「堕ちた者達編」 プロローグ
プロローグ
「こっ、ここは⋯⋯⋯⋯?」
眼を覚ました少年が見た光景は、薄暗い空間と、椅子のようなものに座らされた、自分の姿であった。先ほどまで彼は気を失っていたため、自分の身に何が起こったのか、まだよくわかっていない。
わかった事と言えば、ここが不気味な部屋であり、異様な臭いが漂っているという事だけだった。
「どうして、俺はこんな場所に⋯⋯⋯⋯?」
もっと状況を確認するため、脚に力を入れて立ち上がろうとするが、体は椅子から離れなかった。正確に言えば、離れる事ができなかったのだ。彼が自分の周りをよく確認すると、両手両足が鉄製の枷で拘束されており、動けないよう椅子に固定されていたのである。
これでようやく、彼は理解した。自分は何者かのせいで気を失い、逃げられないよう椅子に拘束され、この部屋に監禁されてしまったのだと⋯⋯⋯。
「そうだ⋯⋯⋯、あの時俺は⋯⋯⋯⋯!」
ぼんやりしていた頭が覚醒し、気を失う前までの記憶が蘇っていく。すると、そんな彼に応えるかのように、いつの間にか目の前に人影が現れていた。
この部屋の明かりは、低い天井に取り付けられた、ランプの明かりだけである。薄暗いこの部屋では、現れた人物の姿はよく見えない。その人物の顔も見えないが、彼にはわかる。
「どうしてだ!どうして君が⋯⋯⋯!?」
彼が必死に問いかけても、その人物は何も答えない。だが彼には、その人物が笑っているのが見えた。
そんな顔を見せた事はない。少なくとも彼は、その人物のそんな笑みを見るのは初めてだった。
その人物の笑みは、人とは思えない邪悪さに満ちていた。怪しく、そして醜い、悪魔のような微笑み。その笑みのせいで、一瞬で彼の背筋が凍り付き、言葉を失ってしまう。目の前に現れた得体のしれない化け物に、完全に恐怖してしまったのである。
「なんで君が⋯⋯⋯、こんな事を⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
恐怖した彼が吐き出した言葉は、絶望に染まる悲痛な心の叫びであった。
そんな彼の姿を見て、その人物は尚も邪悪な笑みを浮かべ続けた。それは、この光景を心の底から楽しんでいる、愉悦の気持ちの表れであった。
絶望した彼の身に、一体何があったのか?
事の始まりは、三週間ほど前まで遡る⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。