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招待状


私は強く全身を打ったらしいが、

特に後遺症や痛みを引きずるようなことはなかった。



「本当に神様のおかげです!」


「そうかな」


「そうですよ!三ツ又さんは神様に守られてるんです!」


「でも轢かれたよ?」


「だから!それも神様がくれた休暇なんですっ」



目を覚ましてから約一週間が経った。


私を担当してくれているこの看護師の女性とも

相当仲良くなったと思う。




最初は遠慮がちだった彼女、伊藤あかねという看護師は

目覚めて3日を過ぎてからはよく私の個室に話をしにくるようになった。


最初は私の様子を診に来てくれているのかと思ったが、

おそらくそれだけではないだろう。


比較的年齢の近い私との「おしゃべり」を

仕事の合間の楽しみと思ってくれているのかもしれない、

そう感じることが多くなった。



「そういえば!」



急に目の前の彼女が大きな声をだした。



「これこれ!届いてました!」



じゃーん、と音がなりそうな勢いで

ポケットから一通の手紙をだす。



「藤堂さんからですよ!」


「藤堂…?」


「あ、ほら、あの車椅子の…」


「ああ、あの子、藤堂って苗字なんだ」



お金持ちにありそうな名前だな、なんて思う。

私なんて三ツ又だぞ。

世の中二股ですら問題になる時代に、三ツ又って。


「三ツ又薫」という名前はどうやら一度聞いたら忘れないらしい。

というのも名前を忘れられたことがない。

しらない人に呼ばれるときも、だいたいフルネームで呼ばれる。


悪いことできないんだよなぁ、と子供のころから感じていた。



「藤堂さん、三ツ又さんの退院までにもう一度これますかね?」


「うーん、どうだろうねー…」




適当な相槌をしながら受け取った手紙を広げる。




予想に反して、それはパソコンで作成された文書、

いや、招待状のようなものだった。



「6月4日、午後1時半…」

「命の恩人のあなたにお礼をさせて頂きたい…」



読み進めていくと、二週間後の日付、そして場所の指定が記されていた。



「なんて書いてありました?」


「招待状、なのかな、たぶん」


「招待状!?」


「そ。なんか家で式典やるって言ってたんでしょ?それじゃない?」


「お、お金持ちの考えることってわからない……」



目の前で看護師の伊藤あかねは頭にハテナを浮かべているようだった。



正直私もわからないけど。




でもきっと。




「ワケアリなんじゃない?」




ワケアリじゃないわけない。


車椅子の少女に執事、平和な平日の朝に命を狙われるなんて

普通じゃありえない。




この一週間の間に警察からも話をきいたが、

あの子を押した犯人はまだ見つからないらしい。



そんなことも、普通じゃありえないだろ、と思う。



あれだけの人がいて、

私も含めて、なんでそんなに「ソイツ」を覚えていないのか。


「ソイツ」から溢れる「悪意」まで感じたのに、

だからこそ危険を感じて飛び出したのに。


私は「ソイツ」が男か女かも覚えていない。


服装も、体型も、持物も、何もかも思い出せない。




こんなことってあるのだろうか?




「三ツ又さん、怖くないんですか?」


「え?」


「だって、これ書いたの犯人かもしれないじゃないですか!行ったら口封じだーとかいって、こ、こ、殺されちゃうかもしれないです!ダメです絶対!行っちゃダメですよ!」




その発想はなかったとはいえない。


けれど、口封じだとすればもうとっくの間に殺されていると思う。


なんせここは病院とはいえ、特別病棟なんかじゃない。


だれもが入れる個室病室。


犯人がはいってきたら、私は一発でやられると思う。




「多分、犯人じゃないよ」


「本当に?」


「80%くらい」




確証が持てるわけではない。

けれど違うとは思う。


それに、恐らく犯人は

口封じよりも先にやりたいことがあるはずだ。



藤堂桜子の殺害という目的が。




「三ツ又さん、これ、行くんですか…?」


「呼ばれたんだから、行かなくちゃ」




目の前で愉快な看護師がぎゃあぎゃあと騒ぎ立てている。


危ない、だの

思うツボだ、だの

一緒にいく、だの。



「伊藤さん招待されてないよ」


「お金持ちは優しいって聞きました!」


「ずいぶん都合がいい解釈だね」




この招待状が意味するものはなんなのか。

指定の時間、その場所で、

藤堂桜子が私にみせたいものとはなんなのか。


この病室ではなく、その場所で。わざわざ。





面白くなってきた――…





無機質な招待状を眺めながら、

脳が喜び、血液の温度が上昇していくような感覚を

確かに感じていた。





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