77.痛みの先輩
……絶対にこれのせいだよな
とりあえず悪影響が無いか確かめるためにステータスを確認してみるか。
「ステータス」
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【斎藤健一】
Lv:40/80
種族:人間
状態:勇者
HP:350/350
魔力:300/300
攻撃力:200+3+150
防御力100+15
魔法力:100
素早さ:200
装備:
『崩れかけたルビエド騎士の鎧』F+
『折れたルビエド騎士の直剣』G+
固有スキル:
『魔力変質LV__』
耐性スキル:
『刺突耐性LV1』
『痛覚遮断LV4』
「殴打耐性LV4」
『石化耐性LV1』
『衝撃耐性LV6』
『熱耐性LV5』
『凍傷耐性Lv1』
通常スキル:
『観察LV6』
『刺撃LV3』
『斬撃LV1』
『射撃LV1』
『蹴り上げLv1』
『殴打LV1』
『バイルバンカーLV4』
『精神鎮静化Lv1』
称号:
化物騎士LV1
村の英雄LV2
ロードオブナイツLV1
災禍の元凶LvMax
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「おいちょっと待て」
え……いや、なんか称号の最後にメチャクソ物騒なの加わってない?
なに、災禍の元凶って!?レベル最高だし!
村の英雄とかロードオブナイツとか言われて密かに喜んでたのになんだこの仕打ちは!
まだ盗みと傷害と王城への不法侵入しかやってない……いや、良く考えたら俺ってかなりの悪人じゃないか?
現代風に言えば総理官邸とかに侵入したも同然だし、騎士を殴り飛ばして鎧を奪ったのも警察を殴って拳銃盗んだのとほぼ同じだし……。
うわぁ……大分やらかしてんな……これからは真面目に生きよう。これじゃ化け物でさえなくただの外道だぞ。
そう決意し、俺は再び村へと歩きだした。
ステータスを見る限り、攻撃力の項目にプラス150があった。
恐らくあれがこの腕の効果だろう。
普段なら騒ぎ立てたかもしれないが、たった今自分が大悪党だと言うことに気付いてどうでも良くなってしまった。それに一応は強くなってんだから良いだろ。
あ、そうこう言ってる内に村が見えてきた。
早くマントと水を貰って家でゴロゴロしよう。
「うう寒……あ、騎士様おはようございます。」
柵の前に行くと、門番の青年が挨拶をして来た。
随分寒そうだな……俺も人の事言えないけど。
「ああ、寒いのか?」
「ヘクシュン!……ええ、僕は鍛練が足りないのかこんなに厚着しても寒いのに騎士様は流石ですね。」
「え?あ、ああ……」
門番の青年が尊敬した目で言った。
いや、鎧の中は下手な冷蔵庫より冷えてるぞ。
最悪の場合心臓麻痺とか起こしそうで怖いぐらいだ。
俺はその後少し門番の青年と話をした後、村の中に入った。
何やら騒がしいな……。
「ほんとに頼みます!この通りです!」
村の中心の方で、厚着して武器をもった若者が四人ほどでグルットを取り囲んでいた。
なんだ?トラブルか?
「どうしたんだ?」
俺は後ろからグルットに話しかけた。
「おおあんたか。いや、コイツら冒険者らしいんだが俺に依頼に着いてきて欲しいってうるさくてな。」
「お願いします……!報酬なら払いますから!」
先頭にいた戦士らしい風貌の青年が必死な表情で頼み込んでいる。
グルットの怪我はもう治ってるみたいだし、報酬が貰えるなら着いていっても良いんじゃないか?
「着いていってやれよ。どうせ暇なんだろ?」
「……あんたって実は結構失礼だよな。」
グルットはため息をつきながら、頭を掻き出した。
「良いか?大前提として俺は暇じゃないし、冒険者はもう引退してんだ。何より俺が出れば村の防衛力が大きく下がる。断る理由にしちゃ充分だろ?」
「……確かにそうだな。というかそもそも何で自分達だけで行かないんだ?」
既に四人もいるなら人数も充分だろうし、装備だって足りない分けじゃ無いだろう。
「おい、説明してやれ。」
グルットが冒険者の青年に言った。
「は、はい、俺たちはD級のパーティーなんだけど……少し前に運良く貴族様との繋がりができて、それでその貴族様が俺達に指名の依頼をくれたんだ。」
「それで?」
「その人が気を使ってくれてちゃんと適正ランクのD級スノーワームの依頼なんだけど……実は俺達、魔物退治の依頼を1つも達成出来たことが無いんだよ。D級なんて大物はきっとは無理だ……。」
パーティーメンバーが皆鎮痛な面持ちで下を向いている。
ええ……じゃあどうやってそこまで上がったんだ?
良く覚えてないけどたしか最低ランクはG-のはずだ。
「本当か?」
俺は青年の後ろにいた杖を持った少女に問いかけた。
「は、はい……私達は皆、字も読めないし戦闘も出来ないから、せめて雑用の依頼だけはと頑張ってたんです。だけど気づけばD級になってて……その貴族様ともお屋敷のネズミ退治で知り合ったんです。」
ま、マジか……。
俺はもう一度、彼らの装備を見た。
良く良く見れば防具は革、しかも胸当てだけだし武器はあまり切れ味の良くなさそうな短剣やナイフと、なんと言うか……生活感溢れている。
戦士と言うよりは害獣駆除の人みたいな。
「なぜ断らなかった?」
「……なんだか嬉しくて、俺達が今までやってきた地味で小汚ない仕事は、けして無駄じゃなかったって言われた気がして……」
……なるほど。
こいつらは他人に認められて嬉しかったんだ。
その気持ちは分からないこともない、というか凄く分かる。
そしてその期待を裏切りたくないということも痛いほどに。
「……あの、これでも、蓄えは少しあるんです。だからグルットさんーー」
「無理だ。」
グルットは、キッパリとそう言い切った。
「……はい、しつこく頼み込んだりして本当にすいませんでした。」
「……俺は行けないが、本当にお前らだけで行くのか?絶対に無理だぞ、保証する。」
「はい、初めて俺達を認めてくれた人なんです。裏切れませんよ。それに折角、腕を見込んで依頼してくれてるのに断ったらきっと失望されますって。」
青年は無理に作った様な笑顔を張り付け、体を翻した。
四人は青年を先頭に重たい足取りで出口に向かって歩いていく。
……きっとこいつらは、死ぬんだろう。
寒さに蝕まれ、武器を砕かれ、死にたくないと思いながら惨たらしく死ぬんだろう。
俺には分かる、分かってしまうのだ、死の冷たさもその恐怖も。だからーー
「私が行こう。」
気づけば俺は、乳白色の冒険者カードを見せつけながらそう宣言していた。
ーーだから、痛みを知ってる奴がまだ知らない奴を守ってやらなきゃな。
それにちょうど善行をしたいと思ってた所だ。
ここいらで1つ人助けでもして、溜まりに溜まった俺の罪を少しでも減らすぜ!




