94.帰還
5時間ほど馬車を走らせ、俺達はやっと村が遠くに見える所まで来ていた。
「……ケンイチ、申し訳ないんだけど……その分の金は払うからスノーワームはこっちに譲ってくれないか?当然報酬もそっちに全部渡す。」
キンジがバツの悪そうな顔でそう言った。
いや……金貰っても使い道無いんだよ……あ、グルットに貸してもらったハルバードの弁償しなきゃいけないのか。
でも正直俺もほとんどなにもしてないし……とりあえず、等分で貰おう。
「いや、全員で等分で良い。」
「え……でも……腹とか腕の傷の治療とか大丈夫なのか?腕に関しては千切れた様に見えたんだけど」
「傷は治った。腕は……生えた。」
「ごめんちょっと何言ってるか分からないよ……でも、そう言ってくれるなら甘えさせて貰う、ギールを医者に見せに行かないといけないから金が足りなかったんだ。」
ギールはまだ目を覚ましていない。
変な方向に曲がった腕を固定したり、恐らくヒビが入っている背中の骨とかは応急処置したが、かなり重症だ。
看病していたアンリが横で寝息を立てている。
「これ、報酬の金貨5枚だ。グルットさんのために持ってきたけど、ケンイチに払うなら足りないぐらいだよ。」
キンジは俺に金色のコインを5枚渡した。
おお……!この世界に来てから初めて金に触ったな、なんか感動する。
それから少しして、馬車は止まり俺は村に降りた。
キンジ達はギールを医者に見せに行くために、そのまま帰るらしい。
「じゃあなー!ケンイチ!俺達にできそうな駆除の仕事とか合ったら呼んでくれ!タダでやるよ!」
「あっ、さよならケンイチさん!また依頼とかでお会いししましょう!」
俺は小さくなっていく馬車に手を振り、村に振り返る。
……あれ、なんか騒がしいぞ。
村の門の方面を見ると、誰かがエイギルフォックスと戦っていた、しかも若干劣勢っぽい。
村人達がその周りで見守っている。
「ねーグルットさん、あの人弱くない?騎士様なら一撃だったよ?」
「あいつも弱くはないんだけどなぁ……まぁ、ヤバかったら俺が助けに入るから大丈夫だ。」
あれ……戦ってるの、さっき俺の腕切り飛ばした奴じゃないか?
俺が壊したから使っているのはサーベルではないが、顔は見覚えがある。
「どうしたんだ?」
俺は後ろからグルットに話しかけた。
「おお帰ってきたのか。随分速かったな。なんかアイツが寒さで凍えながら、『この村の用心棒になってやる!だから食い物と服をよこせ!』って上から目線で言ってきてムカついたから、用心棒の試験だって言って魔物と戦わせてるんだ。」
グルットが笑いながら答えた。
あいつ多分ハルメアスに追放されて王都に帰れないから、この村に居着こうと思ったんだな。
だが甘い。ここの治安の悪さナメるなよ。俺の経験では1月の間だけで、変な騎士に燃やされた後に頭をクロスボウで貫かれたり、謎の竜神に柵をねじ曲げられた末、人魂飛ばす狐から頻繁に襲撃されるんだぞ!そしてもっとヤバイ魔境が向かいに有るんだぞ!
少なくともウサギの護衛と再生能力は欲しい所だ。
「あぶぁっ!?」
あ、負けた。
すかさずグルットが助けに入り、槍でエイギルフォックスの頭部を貫き絶命させた。
「どうだ、『用心棒』とやらは勤まりそうか?」
「う、うるせぇ!まともな武器があればこんな奴……ああくそ!おい!そこのボロボロな騎士!ムカつくから見んじゃねぇ!」
男は俺に怒鳴る。
こいつも災難だな、何回騎士に酷い目に会わされてるんだ。
俺はなんとなく申し訳なくなって、そそくさと森へと逃げた。
そのまま家へと歩く。
あ、グルットに金わたすの忘れてたな……まあ今度でいいか。よし、家に着いた、
俺はドアを開く。
「うわぁぁぁ!?ファイアー!」
「暖風ですかね?あの、もっとお水が欲しいんですけど」
「アース!」
「岩盤浴ですか?それより水を……」
「ウォーター!」
「ひゃっはぁぁぁ!」
「ひぃぃぃ!?」
家の中で、ブラウとハーネスがなんか楽しそうな事をやっていた。
俺はそっとドアを閉める。
……なにやってんだあいつら。 家の中が岩と水と火でカオスになってたんですけど。しかもなんだ『ひゃっはぁぁぁ!』って、ふな○しーかよ。
「はぁ……」
俺は意を決して、もう一度ドアを開けた。
「ねぇ、なんであなたはここに居たの?誰の許可を得たの、畜生なんかがあの人の住居を汚していいと思ってるのか、不思議で仕方がないなぁ……ねえ、何か言いなよ。返答次第で私はあなたをずたぼろにしないといけないの。ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、」
「ひぃぃぃ……!」
攻守逆転していた。
ハーネスの目からハイライトが消え、代わりに右手から冷気が溢れ出ている。
完全に入るタイミング失った……さっきはともかく、今割り込んだら俺が愉快な氷像になる未来しか見えないぞ。