87.【ブックマーク300記念】最弱勇者の異世界生活.前編(side高星清太)
ーーどうして俺ばかり
「ぎゃははは!マジできめぇ!おい動くんじゃねぇ!ぶち殺すぞ!」
「ちょっ、顔はヤバくねぇ?」
「いや、アレがあるだろ。どうせ先公にはチクれねぇよ!」
放課後の校庭で、3人の不良のガスガンが俺の頬の肉を抉り、出血させた。
俺の頬には油性マジックで的が書かれており、ズタズタになった顔の中でも頬が特に痛い。
「だーかーらぁ……マトが動いてんじゃねぇ!いまは初級モードだろぉ?」
BB弾が右目に当り、視界が少し赤くなった。
……こいつらは『人間にガスガンを撃ってはいけない』なんていう最低限の常識さえも知らないのだろうか。
……いや、違うか。俺の事を人間として見ていないから、こうも愉しそうに踏みにじれるのか。
「あーあ、お前のせいでシラけちまったわ。帰ろうぜ。……あ、高星くぅん、この写真の事、忘れてないよね?俺のさじ加減で君はいつでも社会的に死ぬんだからねぇ?チクんなよ?」
不良が持ったスマホには、数人に押さえ付けられながら局部を露出させられた俺の姿があった。
……こいつの人脈を使えば、簡単に100人規模で俺の性器の画像が出回ると、そう言っているのだ。
この呪縛のせいで俺は転校も、不登校になる事さえも出来ない。
この学校にもう俺の味方は居ない。
友人は皆、不良から助けてやった奴でさえ、俺がこいつのターゲットになってから離れていった。
その時、やっと理解した。人は自分の愉悦と安全を第一に考える、醜い生命体なのだと。
善性の無い、この世で唯一の悪魔なのだと。
そして俺の人生は、こいつらの暇潰しによって消し飛ぶ事を。
悔しい、悔しい悔しい悔しい。……畜生が。
こんな事になるんだったら人助けなんてするんじゃなかった……!
「お、お、おい、辞めろよ……!」
……なんだ?
俯いていた顔を上げると、そこには拳をぎゅっと握り、怯えた顔で不良達と対峙している、一人の男子生徒がいた。
あいつは……たしか、斎藤建一とか言ったか。特に面識は無いはずだ。
俺よりマシだが、学校での地位は中の下程度、一体何しに来たんだ?
「あ?誰だてめえ」
「あ、あの、別に、別にチクろうとしてる訳じゃ無いんだけど、イジメとか、良くないとおも、思います。」
吃りながら、しかし目を背けずに斎藤はそう言い放った。
は……?なんだこいつ、もしかして、助けに来たのか?
訳がわからない、何故面識さえ無い奴を助けに来る?
「お前も俺に殺されてぇのか?」
不良が、斎藤に近づいた。
「おおう……学生の放つ言葉とは思えない……いや、ほんと、すいません……と!見せ掛けてお手元のスマホにキィィィック!」
頭を下げた様に見えた斎藤から放たれた蹴りが、不良の携帯を的確に吹っ飛ばし、後ろの池にぽちゃん、と音を立てて落ちた。
え、何やってんだこいつ。
「あぁぁ!?てっ、てめっ、はぁ!?弁償だぞお前!あとぶち殺す!」
「はっ!生憎俺は月の小遣いワンコイン勢なんでね!さっきファミチキ買ったから今は一文無しさ!いてぇ!」
「……ふっ。」
不良に袋叩きにされている斎藤を見て、自分が何時振りかの笑みを溢している事に気が付いた。
本当に、訳が分からない。
……だけど、少しだけ人間に、人生に希望を持てた。
と言うかなんでスマホを蹴ったんだ?……もしかして、俺の写真、消すために?
「は、ははは……!」
本当に、本当に、頭がおかしい。
なのに、その行動は確実に俺を救ってくれた。
……もしかすれば、こいつとなら、本当の友達、なんて物になれるのかもしれない。
◆◇◆
「はぁ、はぁっ!ぺっ!ぺっ!アイツらマジでしつこいな!俺が受け身の達人じゃなかったら死んでたぞ!」
三十分ほど斎藤に暴行を加えた不良たちは、ずっとヘラヘラしている斎藤に呆れた様子で、原チャリを飛ばして何処かに行ってしまった。
「高星、帰ろうぜ。」
一通り不良達への不満を発露し、俺に向き直り傷だらけの笑顔で斎藤はそう言った。
「……なんで、」
「ん?」
「なんで、俺なんかを助けた?お前には何の得も無いのに……」
斎藤は少し考える顔をしていたが、少しして口を開いた。
「別に、ただの親切だ。お前だって横で鼻血出してる奴居たらティッシュ貸すだろ?それとおんなじ。」
「は……?」
ーーその時、初めて俺は知ったんだ。
この世に、義務感でも正義感でもない『掛け値無しの善意』なんて言う特大の御伽噺が確かに実在することを。
そして、その馬鹿げた御伽噺を実行する化物が目の前に居る事を。
「……うん、帰るか、斎藤。」
「ああ、ゲーセン寄ってく?最近スマホゲーのせいでアーケード死にかけてるから俺達で復興しようぜ。」
「いや、無理だろ。」
斎藤と俺は、夕闇の染めるアスファルトを自転車でこぎだした。
俺は……こいつみたいにはきっと成れない。
だけど、その在り方をかっこいいなんて思ってしまったんだ。
だから俺はーー
◆◇◆
「こ、こは……?」
授業中突然教室が光で満たされ、次に目を開けると、そこはきらびやかな装飾の施された城の様だった。
……何が起こった?
「אמיץ לנו。」
玉座に座った王らしき壮年の男が、俺には聞き取れない言語で何かを言っている。
何処だ、ここ。