8.街道は魔力変質と共に
町から出た俺は、周りの目を気にしなくても良い解放感とこれからの生活への期待により、スキップしながら街道を歩いていた。
傍から見れば傷だらけの鎧を着た騎士が鼻歌を歌いながらスキップしているという中々にカオスな光景だろうが、俺は気にしない。
気にしてはいけないのだ。
しかし中世と言っても意外とちゃんと道は整備してあるんだな。
そして景色もかなり良いから、歩くのが苦にならないのもポイントが高い。
あそこにある水溜まりにも中々趣があって……あれ?雨なんか降ってたっけな?それになんか動いてる気がする。
え……やばいやばいやばい!こっちに滑ってきた!
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[通常スキルに『観察:Lv1』が追加されました]
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お?何か新しいスキルを覚えたっぽいぞ?
『観察』と言う名前から察するに、相手の情報が分かるのだろうか。
あの水溜まりがロクな物には決して見えないが、どんな事でも情報が無い事ほど怖い物はない。
取り敢えず使ってみるか。
俺は今もこちらに滑って来ている水溜まりを睨みながら、
『観察』と念じた。
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【『スライム』】
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……なるほど。
あれはスライムなのか。
某国民的RPGのマスコットキャラの愛らしさの欠片もないな。
しかしこれで安心した。
スライムと言えばファンタジーでも屈指の雑魚モンスターだ。
サクッと倒してレベルアップしよう。
俺は右手に持っていた剣でスライムを真っ二つにしてやった。スライムは二匹に分裂した。
うぉぉぉい!!何だコレ!?ほぼプラナリアじゃねえか!
どうやって倒せば良いんだよ!?
前の世界にいた生物の情報で対処するしか無いか……
ええと確か昔ネットでプラナリアはどうやったら死ぬか見た
な……確かドライヤーで乾かすか踏み潰せば良いんだっけ?
無理じゃねえか……ドライヤーなんてあるわけないし、あれに足を突っ込むのは流石にリスキー過ぎる。
まさか町からで出て数分でこんな化け物にエンカウントするとは思っていなかった。
まさか異世界がここまで異世界してるとは思っていなかった。
あっ!
その時俺の脳裏に閃光が走った。
俺には『魔力変質』があるんだった!
手甲を外し、この前掌から鉄塊を出した要領で自分の手から10㎏のハンマーを生やした。
造形はかなり甘いけど、武器にする分には問題ない。
しかも異世界に来て身体能力が上がったのか今の俺ならこれくらい軽くブン回せる。
俺はスライムの片割れに向かって思い切りハンマーを叩きつけた。
それでスライムが四散し動かなくなったのを確認して、もう一体のスライムにも同じ様にハンマーで潰してやった。
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【経験値12を得ました】
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【『斎藤建一』のLvが1から2へと上がりました。】
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よし!初勝利だ!
しかもレベルが上がったぞ。
にしてももしかしてここはスライムが強いタイプの異世界なのか?
もしこれでスライムがこの世界で雑魚だったりしたら、こいつらの親玉である魔族は一体どんな化け物何だろうか。
やっぱり勇者なんてするもんじゃないな!
俺は森でスローライフするんだ!
◆◇◆
俺が続けて街道を歩いていると、後ろから馬の足音が聞こえてきた。
今度は何だと思い俺が振りかえると、そこにはゆっくりと走っている馬車がいた。
それを見て思わぬ中世要素に感動していると、馬車から声が聞こえてくる。
「おーい騎士様!何処までだい?」
もしかして乗せて行って貰えるんだろうか。
だとしたらとても有り難いが、道中に森があるかによる。
「道中に森は有るか?」
「森?なんでだ?」
「教えてくれ」
これでもしこの周辺に森は有りませんでしたとかだったら泣くぞ。
意外とマジで。
「森ならカリス村の近くに馬鹿デカイのが有るが……お前さんもしかして冒険者か?」
「ああ。そのカリス村まで乗せて行ってくれ。」
俺は下級の冒険者カードを見せながらそう言った。
遂に森を見つけたぞ!
「なんだ……騎士じゃなくて冒険者かよ。しかも最下級って……まぁ良い、カリス村まで護衛頼んだぜ。」
なんか冒険者って分かった瞬間露骨に態度が変わったな。
冒険者はよほど信用が無いのだろうか。
まぁそうか。
大抵の人はチンピラ紛いの冒険者より騎士に護衛されたいだろうな。
恐らくこのおっちゃんは護衛がいなくて困っていたんだろう。
そこにいかにも戦えそうな格好の俺が通りすがったから、一か罰か声を描けてみたという訳か?
しかも騎士の鎧を着てるから盗賊ではないと踏んだか。
「問題ない。」
俺がそう答え乗り込むと、馬車は走り出した。
おお……おお!
