7.冒険者、定住者になる
門番から逃げて路地裏に入り込んだ俺は、そこでこれからどうするかについてとても切実に考えていた。
当初の目的であった森で自給自足スローライフ計画がそもそも町から出られなくて見事に頓挫したため、ちゃんとした身分を得る必要がある。
しかし当然の如く俺には現代知識で無双出来るほどの知識は備わっていないし、俺は姿を隠すため常に全身甲冑を装備し
ていなくちゃいけねぇ。
そうすれば出来る仕事は大分限られて来るだろう。
今俺の考えているのは二つ
一つは傭兵だ。
傭兵団などに入れば恐らく最低限の衣食住は保証されるだろうが、その場合ずっと鎧を装着している訳にはいかなくなるだろう。
そうすると必然的に先程の門番との会話に出てきた『冒険者』と言うのが現実的になってくる。
さっきの口振りから想像するに、俺の想像している冒険者と大差無い。
来るものは拒まず、荒くれ者共が朝から晩まで賑やかに酒を飲み、金が尽きれば依頼を受けその報酬の日銭でまた酒を飲む。きっとそんな世界だ。
そんな連中と仲良くできるつもりは当然無いが、この場合は元より仲良くなる必要は無い。
恐らく冒険者ギルドに入れば身分は保証されるだろう。
よし!俺は冒険者になるぞ!
それで町を出て俺は森に行くんだ!
……そうは言ってみたが、冒険者ギルドってどこにあるんだ?
◇◆◇
俺は町を必死に探しまくり、やっとの思いで『冒険者ギルド』と呼ばれる建物にたどり着いた。
その建造物はとても巨大で、今までどうして見つけられなかったのだと思う程だ。
俺は扉の前に立ち、深呼吸する。
大丈夫、顔を見せろと言われたらさっきみたいに逃げれば良い。
どうせこのまま町にいたら見つかってしまうだろう。
流石に問題を起こさない限り注目される事は無いと思うが、建物に入ったらボロを出さないために必要最低限の事しか話さない様にしておこうか。
俺は冒険者ギルドの扉を開いた。
予想通り。
まだ朝のせいか人は少ないな。
ガラの悪い肉体労働者らしい体躯をした男達が数人で酒を飲んでいる。
その中の1人がギルドに入った俺に気付き近づいて来る。
やっべー、マジっべー。
なぜ冒険者と言う奴は大抵人に絡むのが好きなんだろうか。
「おい!高潔な騎士様がこんなとこに何の用だぁ?リストラされて冒険者に転職か?」
酒臭い男がそう言うと、男の仲間らしき酒を飲んでいる別の男達が一斉に笑った。
もし俺が本物の騎士だったら名誉を傷つけられたとかで決闘とかになっていたかもしれないが、生憎俺は騎士でもなんでもないので男を無視して受付らしき所に真っ直ぐ向かう。
「無視してんじゃねぇぞ!!」
怖ぇぇぇ……。
しかし腰が引けてはナメられるから、頑張ってビビってない演技をした。
俺は勇敢な騎士……、俺は勇敢な騎士……!
男が肩を掴もうとして来るが酔っているせいで足元がおぼついていない。
俺は勇気を出して男に足を掛けて転ばした。
それを見て男の仲間達はさっきよりも更に大きい声で爆笑していた。
俺が転ばした男は、元々赤かった顔を更に赤くして怒っているが俺は気にせず受付に向かう。
さっきは石工と言って失敗したから今度は寡黙な騎士キャラで通すか。
「冒険者になりたいんだが」
俺は受付カウンターにいた受付嬢に向かってそう言った。
しかしこの受付嬢はあまり可愛くないな。
多分可愛い受付嬢は人が多いであろう夜に出勤するのだろう。
「はい。新規登録ですね」
「ああ。」
「それではお名前と得意武器を教えて下さい。」
得意武器か。
このまま騎士プレイを続けるならば、剣とか槍と答えた方がいいのだろう。
「名前はケンイチ・サイトウで、槍と剣が得意だ。」
「分かりました。それではこの板の上に手を着けて下さい」
そう言うと受付嬢は俺に鉄の板を差し出して来た。
「……なんだこれ」
「殺人歴を調べる魔道具です。」
なるほど、それならば問題ない。つか危ねぇ素が出た。
今の俺は人様に見せられない様な姿をしているが、人様に言えない様な事はやった覚えが無いからな。
あ、鎧盗んだか。
ごめん名も無き騎士。
「冒険者カードが発行完了しました。これであなたも冒険者ギルドの一員です。」
意外と簡単だったな。
10や20の質問は覚悟してたんだけど、
「このカードが有れば身分が保証されるんだな?」
「はい。それがあればこの王国全土の冒険者ギルドがある町には出入りできます」
つかこれが有れば町の通行証なんて必要ないんじゃねぇのか?
抜け道なんて次元じゃねぇぞこれ。
「それでは冒険者の業務にについて説明させて頂きますがよろしいでしょうか?」
「あ、ああ頼む」
「はい。冒険者は基本的に依頼を受けて雑用やモンスターの討伐をこなします。そして身の丈に合わない依頼を受ける冒険者を無くす為、冒険者と依頼にはランクと言うものが存在しています。それぞれ、G~Aまで存在します」
なるほど、完全にテンプレだな。
これだったらわざわざ説明を聞く必要も無かったかもしれない。
「これで以上です」
「ああ。」
折角説明してくれた受付嬢には悪いが、俺は元より依頼をこなすつもりは全く無い。
俺は町の外に冒険しに行くのではなく、定住しに行くのだ。
この冒険者カードには精々一度限りのパスポートとしての役目を果たして貰うとしよう。
◇◆◇
俺は今、町を出るべくして先程逃げ出した門の前に居る。
そして門番に向かって歩いていった。
「すいません先程の者ですが。」
俺がそう言うと門番は、
「む、石工か。さっきはどうして逃げたんだ?」
と言ってきた。
どうやら覚えてくれていた様だ。
「どうしても顔を見られたく無かったので家に冒険者カードを取りに行ってたんですよ。何も言わずに逃げてすいませんでした。」
そう言いながら門番に冒険者カードを見せる。
「少し見せて貰うぞ……うむ。本物の様だな、通って良いぞ。」
よし!ここまで長かった……思わず涙が出そうになる。
これでもう周りの目ビクビクせずに生活出来るんだな……
町の外に森が有るとは限らないが、今の俺にはそれを探そうと思えるだけのモチベーションが合った。
一文無しだから地図を買う選択肢は無い。
持ち物も騎士から剥ぎ取った鎧と剣しか無い。
そして顔さえも無い。
そんな無い無い尽くしの俺だが夢と希望は人一倍有る。
見た目は完全に化け物だが、心はまだ人間だ。
俺の人生はまだ終わっちゃいない。
これから続きをやるんだ。
俺はしっかりとした足取りで、町の外へと一歩踏み出した。