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迎えた退院の日


それから1週間後、退院の日はやってきたのだった。



病院で食べるご飯も悪くなかったし、

「神様がくれた休暇」をもう少し味わいたい気もしたけれど、

病院のベッド数には限りがあるし

それにもうそろそろ仕事に復帰しないとさすがに戻れなくなる。




「ずず…っ」



―…なんかきこえる。



「ずび…っ」



―…間違いなく空耳じゃない。

声、とはいえないけれど、最近よく聞き慣れた音色だ。



「……はぁ。普通そんなに泣かないでしょ」


「だ、だって…!」



この看護師、いや「伊藤さん」には本当にお世話になった。

つまらない話も聞いてくれたし、私の想像をかきたててくれるような質問もたくさんしてくれた。



「退院しないほうがよかった?」


「そんなこと…ないでずげどー…っ」


「面白いなーほんと」


「退院おめでどうございまずずずずず…」


「ありがとうございます」



お礼はきちんと言って、お世話になった病室を見渡す。

個室だったからか次第に物は増えて。


バッグの中は友人が差し入れてくれた雑誌やDVDでいっぱいになった。




「藤堂さん、退院までにこれなかったですね」



やっとおさまってきた涙をぬぐいながら、彼女が言った。



「そうだね、仕方ないね」


「絶対心配してると思うんです」


「うん、そうかもしれない」


「一週間後の式典?って、やっぱり三ツ又さん、行かれるんですか?」


「と、思ってる。今のところは」



伊藤あかねも、やはりあの招待状について気になっていたらしい。



「私、ちょっとだけ調べちゃったんです。藤堂さんのおうちのこと」


バツが悪そうに話し出した。


「最近、桜子さんのお父様が事故でお亡くなりになったみたいで…。ものすごく有名というわけではないんですけど、全国を渡り歩く音楽演奏家だったみたいです。あと…」


「多分ね、同じ情報持ってると思うよ」


「え?」


「私も調べたから」


「うそ」


「うん。気になって」



気にならないわけがない。


とはいっても私が気になったのは、

あの桜子という少女は先天的に歩けないのか、

なにか事故や病気があるのかというのが一番だったが。



そんなに多く検索できたわけではなかったが、

その中には、桜子という娘がいて、父の事故死に納得をしておらず

執事と共に真相を探っている、という情報も書かれていた。



「色々みても、それでも行くんですか?」



なるほど。

伊藤あかねは私を心配しているようだ。それもかなり。


そりゃそうか、とも思う。


車に轢かれてなんとか助かった命をずっと看病してくれてきた。

それをわざわざまた危険に向かっていこうとしているようにみえるのだろう。



「ただのパーティへの招待だよ。おいしいものたくさん食べられるかも」


「そうかもしれないですけど、そうじゃないかもしれないじゃないですか!」


「お見舞金もらえちゃうかも」


「それも確かに期待できなくはないですけど!でもでも…!」


「だって、気になるでしょ?」




このままじゃなにもわからないままだよ?


と、さらに問うと、


伊藤あかねはやっと黙った。




「さ、行かないと」



病室をでて、次にここへくる人間に譲らなければ。



「パーティーからちゃんと帰ってきたら」


「ん?」


「また入院しにきてください」


「なんだそれ」


「ふふ」




やっといつもの元気を取り戻したような彼女は、

私のDVDが死ぬほどつまった重すぎるバッグをひょいと持つと、

照れ隠しなのかスタスタと歩いていった。



「楽しかったなー」


思わずつぶやく。


「え?」


「ひとりごとー」



人生ではじめてだ。こんなに長く病院のお世話になったのは。

まさか車に轢かれるだなんて、思ってみなかった。



招待状を受け取ってからもずっと、病室で考えていたこと。


誰が、何の目的で、藤堂桜子を狙ったのか。


この招待状は、藤堂家から送られてきたものなのか。


そうだとしたら藤堂桜子の目的はなにか。


違うとしたら、なぜ関係のない私とまだ接点をもとうと思うのか。




宙へ放り出されているとき、

私へ向かって必死に手を伸ばしている藤堂桜子を確かに認識した。


とっさに、

「死んだらこの子が悲しむんだろうな」と思った。


だから頭だけは守った。

いや、それくらいしかできなかったけど、上出来だ。

私は今、生きているんだから。



13、14…いってても16くらいの年齢だろうなと思う。

そんな少女の命を狙うっていうのは、

一体どうなってるんだか。



昔から謎を解くのは好きで。


クラスで起きた些細な事件、

家族内での食べ物紛失バトル、

アルバイト先での盗難事件や

職場での秘密の三角関係を見抜くこと、等々。


気がつかなきゃいいのに、と思うほど

色んな情報が目に飛び込んでくるタイプで、苦労もしてきた。



「でもこれは今までと次元が違うって」



呆れたように自分に言うけれど、

もう遅い。


私は興味をもってしまった。


興味をもってしまったら最後、

自分でも自分をとめられないのは

もちろん私自身が一番よくわかっている。






「三ツ又さん、タクシーが」


「あ、うん。荷物ありがとう」


「はい」



気がつけばタクシーは目の前に滑り込んできていた。




「色々とお世話してくれてありがとう」


「いえ。三ツ又さんは神様に愛されてるから、きっと大丈夫ですよね」


「そうだといいんだけど」


「私もちゃんとお祈りしておきますから」


「ありがとう」



タクシーのドアが開く。



「三ツ又さん!パーティーでまた病院送りにされないように!」


「わかってる、また顔だしにくるから」


「はい!無傷歓迎です!」





――バン――





タクシーの扉が閉まり、動き出した。



運転手に自宅の住所を告げ、窓から伊藤あかねをみると

まだ車に向かってぶんぶんと手をふっていた。





「ほんと、おもしろい子だったなー…」





病院を舞台にしたホラー映画を鑑賞中に巡回にきてしまった時には、

病院中に響くほどの悲鳴をあげて怒られていた。


私に届いたさくらんぼの差し入れなのに、

嬉しそうに包装を解き、私より先に口にいれる姿には

思わず笑ってしまった。



そう。

病院では、ほぼ伊藤あかねという看護師としか接触がなかった。

個室だからなのか。

事情が事情だからなのか。


お金の問題もあるから大部屋に移りたいといったときも、

個室が空いているから大部屋と同じ料金でいいと即答したのは

伊藤あかね。


目が覚めて一番最初に現れたのも。


見送りも。


招待状をもってきたのも。

















―伊藤あかねが招待状を書いた可能性 10%―
















「違っててほしいけどね……」




タクシーは順調に自宅へ向かっていた。








少しずつですが更新をしていきます。

感想をなど頂けますと、とっても励みになります。

誤字脱字などもどんどんご指摘をおねがいします。

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