを救ったシルヴァ達は、彼女を安全なところに連れていくため、草原を離れて近くの街へと足を運んだ。
街の宿に入り、シルヴァ達四人は、そこで今日の宿を取る事にした。部屋に集まった四人は、ここに来るまでに落ち着いたヒイロから、ようやく事情を聞いてみる事にした。シルヴァ達はまず、自分達の事を簡単に自己紹介し、次は彼女に事情を尋ねたのだった。
「私も、皆さんと同じくノイエハーゲンの生まれなんです。貴族のイン家と言えば、わかって頂けますか?」
「もしかして、南の地を治めるあのイン家ですか?」
「その通りです。訳あって他国に赴いていたのですが、その帰路であれに襲われてしまって⋯⋯⋯」
シルヴァ達の故郷である、魔法国家ノイエハーゲン。ヒイロの口にしたイン家というのは、南の地に確かに存在する貴族である。偶然にも彼らは、自国の貴族を助けたのだ。
「従者達は全員あの魔族に殺されました。たった一人生き残った私は必死で逃げ続け、運良く皆さんに助けられたというわけです」
「そう⋯⋯⋯、大変だったわね」
「貴女だけでも助けられて幸いでしたわ。散っていった従者の方々も、貴女が助かって本望だったと思いますの」
凶暴な魔族に襲われ、助かったのは彼女一人だけ。国へ帰る道程はまだ長いというのに、彼女は一人、この地で孤立してしまった事になる。それを察して、ミーシャはある提案を口にした。
「そうだ!ノイエハーゲンに戻るつもりなら、私達と一緒に帰りませんか?」
「そうだな。道中にどんな危険があるかわからないし、俺達と一緒にいた方が安全だ」
「いいんですか?私のせいで、皆さんにご迷惑をかけるわけには⋯⋯⋯」
「気にしないで。ミーシャもシルヴァも、困ってる人を放っておけないお人好しなのよ」
「それはアイラさんもですわ。もちろん、私もお助け致しますの」
シルヴァ達四人も、そしてヒイロも、帰る場所は同じである。それならば、一緒に国に帰らないかと、そうミーシャが提案した。ノイエハーゲンまでの道のりは長く、道中また魔族に襲われる危険は十分にある。だが、竜や大蜘蛛を倒せるシルヴァ達と一緒ならば、道中の安全は保障される。他意のない、純粋な親切心からくる彼らの提案を、拒否する選択はないと言えた。
「皆さんの親切心に感謝致します。皆さんの帰路の道中、御一緒させてください」
「決まりだな。今日はこの宿で休んで、出発の準備は明日にします。インさん、それでいいですか?」
「問題ありません。それから、私のことは名前で結構です。貴族の娘だからと、敬語を使う必要もありません」
「わかった。だったら、俺のことも名前で構わない。敬語もいらないから」
ヒイロが提案を受け入れた事で、四人は笑顔を浮かべ、彼女を温かく迎え入れた。彼らの帰路に、新たな仲間が加わった瞬間だった。
「ヒイロさん、私のことはミーシャと呼んでください」
「じゃあ私も、アイラって呼んでくれて構わないから」
「私のことも、どうぞクレアとお呼びくださいな」
自分を笑顔で迎え入れてくれた彼らに、ヒイロは微笑みを浮かべて見せた。それは、まるで宝石のような美しさを放つ、少女の尊い微笑みだった。
その後彼らは、明日以降の計画を簡単に話し合い、その日は宿のベッドで眠りについた。