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86.万能人間

キャンプから少し離れた場所で、俺とキンジはうろついていた。

魔物の気配はあるが、こちらに気付いていないのか襲ってくる気配は無い。


「あー、寒い。……そういやケンイチってさ、魔物と戦ったりしたことあるのか?」


キンジが手袋を装着しながら言ってきた。


「あるぞ。」


「おお……!やっぱそうなのか!ほら、俺って今まで王都から出たことないから、家畜とねずみ以外の魔物を見たことが無いんだよ。どんなのと戦った事があるんだ!?」


キンジが興奮した様子で聞いてきた。


「そうだな……狼とか狐とか、あとは熊だな」


今思ったけど、字面だけだと肉体派のリアクション芸人みたいな事してるな、俺。


「すげぇ!あ、お礼に俺のネズミ退治の話も……あれ、なんか聞こえないか?」


ん?

……耳を澄ますと近くの雪を被った茂みが、僅かに震動している事に気が付いた。

な、なんだ?ここまで接近されて気付かないとは、俺も油断してたみたいだ。

なんか俺、森の外に出てから、と言うか文明に触れる度に弱くなってないか?

とりあえず、茂みに『観察』を使ってみた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

【『スノーパウンド』ランクD】


【足裏に付いた強摩擦の毛皮がスパイク代わりとなり、氷上を疾走する。】

【毛皮は魔力を散らす上に防刃性があるため、打ち倒したくば肉弾戦を仕掛けるしかない。】

ーーーーーーーーーーーーーーーー


「ひっ……!」


「なんだ、犬か。」


がしっ、


「ばうっ?」


俺はスノーパウンドの頭をひっ掴み、思いきり近くの木に叩き付けた。

頭蓋が爆散して脳漿を撒き散らし、木の上から大量の雪が落ちてくる。

俺は雪に血と肉を拭い、死体を持ちながらキンジに振り向いた。


「これ、ギール持って行けば食料になるか?」


「うっ……」


キンジは雪に嘔吐していた。

ど、どうした?


「ケンイチ、グロいよ……。」


……あっ、ごめん。

森に居ると平気で食い散らかされてウジの沸いた死体とか落ちてるから、そう言うのに鈍感になってしまっている。


「だ、大丈夫だ!だってほら、もう死んでいる!」


「うわぁぁぁ!?なんで頭の無い犬の死体を平気で持てるんだよ!怖いよ!?」


……本格的にヤバイかもしれない。動かない=怖くない、と言う原始人みたいな方程式が自然と俺の中に根付いてしまっている。

もっと文化的な、命を尊ぶ精神を取り戻さなければ!


「そうだな!これは土に埋めて墓を作って、手厚く葬ろう!」


「いや、頭無いのをを埋葬したら逆に怖いから、食べようよ……」


急に冷静になって、キンジが言ってきた。

お、おう、そっちが良いならそれで良いんだけど。

とりあえず、一般人に感覚を会わせるのはこれからの命題だな。

あ、普段の癖で血の臭いに釣られる魔物が居ないか警戒してたけど、吹雪いてるから臭いを辿られないのか。

雪もたまには良い事するな。


「俺もう無理だ……!心臓バクバクしてるもん、血とか駄目なんだよ……俺の心は繊細なんだよ……!」


キンジが必死な形相で訴えて来たので、もうキャンプに変える事になった。

なんか……初めてバイオハザードした時の俺みたいだな。


「ん?おお、戻りましたか、ケンイチ殿。こっちも大体準備ができましたぞ。」


鍋をかき混ぜながら、ギールこちらに振り返った。

良い匂いがする。


「……ねぇアンタ、その、右手に持ってるのは何?」


「スノーパウンドだ。」


俺が地面にそれを置くと、ギールが信じられない形相をしてこちらを見ていた。


「あれ……D級って、精鋭の騎士が徒党組んでやっと倒せる強さじゃなかったっけ……?」


「何してるのよ!脳を捨てたら勿体ないでしょ!?」


「そうですよケンイチさん!なんて事してるんですか!あそこが一番おいしいんですよ!」


小刻みに震えているギールを気にせず、アンリとユナが死体に駆け寄ってきた。

キンジより大分たくましいな。

つか仮にも年頃の女子が犬の脳髄の話するなよ……。


「と、とりあえず、私のディメンションに多少の空きがあるので、血抜きしてそこ仕舞っときますかな。」


「頼む。」


俺達は一旦、篝火の前に戻ってきた。キンジは少し遠くでぐったりしている。

はー、なんか疲れた。

と言うか、ハルバード使わなかったな、龍の腕が強すぎるのも有るが、俺があまり武器を使わないのが大きいな。

まあ、これからもっと強いのが来た時に改めて使おう。


「夕飯は、スープと保存用のパンと干し肉ですぞー。」


おお、美味そうだな。

パンをスープに浸けて口に運んだ。

……なにこれ、頭おかしいぐらい美味い。


「えへへぇ、美味しいでしょ?ギールのご飯は世界一なのよ!」


硬直していた俺に、酔っ払ったアンリが自慢気に言ってきた。

いやなんでお前が嬉しそうなんだよ。


「ふっ、戦闘と人間関係以外は全てを高水準でこなすのがギールクオリティですからな!」


「きっとギールさんは料理人にも文官にもなれます。何故冒険者なんて他に行き場がない底辺な人間の仕事をしてるのか不思議です。結構すごい人なんですよ。」


ユナも嬉しそうに言った。

……ギール、何だかんだでメンバーにかなり懐かれてんだな。

経験の浅い若い集団にとって、悪意の無い大人の存在ってのは、この上無く大きい。

それに、ギールはナメられやすい……もとい、親しみ易いからな。

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新作はじめました。 現代日本で騎士の怪物になってしまった男の物語です。 貌無し騎士は日本を守りたい!
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