78.神代の勇者
「……え?」
俺の声に反応し、青年が振り返った。
横でグルットが驚いた顔をしている。
「それって……どういうことだ?」
「私が冒険者としてお前らの依頼に着いていくと言っている。」
「ほ、本当か!?」
四人は一瞬にして表情を明るくしたが、その視線が俺の冒険者カードに移ると、少しずつ微妙な顔になりだした。
……そういやそうだ、俺のランクは最下級だもんな。
「え、えーっと……気持ちだけで充分かなーって……」
「いやいやいや!私は凄く強いぞ!」
「だって鎧はボロボロだし剣は折れてるし、こんな冬なのに防寒具の1つも着けてないじゃないか。」
青年が俺を嗜める様に言った。
ク、クソ!完全に弱いと思われてる!
「ぼ、防寒具は昨日注文したマントを着ける!鎧はその……ダメージ加工みたいな物だ!」
「ダメー……?ちょっとわかんないけど剣はどうするんだ?」
「それはその……このおっさんに貸して貰うから大丈夫だ!」
俺はグルットの肩を叩きながら言った。
グルットは「おっさんじゃねぇし!」と言いたそうな目で抗議してきたが俺がじーっと見ているとため息をつきながら言った。
「……わかった、あんたは心配ないと思うがそいつらに死なれたら寝覚めが悪いからな。倉庫から適当な武器を持っていきやがれ。」
「……恩に着る。お前らはちょっと待っててくれ。」
俺はグルットと共に前にも来た倉庫に向かう。
少し歩くと、少し大きめの蔵が見えた、あれだな。
「あの……グルット、なんか強引な感じになって申し訳無いけど、俺ぶっちゃけ武器なくても戦えるし、あいつらに頼りなく思われない程度の装備を貸してくれ。」
「ここにあんのは全て超一級品だ。だがもうほとんどの武器は使わないから持っていけ。」
……できるだけ借りた武器は使わない様にしよう。
なんか右腕も強化されてるしD級なら何とかなるからな。
そんなことを考えながら俺は倉庫の中を物色していく。
「おお……凄いな……。」
普通の真っ直ぐなロングソードや短剣、馬鹿デカイ槍など、かなりの種類、数の武器があり、さながら武器の博物館みたいだ。
「どうだ?かっこいいだろう!俺のコレクションは!」
「ああ、男心がくすぐられるな。特にこの直剣は凄い。」
俺が手に取った剣は光を反射して虹色に輝いていた。
これにしようかな……でも高そうだし……。
「それは儀式用の剣だな。大層な見た目をしているが切れ味は最低だ。ちなみにバリザール家ゆかりの品で銘はウィンディーネ、冒険者時代報酬として貰ったんだが切れ味が悪いと知って1度は落胆したが俺もあのときは未熟者だったんだよな。このウィンディーネちゃんに魔物の血は似合わねぇからな!」
グルットがマシンガンの様な速度で捲し立ててきた。
めっちゃ楽しそうな顔をしている。
なんだウィンディーネちゃんって。
ああ……こいつ武器オタクか。
自分のコレクションが褒められて嬉しいんだな。
「この槍は?」
「それは魔導銀の短槍だな!狭い洞窟などでの運用を前提とされているが投擲にも使える。女が投げてもルビエド騎士の全身鎧を貫通できるぐらいだ……あれ、それは違うやつだっけか。ちょっとあんたの鎧で試して良いか?」
「待て待て待て!」
銀色の槍を俺に向けてきたグルットを慌てて制止する。
危ねぇ……こういう奴は1度スイッチが入るとヤバイからな。
さっさと適当なのを持っていこう。
俺は更に奥の方に進んでいく。
「……なんだあれ。」
倉庫の最奥には青色と緑色の光が血管の様に走った二本の武骨な大剣が寄り添う様に置かれていた。
さっきの剣とは違い特別綺麗な訳でもないのに俺はとてもそれに惹かれた。
「……『観察』」
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【『陽剣・空雅』】ランクA
【神代を生きた勇者の脳髄を埋め込んだ大剣】
【とある錬金術師により製造された夫婦剣】
【代償を支払う事により勇者クウガの『固有スキル』を使用可能】
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【『陰剣・周』】ランクA-
【神代を生きた勇者の脳髄を埋め込んだ大剣】
【とある錬金術師により製造された夫婦剣】
【代償を支払う事により勇者アマネの『固有スキル』を使用可能】
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「……えっ?」
の、脳髄?勇者の?
固有スキルって俺にとっての『魔力変質』みたいな物か?
……ヤバくね?
勇者の名前からして完全に日本人じゃん……震えがとまんねぇよ!
速くここから出なければ!
俺は適当な武器を右手に持ち、倉庫の出口に向かう。
「ググググルット!おおお俺はぁ!ここここれにしたぞ!」
「ど、どうしたんだ!?そんなに振動して!?」
倉庫の外に出て、俺は心を落ち着けるために深呼吸をした。
はぁ……はぁ……!
マジで何だったんだあれ!
勇者の脳を埋め込んでそいつの能力使うとかどこのダークファンタジーだよ!怖いよ!?
……あれ、もしかして俺の脳髄を埋め込めば魔力変質が使える様になるのか?……うわぁぁぁ!?どうすんだよ!?なんだよとある錬金術師って!絶対に会いたくねぇ!
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【『精神健常化』が使用されました】
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その声と同時に、オーバーヒート寸前だった俺の頭からスッと熱が引くのを感じた。
……よし、見なかった事にしよう。
これから冒険に行くのに、そんなことに怖がってられないからな。
先程適当に選んだ右手の武器は、無骨な巨斧だった。
両側には鋭利で巨大な刃、尖端には槍の穂先が付いている。
俺はそれを持ち上げ軽々と振り回す。
……うん、使いやすい。
今の俺の筋力から考えて、今までの直剣じゃちょっと軽すぎた。
まだ重さ的にはかなり余裕が有るがこれで問題は無いだろう。
『観察。』
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【『竜殺しのハルバード』B-】
【持ち手が僅かにしなる事で武器自体が膂力を発生させる】
【双大剣の冒険者が好んで使用した事で広く知られ、彼を詠った詩では幾度もこの武器で危機を脱している】
【刃での斬撃、先端での刺突、柄での殴打などその外見に似合わず繊細かつ多彩な攻撃が可能。】
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結構な当たりを引いたんじゃないか?
俺はスキルで『斬撃』『殴打』『刺突』全部持ってるから相性も良いだろう。
「それを選ぶとは中々分かってんじゃねぇか。」
倉庫からグルットが出てきて、ハルバードを懐かしげに見ている。
「そいつは良い武器だ。俺も昔はかなり使い込んだ。」
「そうなのか」
俺はもう一度ハルバードを振り回したり『刺突』などを使ったりしながら使用感を確かめる。
「どんな力してりゃソイツをそんな速度でブン回せるんだ……?」
グルットが複雑な顔で俺を見ている。
多分20キロぐらいか?
確かに、この鉄の塊を振り回せるのはちょっとヤバイな。
まあいい、今は冒険者を待たせてるから急がなければ。
次はマントを取りに行くか。