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61.命の危機

「……ん……さん!ケンイチさん!」


「あ……あ?」


体に振動が伝わる度、闇に沈んでいた意識が少しずつ地上へと引き戻される。

ぼやける視界の先に見えたのは、見慣れたうさぎの顔と朽ちかけた土色の風景だった。

ここは……遺跡か。

自分の気絶した原因になった蠅の姿を思い出そうとするが、其処だけ靄がかかったかの様に思い出せない。

ああクソ……何だったんだあれは、エグい威圧感だったぞ。

なんだ?ウサギと言い蝿と言いこの世界では小さい方が強いのか?まぁでかいブラウは例外として。


「大丈夫ですか!?」


「……ああ、大丈夫だ。」


体を起こすと、頭を激痛が襲った。

つぅ……頭割れるわ……。

二日酔いってこんな感じなんだろうか。

なんかグワングワンしてる。


「箱の中身を見たら急に倒れて……それで……。」


ブラウがアタフタしながら説明しようとしてるが、要領を得ていない。

自分の状況は分かってる。

魔力切れによる気絶だ。

今は頭痛以外に取り立てて問題は無いが、強いて言うなら体が怠い気がする。

こっちは問題のない範囲でだけど。

学校をズル休みするかしないかの境目くらいだ。


「そっちは無事か?」


「は、はい。こっちは元気ですけど……。」


俺は鎧に付いた土埃を払いながら立ち上がる。

あー、本当に頭いたい。

こりゃ帰ったら速攻二度寝だな。

こんな辛気臭い場所、さっさと立ち去ってしまおう。


「ブラウ、さっきのジャンプもう一回できるか?」


「できますよ。また私の背中に乗ってください。」


「分かった。」


俺はブラウの背中に跨がった。


「じゃあ飛びますよ!」


バヒュン!


何度聞いてもジャンプに付くにはどう考えてもおかしい効果音を聞きながら、俺とブラウは空へと到着した。

さっきので学習したから、絶対に下は見ないぞ。

絶対……絶対……!

でも、そう考えるほどに見たくなるのが人間な訳で。

俺はちょっとだけ下を見た。

小さく見える地上、飛行機とかと違い完全にバリアフリーと言うかノーガードなブラウの背中は、その恐怖を更に助長している。

一言で言おう!クソ怖いぜ!


「わぁぁぁ!」


つい情けない悲鳴が出てしまった。

前の世界では高所に行くこと自体殆ど無かったから気付かなかったけど、元々俺は若干高所恐怖症の気が有ったのかも。

ブラウの背中にしがみつき、何とか耐える。

これ……多分着くまで大分時間掛かるよな……?

ヤバイ、死ぬかも。

いっそのこと意識を手放せれば楽なんだが、俺の神経は空中でそれを実行出来るほど図太くはない。


「あれぇ……ここ何処ですかね……」


気のせいだと信じたいが、ブラウがそんなことを呟いた。

俺がそれに文句を言おうとした瞬間、一際強い突風が吹く。


「ぁあああ!」


あまりの恐怖に意識が遠退いていく。

だ……めだ。

今気絶したら死ぬ。余裕で死ねる。

そう自分を奮い立たせようとしても、無駄。

俺の意識は完全に闇に染まった。



「着きましたよー」


ぺちぺち。


「起きてくださーい。」


バチバチ。


「起きてくださいってば!」


バゴォン!


「はうっ!」


俺はブラウに叩き起こされた。

ふと息を吸うと、懐かしい緑の匂い。

森だ!森に帰ってきた!


「全く……私にだけ走らせて自分は寝るなんて酷いですよ!」


「……おう。」


そういや、気を失ったのにどうして落ちなかったんだ?

ふと自分の体に目を落とすと、鎧の間接部の隙間に何本か毛が挟まっていた。

なるほど。挟まった毛が拘束具変わりになって助かったのか。

良かった……悪運が強くて本当に良かった……!


「それじゃあ帰るか。」


「はい!」


俺とブラウは目の前に広がる大森林の奥に進んでいく。

どうなることかと思ったけど、何とかなって良かった。

この後も色々ゴタゴタするかもしれないが、今は家でゆっくり眠りたい。

奥へ進んでいく。

15分程歩くと、家がある開けた場所が見えてきた。

そこにはーー

緑髪の少女が土の山の前に体育座りしてうずくまっていた。


「あ。」


……そういや俺、色々忘れてたわ。

急いでたからハーネス放置してたし、そもそもあの土どうすんだ。

かなりがっつり乗っけたから、どかすのムズいし。


「け、ケンイチさん?これってどういう状況ですか?」


ブラウが昨日まで自分の家だった土と、見知らぬ少女を見比べながら言った。

……いや、この状況自体殆ど俺が作り出した物なんだけれども、正直どうしたら良いかわからない。

ハーネスって自分の出した土消せるのか?

一応やって貰ってみて、それで消えたらさっさと帰って貰おう。


「お、おー、ハーネス。」


「けんいち!」


俺はブラウに一旦待機して貰ってハーネスに近づくと、暗かった表情をパッ、と明るくして駆け寄ってきた。

まるで一晩中泣きじゃくったみたいに目が真っ赤になっている。

寝不足か?

つかまだ靴履いてないし。

もしかして昨日からずっとここで待ってたのか?

ハチ公かこいつは。


「おい、家を……」


「どこ行ってたの!?何で私を置いて行ったの!?役に立てたのに!私は役立たずなんかじゃないのに!私の事捨てないよね!?ねぇ!ねぇ!私ね、寂しかった、寒かった!待っても待っても帰って来なくて!泣いても誰も私に話しかけてくれなくて!お父さんも、お父さんもお父さんもお父さんだって私を捨てた!あっ、ごめんね?けんいちがいるからもうだいじょうぶだよ!あなたに言ったんじゃないんだよ?だって私達はお友達だもんね?私の事を気持ち悪がらなかった!可愛いって言ってくれたもんね!?ずっと一緒にいてよ!あなたが死ぬとき私も一緒に死ぬから!ずっと一緒に死んでよ!」


ハーネスは凄まじい速さで呪詛の様に何かをぶつぶつと言っている。

怖いよぉぉぉ!

軽く泣きそうだよ……。

後ろを振り向きブラウに助けを求めたが、怯えた目をして「頑張って!」とジェスチャーしてきた。

あ、アイツ……。

つか一晩の間にこいつに何があったんだ。

もしかしてこっちが素とか?

これもうバナス大森林からの引っ越しも視野に入ってきたな。

最後しか分かんなかったけど、「ずっと一緒に死んでよ」ってなんだよ。

さっきの蝿とは別種だけど同等の恐怖を感じたよ……。

俺、死ぬの?

やだよ!(直球)



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新作はじめました。 現代日本で騎士の怪物になってしまった男の物語です。 貌無し騎士は日本を守りたい!
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