ぶっちゃけ車とかに比べたらあまり速くは無いが、普通に歩いていた時よりも遥かに速く景色が流れていく。
やっぱり乗せて貰って正解だったな!これで俺のスローライフへの道に更に近づいたと言う訳だ!
◆◇◆
「ヤベーよ……ヤベーよ……!」
4時間後、俺と馬車のおっちゃんは窮地に立たされていた。
「馬と荷物と有り金、全て置いていきな!おとなしく言うことを聞けば命までは奪わねぇ!」
今俺達が乗っている馬車は、20人の盗賊に包囲されていた。
おっちゃんが俺の方を不安そうな表情で見つめてくる。
……クソッ!そんな目で見るな!確かに護衛は引き受けたがいくらなんでもこれは多すぎるだろ!
しかしおっちゃんは盗賊達を見たあと俺を希望の篭った目で見つめてくる。
そんなの知らねぇ!俺は逃げるぞ!アイツら怖いし!
「頼む……頼むよ……!この商品達がおじゃんになっちまったら俺は身を投げなきゃいけないんだ……!」
おっちゃんが小刻みに震えながら頭を下げてきた。……ああ分かったよ!戦えば良いんだろ!?
俺は馬車を降り、馬車の前に立ちふさがった。
「あ?何だぁテメェ?この人数に勝てると思ってんのかぁ!?」
盗賊の一人が捲し立てる。
「いや、勝てるなんて思っていない。しかし私の鎧と剣だけはどうか奪わないでくれないか。」
俺はそう言いながら盗賊に向かって一歩近づく。
心臓は今にもハジケ飛びそうなほど高鳴っていたが、その裏で目の前の敵を倒すためのプランを組み立てている自分がいた。
俺は勇者だからな。勇気が出たのかもしれない。
「はぁ?今までテメェらクソ騎士共には散々痛い目に遭わされたんだ!見逃す分けねぇだろ!」
「頼むよ。死んだ師匠の形見なんだ。」
俺は更に盗賊に近づく。
「だから見逃さねぇって……ゴハッ!?」
俺は近づいた盗賊の一人の腹に向かって渾身の膝蹴りを食らわせた。
初めて他人に暴力振るった……。
あ、初めてではないか、鎧盗んだときに騎士殴ったな。
けど騙し撃ち成功だ!しかしまだ19人も盗賊がいる。
俺は呆気に取られている近場の盗賊二人に向かって硬質化さ
せた拳を食らわせてやった。
これで、17人。しかし盗賊も大人しくやられてくれる訳はなく、襲いかかってくる。
だが盗賊の剣は俺の鎧には通用せず、俺は盗賊を出来るだけ殺さない様に足や肩に向かって剣を突き刺していった。
皮膚を割り肉を切り裂く嫌な感覚が手に伝わる。
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【通常スキルに『刺突』が追加されました】
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続いて俺は上がった身体能力を活かし、蹴りや拳で盗賊を打ち倒していく。
興奮して脳内麻薬がドパドパ出ているのを感じる。
しかし盗賊の数が残り4人程になった所で、脇腹に凄まじい熱を感じた。
俺が脇腹に目を向けると、鎧を貫通してボルトが刺さっている。
「ッあァ……!?」
ボルトが跳んできたであろう方向を見れば、クロスボウを持った盗賊が卑しい笑顔を見せながら血走った目でこちらを見ていた。
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『刺突耐性Lv1』を得ました
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『痛覚遮断Lv1』を得ました
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脳内にアナウンスが聞こえてくる。
やっと思考が事態に追い付いてきた。
そうか。撃たれたのか俺は。
メチャクソ痛ぇ。
が、緊急事態なのに、俺の頭はやけに冷めていた。
すぐさまボルトを引き抜き、脇腹を変質させて傷を塞いでいく。
傷を塞いだ俺はクロスボウの盗賊に向かって歩を進めた。
盗賊は平然と動き出した俺に恐れを成したのか、
「この化け物がぁぁぁぁ!!」
と言いながらもう一発クロスボウを撃ち込んで来た。
しかし余程焦っているのか、俺を狙った筈のボルトはあらぬ方向に飛んでいってしまう。
俺は先程の恨みを込めて盗賊を思い切りぶん殴ってやった
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[通常スキルに『殴打Lv1』が追加されました。]
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お、新スキル。
「がっ……!?」
拳は硬質化を解いておいたから死んではいないだろう。
と言うか、死んでたら困る。
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【称号スキル、『化物騎士』を得ました。】
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これ地味に初称号じゃね?嬉しく無いけど!
俺は残った盗賊に振り向くと、そいつらは恐怖から失禁したのかアンモニアの臭いをさせ、3人で抱きつき合いながら気絶していた。
……なんか一周回って芸術性さえ感じるな。