56.藪をつついて出た竜を狩るウサギ
「逃がすなぁぁぁ!」
俺とブラウは、後ろから迫ってくる男共の怒号に圧される様に走り続けていた。
騎士達はワイバーンや馬、果てにはペガサスみたいなヤツに乗っかった奴までいる。
『観察 』してみるか。
レベルが上がってから地味にまだ使ってないからな。
今度は一体どんな効果が付いているんだろうか。
「鑑定。」
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【『リグニル』ランクE-】
【ランクの割には知能がとても高く、人に従順】
【無尽蔵なスタミナを持ち、短距離よりは長距離が得意】
【『レッサーワイバーン』ランクC-】
【末端だが竜種の血を引いているため強靭な肉体を持つ】
【独自の体内器官によって魔力を消費せずにブレスを放つ】
【『ガングルニル』ランクC 】
【リグニルの進化先、人に愛され育ったリグニルが至る姿】
【地を駆け巡り、空を駈る。】
【おとぎ話の英雄が幼い頃に出会い最後まで戦場を共にしたため、王族や貴族の間では子供が男であれば、生まれたてのリグニルを生涯の友として託す風習が存在する】
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マジか、ワイバーンじゃなくて、あのペガサスみたいなのが一番強いのか。
と言うか、観察のレベル上がったのに分かることが増えてなくないか?
不思議に思いもう一度後ろを見ると、前まで魔物にしか見えなかった観察の『取っ掛かり』みたいな物が人間にも有る事に気がついた。
え……もしかして人間にも使える様になったの!?
「か、鑑定!」
【『バルカン・カイエル』レベル65】
試しにペガサスに乗っている一際強そうな鎧を着た騎士に使ってみると、名前とレベルが見えた。
おお……これは中々に便利なんじゃないのか?
つか、強くね!?レベルが俺の倍以上あんだけど。
勇者って一体……。
「ケンイチさん!跳びますよ!」
「え?お前飛べんのか!?」
その瞬間ブラウがジャンプし、圧倒的な圧力を感じた後ーー俺は雲の上に来ていた。
「ぁあああ!?跳ぶってそっちぃぃぃ!?」
どんな脚力してんだコイツ!
なんか地平線みたいなのが見えるぞ!?
俺まだ飛行機乗ったこと無かったのに!
こんな形で空の旅を初体験するなんてぇぇぇ!
「あばばば!」
「追われない為に、少し遠回りして行きますよ!」
なんかブラウが、空気を踏んで走り出した。
下を見ると、霞んだ雲の先にかなり小さく騎士団の姿が見える。
怖ぇぇぇ……。
これ落ちたら再生の間もなく即死だよな……!?
「ブラウ!ゆっくり!ゆっくり行こう、な!?」
「……まぁ、もう追い付かれませんしね。」
ブラウの足取りが、少しゆっくりになった。
はぁ……!はぁー!
助かった……。
これでもう安心だな!
「ギルォォォ!」
そのとき、背後から凄まじい咆哮が聞こえた。
うわぁ……2秒でフラグ回収しちゃったよ……。
俺はギギ、と効果音が付きそうな速度で振り返る。
そこには、紫色の鱗に包まれた巨大な龍が飛行していた。
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【『ガナ』ランクB-】
【正真正銘の竜種。その翼は常に魔力を帯びており、無敵の盾にも比類なき矛にもなる。】
【鱗が周囲の空間から魔力を吸い上げるため、空気中の魔力を使う魔法が通用しない。】
【老いれば老いる程生命維持本能で魔力を吸い上げる量が増えるため、若い個体より老いた個体の方が強力。】
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「あ、あ、あ……。」
は、ははは。
遂にBランクと遭遇しちゃったよ……。
しかも説明を見る限り壊れ性能だし。
「ブラウ!走れ!」
俺がブラウに叫んでも、ガナをじっと見たままで返事がない。
も、もしかして……怖じ気づいたのか?
無理もないのかもしれない、恐らくブラウにしたら初めてと言っても良い格上だろうからな。
「ケンイチさん……。」
ブラウがやっと反応した。
この間にもガナはこちらに接近してきている。
「逃げるぞ!」
「私……多分あれに勝てますよ。」
「え?」
か、勝てる?
だってお前はC+で相手はBランクだぞ?
同ランクの相手はワンパンできても流石に……。
「行きますよ!」
「あ、待て!」
ブラウはガナに向かって走っていった。
当然、俺もその上に乗っている。
近づいてきてはっきり見えたそいつの顔は、テリトリーを侵されたせいなのか怒りに染まっている。
俺は迫り来る圧倒的な上位者の気迫に何もしないのが怖くなって、通用しないと分かっているクロスボウを打ち込んだ。
しかし撃ちだしたボルトは鱗にさえ届かず、その翼が纏っている風に弾かれた。
こ、これが無敵の盾ってやつか?
クロスボウが通用しないと言うことは、あの風だけで最低でもグレーターベア並みの防御を持っている事になる。
これがBクラスか……。
ドゴォン!
凄まじい衝撃と共にブラウと風のバリアがぶつかる。
ブ、ブラウのタックルに耐えてる……。やっぱり厳しいんじゃ?そう思いながら俺も一応バイルバンカーを撃ってみたが、食い込みさえしない。
その時、ブラウが右手を突き出した。
バゴォン!
「え!?」
「グァ!?」
その拳は、目で見える程に強靭な風の膜をぶち抜く。
その先でガナの表情が驚愕に染まっていた。
そ、そうか、最初のタックルは俺を振り落とさない為にセーブしてたから、バリアに耐えきられたのか。
「やはりダメージは貫通してませんね……。けど、さっきの騎士さんの防壁よりはずっと柔らかいです。」
ブラウが一瞬で距離を詰め、ガナの体を貫いた。
貫かれた自分の胸を見て、「怪物が……」みたいな顔をしている。
分かるぞ……その気持ち。
「ガァァァ……」
ガナの体から力が失われ落下していく。
良かった……今度こそ本当に助かった……。
【経験値を3800獲得しました。】
【『斎藤健一』のレベルが29から35へと上がりました。】
え?
なんで俺にも経験値入ってるんだ?
もしかして……俺が撃ったクロスボウとバイルバンカーのお蔭か?
あれだけで戦闘に貢献した事になるのか……。
寄生プレイみたいで嫌だが、まあ良いだろう。
「じゃあケンイチさん、行きますよ!」
「おう。」
俺を乗せたブラウは、また走り出した。
ちょっ……早いって!