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95.ファングッズ

「お、落ち着け、ハーネス。」


俺はびくびくしながら家に入った。

ハーネスの目線がスーっとこちらに滑ってきて、俺を捉えた瞬間うっとりと嬉しそうに歪んだ。


「け、ケンイチさん!なんで帰ってきてくれなかっだんでずがぁぁぁ!怖かったですよぉぉぉ!」


泣き叫びながら、ブラウが俺の後ろに隠れた。

お、おいバカ!俺が死ぬぞ!


「おかえりなさいケンイチ。座りなよ?」


ハーネスは藁の上に正座し、自分の横をぽんぽん、と叩いた。

も、もしかしてこれ、口調からしてヤバイ方のハーネスか?


「お、おう。と、とりあえず、お前じゃないハーネスと話をしたいから代わってくれないか?」


ここだけ聞くと中二病……こんなこと考えてる場合じゃないな。

恐る恐るハーネス(仮)の顔を見ると眉がひそめられ、怒ってる様な、泣いている様な表情に変わっていた。

な、なんかマズイ発言したか……?


「……どうして?私が本当のハーネスだよ。」


「え……?」


「あなたが知ってる方が偽物、あっちが紛い物なの。私が、ハーネスなの。」


自分の胸に手を当てながら、訴える様にハーネスが言った。

ど、どう言うことだ?良くわからないってばよ……。

つまりいつものハーネスが偽物で、こっちが本物……ええ……?偽物とか本物とかあるの?こいつはブランド物のバッグなの?


(ケンイチさん!前も見ましたけどあの人誰なんですか!?状況が全く分からないんですけど!あと怖い!)


(俺もだよ……!)


ブラウとひそひそ話しながら様子を伺っていると、ハーネスは急に目を見開き固まった後、力を失った様に項垂れた。……ん?このパターンは……。


「……あれ、ケンイチ帰ってきてたのか。」


再び頭を上げたハーネスがきょとんとした顔をしてそう言った。

はぁぁぁ!助かった!安全な方のハーネスだ!


「会いたかったぞぉぉぉ!ハーネス!」


「あ、え……そ、そうか?ふ、ふふ……ってそうだ!魔族が!」


ハーネスはブラウを指差し、叫んだ。


「あれは私の召喚獣だ。問題ない。」


「……あ、そう言えばこの前も言ってたっけ……あ、あの、どうも……魔族、さん?さっきは失礼しました……」


おどおどしながら、ハーネスが手を差し出す。

ブラウも少し恐がりながら、その手を取った。

おお……すげぇ……!ブラウと人間が握手してるよ。


「ぶ、ブラウです。よろしくお願いします……。」


「ブラウ、さんですか……。わ、儂はハーネスです……申し遅れました……ごめんなさい。許してください……」


二人とも挨拶こそしたが、なんか新卒サラリーマンの名刺交換みたいになってしまっている。

気まずいな……よし、俺が爆笑ギャグを言って、場を盛り上げてやろう!


「ハーネス!ブラウで分かりにくい時は、ブラザーって呼んで良いぞ!ははは!」


ーー場が、凍りつくのを感じた。


あ……俺にギャグセンス皆無なの忘れてた……。

二人は一瞬ポカンとした後、余計気まずそうな顔になり……


「お、面白いぞ、ケンイチ!なんか、こう、面白かった!」


「そ、そうですよケンイチさん、スベってなんかいませんよ!」


苦笑いしながら、俺を励ましてきた。

ああ……変に優しくされるのが一番きついんだよ……。


「あ……そう言えば……見てもらいたい物があるんだけど……」


ハーネスはそう言いながら、持っていたカバンをガサゴソしだした。

なんだ?食い物だといいな。


「ど、どうだ?これ……裁縫で作ったんだ。」


差し出されたハーネス手の平には、可愛くデフォルメされた騎士のぬいぐるみがちょこんと座っていた。

……これ、俺か?


「……一応聞くけど、なんだこれ。俺じゃないよな?」


「え、う……やっぱり、気持ち悪かったか……?喜んでくれると思って作ったんだけど……。」


俺が若干引いてるのに気が付いたのか、ハーネスがおどおどしだした。

いや……気持ち悪い悪くない以前に、クオリティの高さにびっくりしてんだけど。

アニ○イトとかに千円で売ってたら多分買うぞ俺。


「……ちなみにこれ、作るのにどのぐらい掛かったんだ。」


「ええっと……一つにつき三時間ぐらい……?」


三時間……と言うか、その口ぶりだと複数個作ったみたいに聞こえるんですが。


「……何個作った?」


俺は恐る恐る、そう口にした。


「……聞いても、怒らない?」


「ああ。」


ハーネスは俯きながら、ゆっくりと指を2本立てた。

な、なんだ、たったの2体か、持ち出し用と予備って感じか?

良かった……それならまだ救い様がーー


「に、二百体……。」


二百体!?なんだそれ、こいつは業者か何かか!?


「そんなに同じの作って意味無いだろ!?」


「だ、大丈夫!指人形と等身大も作ってあるから!」


そう言う問題じゃ無いんだよぉぉぉ……!

大体なんだ!?等身大って!こいつの家には190センチの騎士の縫いぐるみが複数体あるのか!?

怖いわ!それもう他人から見たらただの死体遺棄にしか見えないからぁ!

はぁ……はぁ……はぁ……声に出してないのに疲れた……。


「……あの、ハーネスさん。それ……一つ、私にくれませんか?」


ぬいぐるみをじーっと見詰めていたブラウが、ぼそっとそう言った。

うっそだろお前、ここに本物がいるんですけど!ちょっとぬいぐるみに嫉妬するわ!


「……分かるのか、これの良さが……!?」


「はい……!」


ハーネスとブラウが、今度こそ固い握手を交わした。

仲良くなってる……一応、結果オーライなのか?


「どれが良い!?今持ってきてるのは、『おすわりケンイチ』『流し目ケンイチ』『落とし穴に落ちたケンイチ』だぞ!」


なんだこれ(直球)

流し目とかした覚え無いんだけど。と言うか需要が行方不明すぎるだろ。


「こ、この、『バイルバンカーエディション』と言うのは……?」


「それを渡すには、相応の対価が必要……」


「……ケンイチさんの鎧の下ってどうなってると思います?」


「え……お、教えて!教えてよ!」


「ブツが先ですよ……!」


俺は騒いでいる二人を、遠巻きに見ていた。

……普通にクオリティ高いから、俺も一個ぐらい欲しくなってきたな……。

折角だから、『おすわりケンイチ』を貰おう。


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新作はじめました。 現代日本で騎士の怪物になってしまった男の物語です。 貌無し騎士は日本を守りたい!
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