82.自己紹介
「いやはや、それでは無事出発出来たことですし、互いを知るためにも自己紹介といきますかな?」
雪原を疾走する馬車の中で、中年の冒険者がそう提案した。
確かに、ずっと呼び方が青年とか中年とかじゃ分かりにくいからな。
「よし、それじゃあまず俺から言うよ。このパーティーのリーダーで名はキンズィエル。取り合えずキンジって呼んでくれ。あと職業は剣士だけど剣術は使えないよ!よろしく!」
「よろしく!」じゃねぇよ!……いや、俺も剣術なんて全く知らないし人の事は言えないか。
まあ良い、次いこう次!
「私はユナといいます、魔導土です。……あの、攻撃魔法は使えません……」
黒髪の少女は、肩身が狭そうに下を向いた。
攻撃魔法以外だと何が使えるんだ?
「では、何ができる?」
「マッチよりマシな程度の『灯火』と、酒で拭くのとそう変わらない『解毒』です、はいごめんなさい。」
なるほど、つまり使えないな。(確信)
まあ最悪杖で殴ってもらおうか。
「おや、私の番ですかな?ふふふ、我が名はギーズウィルギス!超一流の吟遊詩人なり!」
中年、ギーズウィルギスは何処からか見たこともない弦楽器を取りだしボロロン、と弾いた。
おお!なんか敵の能力下げたり味方を強化したりできそう!
「嘘つくなよギール。吟遊詩人で食い詰めになったから俺達のチームに土下座までして入ったんだろ?」
「ちょっ、それ黙っとく約束じゃん……?」
……全然一流じゃねえじゃん。
だけど、前の二人よりかは色々出来そうだな。
「ちなみにその楽器でどんなスキルが使えるんだ?」
「え?普通に拳で殴りますがなにか?ってぬわぁ!?」
ーー俺はギールを馬車の壁に軽く叩きつけた。
クソ……期待させやがって、ならなんで先に楽器出したんだよ!
「アタタ……何をするのですかな!?楽器を護るのが間に合ったから良いものの、もし弦の一本でも切れていたら我がギール神拳が騎士殿に炸裂していた所でしたぞ!」
ギールはプンスカ怒りながらシャドウボクシングを始めた。
なんだこのおっさん……。
だが、これで向こうのパーティーメンバーは後一人だな。
「すまない、自己紹介をして貰っても良いか?」
俺は馬車の隅でずっと沈黙を守っていた白髪の少女に声をかけた。
「……アンリよ。言っとくけどアンタみたいな薄汚い騎士、一時とはいえ仲間とは認めないから。」
少女は、俺を疎まし気に睨んだ後、また目を瞑ってしまった。
ええ……なんで剣術使えない剣士と攻撃不能な魔導土と拳で語る中年吟遊詩人が良くて、俺が駄目なの……?
「すまぬな騎士殿、普段ならここまで愛想悪くはないのですが、アンリも職業が職業でしてな、この依頼においては純粋な戦闘職である騎士様をひがんでいるのでしょう。」
職業に何か問題があるのか。
「ねえギース、私の職業言ったら今度こそその楽器叩き割るからね。」
「おぉう……やっぱり年頃の女子は苦手ですな。あんまり苛めるとおじさん泣いちゃう!」
自分で悲しげな音楽を奏ながら泣き真似を始めたギースは置いといて、そこまで言われると凄く気になるな。
……仕方がない、余り使いたくはないが、あれを使うか。
「おいキンジ、アンリの職業を教えろ。さもないと……」
俺はキンジに見える様にハルバードの刃をちらつかせた。
こいつのトラウマを刺激してやれば、すぐに言うだろう。
「ひぃ!?はぁ、いうばぁばばば!?言う!言うからそれをしまってくれ!」
「キンジ!言ったら只じゃーー」
「こいつの職業は『清掃員』だ!ウケるよな!適正がこれしか無かった時は流石に笑ったよ!うわははは!」
恐怖で頭がイカれてしまったキンジが言うと同時に、アンリの顔が真っ赤に染まった。
……清掃員、か。
こいつらがいつもやっている雑用系の仕事なら大活躍なんだろうが、討伐依頼に連れてきちゃいかんだろ。
「げ、元気を出してください!アンリさんは私と違って五種類も魔法を使えるじゃないですか!……全部お掃除関連ですけど。」
「皆して煩いわよ!ほら!こうなるって分かってたからこんな奴加えるの反対したのよ!もうやだぁ!」
最後にボソッ、と放たれたユナの言葉にメンタルを破壊されたのかアンリが泣きながら叫んだ。
な、なんか悪いことをしたな。
でもこれでこのチームの戦力について把握できた、ギールの『ギール神拳』とやらは未知数だがとにかく、ほぼ武装した村人同然だ。
アンリに至ってはもう用務員さんで良いな。
「じゃあ、騎士さん、あんたの名前も聞いて良いか?」
キンジが俺に向かってそう言った。
忘れてた忘れてた。本来の目的は自己紹介だったな。
できるだけかっこよくしよう。
「私の名前はケンイチ、放浪の騎士だ。」
「なにそれかっこいいんですけど。」
何故かキンジではなく、最年長のギールが食いついてきた。
いや大人になれよおっさん、何が『ですけど』だ!JKみたいな口調やめろ!