81.風牙の刃
「ところで一体何を使って目的地まで行くんだ?」
村の出口に到着した俺は、冒険者達に疑問をぶつけた。
辺りを見渡してもは馬車とかは無いし、まさかこの寒さの中歩きということも無いだろう。
「普通なら商人とかの馬車に乗せてもらうんだけどね、今回は無駄にはりきっちゃったから召喚術のスクロールを買ってきたよ。」
青年はそう言うと、持っていたカバンの中をまさぐり出した。
スクロールってあの、魔法が使える巻物みたいなやつか?
「まだ見つからないの?カバンじゃなくてディメンションの空間に仕舞えば良いのに……。」
「うるさいなぁ、俺の方は只でさえ容量が少ないのにびっしり回復劑とかが詰まってるから余裕が無かったんだ。お、あった。」
少女の文句に、青年が適当に答えた。
え、何?ディメンションって、なんかカッコいいぞ。
俺のセンサーがビンビンに反応してるぞ。
「ディメンションとはなんだ?」
「え?ディメンションはディメンションだろ?」
そう言うと青年は、突如として横に現れた黒いもやの中から瓶を取り出して見せた。
何それぇぇぇ!使いたい!俺も使いたい!
「それは魔法の一種か!?」
「そ、そうだけど。」
「教えてください!お願いします!」
俺は青年に土下座した。
それってあれだろ!?ゲームとかで良くある、小さいのに何故かアイテムが99個とか入るやつだろ!?
ああ……使いたすぎる……!あ、でも魔法なら適正とかの関係で使えないかも……。
「ど、どうしたんだ!?急に頭を下げて……え、うわ!気持ち悪いから俺の靴を舐めようとしないでくれ!教えるから!」
「本当か!?ちなみにそれは何属性の適正がいるんだ?」
「無属性だから誰でも使えるよ。冒険者ギルドが無料で教えてるぐらい簡単だし。」
いやっふぅぅぅ!
やった!遂に俺も魔法が使えるのか!
長かった……攻撃魔法とかじゃないけど充分だ!いい加減俺も物理で殴るだけじゃなくて、魔法を組み込んだファンタジーチックな戦闘がしたかったんだよ!
「まず、目を積むって自分の心臓の辺りを意識してみて。」
俺は目をつむり、心臓の鼓動に耳を澄ませた。
「そしてその中から魔力の源を探すんだ。場所は心臓に決まってるけど場所や大きさは人によってまちまちだから手探りで探してみて。」
……3分ほど意識を集中していると、自分の心臓の一部が仄かに温かくなっていることに気づいた。
更に意識を集中していると、目蓋の裏にそれが浮かび上がってきた。
オレンジ色の球体らしきものに、真っ黒な泥みたいなのがこびりついている。
これの事か?
「そしてその表面を薄く引き延ばしながら、丸でも四角でも良いから袋を作る。あ、パン生地練ったことある?ああいう感じ。」
俺は表面を摘まむイメージで球体に触ろうとした。
と言うか説明分かりやすいな。例の変なハーフエルフより魔法の師匠向いてるんじゃないか?
そう思いながらも俺は薄く引き延ばす作業に移った。
……あれ、黒い泥が邪魔で球体に触れないぞ?
まるで俺に魔法を使わせる事を拒むかの様に、延ばそうとしても泥のせいで阻まれてしまう。
「……なんか黒いのが付いててできないぞ。」
「え?とりあえず1回容器を作れば安定するから、無理矢理にでもやってみて。」
「分かった。」
もう1度意識を集中し、黄色い球体を確認する。
今度は黒い泥を力で押し退け球体に手を伸ばす、よし、もう少しだ……。
しかし後一歩で触れる、という所で泥が膨張しだしーー
ーー俺の背中から、無数の槍が突き出た。
「ひいあっ!?なんか命を奪いそうな形状の物が俺の頭上を掠めたんですけど!?」
「き、騎士殿!?どうされましたか!?」
うわぁぁぁ!?消えろ!消えろ!
俺が心の中でそう叫ぶと、背中から生えた槍は全て霧状になって消えた。
とりあえずいつもの悪魔が封印された設定で誤魔化すか。
「……どうやら、私の中に封印された悪魔が目覚めた様だ……時間が無い、先を急ごう!」
「え、悪魔?物騒だからやっぱり来なくて良いよ。」
「冗談!冗談だから私も行かせてくれ!」
俺は青年に早く召喚する様に促した。
青年は渋々と言った様子でスクロールを取りだし、開いた状態で足元に置いた。
それと同時にスクロールが発光し、地面から三頭の馬が出てきた。
おぉう……ファンタジー……。
「馬車は村に借りたから、馬を繋げば直ぐに出発できるよ。」
俺は青年から馬を固定する鎖などを受け取り、馬車と接続した。
そして全員で乗り込む。
「よし、冒険者チーム風牙の刃!初めての冒険だ!出発!」
青年が興奮した様子で馬を揺さぶった。
3重の嘶きと同時に馬車が前進しだす。
と言うか風牙の刃っていうんだな、このチーム。どう考えても名前負けしてるぞ……。
大体、そんな名前にしたから討伐依頼なんて来たんじゃないか?