79.古傷
「グルット、昨日頼んだマントを受け取りたいんだがどこに有る?」
「ん?ああ、確か昨日一晩中工房の灯りが着いてたから、多分そこで作ってるぞ。」
この村に工房なんて有ったのか。
早速案内して貰おう。
「どこだ?」
「こっちだ。」
グルットはそう言いながら俺に着いてくる様に促す。
そして倉庫から10メートル程歩いた場所に、その建物は有った。
外観は他の民家と変わらないが看板代わりなのか武器と盾が重なった木の彫り物が置いてあった。
さっきの冒険者と言い、この世界の識字率は低いのかもしれない。
だから一目で武器屋と分かる様にこういう彫り物が要るんだな。
「おいジジイ俺だ!開けろ!昨日ずっと作業してたんだから起きてんだろ!」
「うっさいわい!今何時だと思っとんじゃ!」
グルットがガンガンドアをノックしていると、ドアが物凄い勢いで開き、一人の老人が現れた。
身長130センチ程で、短くて筋肉が過剰に盛り上がった手足、顔には白くなった髭を蓄え右手にハンマーを持っている。
あれ、これってドワーフっていう奴か!?
凄ぇ!ドワーフ自体存在してるのは知ってたけどここまで俺のイメージ通りだとは思わなかったよ!
「よう、こいつが昨日アンタにマントを頼んだ騎士だ。」
ドワーフ老人の目線が俺へと移った。
そして俺の頭から爪先までを視線で3往復程した。
「ほう、お主が……話は聞いてたが酷い装備じゃのう。どうすりゃそんなのでグレーターベアとやりあえたんじゃ。」
「今はハルバードを貸してやってるが、巨大熊を倒した時は直剣一本だからな……俺も訳が分からん。」
と言うか直剣も殆ど使ってないし。あの時は直剣も鎧も殆ど意味を成さなかった。
グルットが腕一本もいでくれて、その残り少ない体力を魔力変質でなんとか削りきった感じだな。
レベルが上がった今でも、万全のC+ランクとは戦いたくない、実際昨日C+のフィンブルにボコボコにされたし。
「とりあえず立ち話もアレじゃから中に入れ。」
俺とグルットはドワーフ老人の家の中に入った。
室内は冬とは思えないほど暖かく、酒と鉄の臭いが充満している。
ドワーフ老人は椅子にどかっと座り込み、ハンマーや設計図らしき物が散乱した作業机に置いてあった酒を飲んでから口を開いた。
「この村の職人で高位魔物の素材を扱えるのが儂だけとは言え……鍛冶屋にマントの作成を頼むか?それも一晩で!言っとくが儂は武器専門じゃ!」
「アンタこの前近所の子供にタヌキのぬいぐるみ作ってやってたじゃねぇか。」
「ぐっ、何故それを……しかもタヌキじゃなくてウサギじゃし……まぁ良い。マント自体は完成しとるからちょいと待っとれ。」
ドワーフ老人は部屋の奥の方へと消えていった。
奥で何やらがちゃがちゃ色々弄ってる音が聞こえる。
「ああ言ってはいるがあのジジイ……グンダもあんたには感謝してんだぜ。カーニャの事は赤ん坊の頃から可愛がってたからな。森から巨大熊の咆哮が聞こえた時は完全武装で森に突撃しようとした程らしいぞ。」
「そうなのか。」
あんなイカつい顔しといて子供は好きなんだな。これがギャップ萌えってやつか。(錯乱)
まあ冗談は置いといて、どんな出来になってるか楽しみだ。
「これじゃ、老体にムチ打って久々に徹夜したんじゃから感謝するんじゃぞ。」
奥から出てきたドワーフ老人……もといグンダの手には、四角く折り畳まれた銀色のマントが握られていた。
「エイギルフォックスなんて上物を扱うのは久々だったからちょいと不安じゃったが……会心の出来じゃわい。」
グンダは、そう言いながら俺にマントを手渡した。
分厚い布類特有の重量感が伝わってくる。
その白銀の布地はドアの隙間から流れ込んだ陽光を浴び、まるで本物の銀の如く耀いていた。
おお……かっけぇ!早速着け……ってあれ、マントってどうやって着けるんだ?
「グルット、マントの付け方が分からん。」
「……アンタ本当に騎士なのか?そのぐらいガキでも知ってるぞ。」
「流石に冗談じゃろう……?」
グルットとグンダが不可解な物を見る目で俺を見てくる。
し、しょうがないじゃん!?日本に居た時マントなんて着ける機会は無かったし、もし仮にそんなことをすれば即中二病認定だ。
マントはかっこいいと思うけど、自分で着ける勇気が無かったんだよ……こっそり指ぬき手袋買ったりするのが俺の限界だった、うっ、過去の傷が痛む……。
「まぁ良い、ほら着けてやるからそれをこっちに寄越せ」
「ありがとう……ありがとう……。」
「……なんで泣いてんだ?」
あっ……そういや修学旅行で買った木刀ペイントして、【絶剣覇盧渡・動駆】とか作ったっけ……あああ!死にたい!
「おい!気持ち悪いから泣きながら左右に悶えるな!マント付けらんねぇだろ!」
「うう……すまない……」
俺は波涛の如く押し寄せる感情を押し殺し、なんとか体を静止した。
もう……もう忘れよう!うん!それが良い!こんな物を覚えてた所で、この世界には俺の黒歴史ノートもバルトなんとかも存在しないんだ!
「……うし、着けおわったぞ。っておお……やっぱりマントを着けると急に騎士っぽさが増すな……。」
グルットは俺をまじまじと見ながら、そういった。
一体どんな感じになってるんだろうか、見てみたいが鏡とかってあるのか?
「鏡を貸してくれないか?」
「そんな贅沢品無いわい。お前さんの後ろに鉄板があるからそれで確認しろ。」
「分かった。」
鏡って贅沢品なのか……。
まあ、姿の確認自体は出来そうだから問題ないか。
俺はそう思いながら後ろにある馬鹿でかい研磨された鉄板の前に移動した。
そこに写ったのは、なんと言うか……凄まじい騎士だった。
圧倒的な背丈、更にそれ以上のサイズのハルバードを背中に装備した、まるで古いお城とかに置いてある『今にも動き出しそうな甲冑』が本当に動き出したみたいだ。
……つか、怖くね!?自分でも一瞬ビクっとなったわ!
よく村人達はこんな奴に話しかけられるな……。
でも、マントはちょっと怖いぐらい似合ってるし問題ないか。
よし……防寒具も調達した所で、早速冒険に出るとしますか!
「グンダ、素晴らしいマントを感謝する。それではな。また機会が有れば頼む。」
「言っとくが次からはしっかりと報酬を貰うからな!」
「私は一文無しだ!」
「本格的に何なんじゃお前!」
俺はグンダに半ば追い出される様にして工房から出た。
おお、マントのお陰で若干寒さが和らいだ気がする。
よし……じゃあ出発しますか!