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96.恋募

「うー……。」


ハーネスが、『ケンイチバイルバンカーエディション』を嬉しそうに持っているブラウを憎々しげに見ていた。

結局、俺の顔は教えて貰えなかったらしい。

そりゃそうだよな、今の俺の顔を説明するのは、もはや既存の言語では不可能だ。なんかこう……もっと新しい表現がいる。


「見てくださいケンイチさん!これ打ち出した槍が収納できますよ!」


「どういう技術なんだそれ……?」


ブラウは部屋の隅っこで俺に背を向けてぬいぐるみで遊んでいた。

しかし、なぜかハーネスがそれを見ながら変にソワソワしている。


「……ブラウ、頭の横に付いてるピンを引っ張ってみて。」


「え?これですか?えい!……なんですかこれはぁぁぁ!?」


ブラウが叫んだ。

背を向けていて俺には見えないが、まだ新しい機能が眠っていたらしい。

ハーネスが物凄いにまにましながら横目で俺を見てくる。

……気になるな。


「ブラウ、どういう機能があったんだ?」


「……るんです。」


「え?」


「ピンを引くと、左手の剣を振るんですっ……!」


……なんだそのムダ機能。

しかしブラウはぬいぐるみに夢中になっていた。

……なんか悔しいんだけど、あのクソ人形め……!本物の力を見せつけてやるぞ!

俺は魔力変質で剣を形成し手に持ち、スイングした。


「おーいブラウ!ほら見ろ!本物の俺が剣を振っているぞ!」


「そうですか!それより見てください!ぬいぐるみのケンイチさんが剣を振っていますよ!ほら、しゅば!って!」


ーー俺は敗北の悔しさに膝から崩れ落ちた。

嘘だろ……この二ヶ月間で結んだ友情は、ぽっと出のぬいぐるみに、負けるのか?


「だ、大丈夫か?ケンイチ。」


「お前が!お前があんな物作るからぁぁぁ!」


「うわぁぁぁ!?」


俺はハーネスの肩を掴みを揺さぶった。

何がバイルバンカーエディションだ!大体なんだよピンを引くと剣を振るって!昔タカラ○ミー製のおもちゃでそう言うのあったぞ!今関係ないけど!


「えっ、あっ、ちょっ……け、ケンイチ、手が、むむ、胸に、当たってる……!」


「あっ、すまん。」


俺は咄嗟に手を引いた。

……全然さわった感じしなかったんだけど。

鎧のせいで感覚鈍ってるのもあると思うけど、なんか

若干手が沈んだかな?ぐらいだった。

もしかして貧にゅ……いや、やめておこう。と言うかこいつエルフだからこれ以上成長しないのか……?


「かわいそうに……。」


「そ、そんな目で見るなばかぁ!」


ハーネスは涙声でそう言った後、藁にうずくまってしまった。

……あ、流石に悪いことしたかもな。


「でも……は、初めて……触られた……ふ、ふふ……初めて、初めてを、ふふふ……!」


……本人が嬉しそうだから良いか。

そこまで致命的なまでに揉んだ分けじゃないし。


「……ケンイチさん。」


「どうした?」


ブラウが、ふるふる震えながらこちらを振り返った。

手元に握られていたぬいぐるみを見ると……首がもげていた。

……まあ、そうなるか、ブラウの力にあそこまで耐えたのを誉めるべきだろう。


「え……?」


ハーネスが目を見開き、首がもげたぬいぐるみに目線を落とした。

表情はショックを通り越してなんかもう死にそうな顔になっている。


「ご、ごめんなさいハーネスさん……。」


「バイルバンカーはストックが3つしか無いのに……うう……。」


いや3個あんのかよ。1つぐらい良くないか?

でも剣を振るギミックとかの都合で手間がかかっているのかもしれない。


「因みにそれの作成時間は?」


「……3日。」


こいつ普通のは三時間で作れるらしいから、これはかなり長いだろう。

分かりやすく言うと、夏休みにゲームで3日掛けてやっと出したレアアイテムが消えたみたいな感じか?うわぁ……大分キツいな、俺だったら最低半日は感情を失うぞ。


「あー、残念だなー……悲しいなー。なんかお詫びが欲しいなー。」


こちらを露骨にチラチラ見ながらハーネスがそう言った。


「……何が欲しい?」


「……えと、今日、もう暗いから……あの、その、」


ハーネスは顔を真っ赤にしながらごにょごにょしている。

なんだ、まさか俺にコンクリ流し込んで人形作るのか。多分流石に死ぬぞ俺。


「き、きょう、と、泊まって、も、良い?」


絞り出す様なか細い声で、ハーネスはそう言った。

あ、そんな事か。

おーけー、おーけー、仮にこいつがグラマスなお姉さんだったら俺は凍死してでも断るか外で寝るが、ちんちくりんだから問題ない。


「良いぞ。」


「え……いい、の?気持ち悪く、ない……?」


……この世界の美的センスは良く分からないけど、俺の顔を見た後だったらこいつなんて天使みたいなもんだろ。

実際、前の世界だったら考えられないぐらい美形だし。


「大丈夫だ。今日は藁が冷えてて気持ちいいぞ。」


「……うん、ありがとう……。」


「あ、ハーネスさん泊まっていくんですか?ケンイチさんイビキ凄いので気を付けてくださいね!」


まじか、俺ってイビキ掻いてるのか?嘘だろ……。

確かイビキでかい人って睡眠時に呼吸できてないんだっけ、不安だ……。

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新作はじめました。 現代日本で騎士の怪物になってしまった男の物語です。 貌無し騎士は日本を守りたい!
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