53.新装備
冒険者ギルドは、意外と直ぐに見つかった。
ドアを開けると、視線が俺に集中……しなかった。
と言うか、うるさすぎて皆俺に気づいていない。
気が楽だな。
ふと、前にはブサイクな受付嬢がいたカウンターを見ると、金髪の華奢な美少女がいた。
……なるほど。
客入りの少ない朝はブサイクな受付嬢を駆り出して、可愛い娘は夜に出すってわけだ。
世知辛いな。
多分給料も夜の方が格段に良いのだろう。
異世界にも確かに顔面格差は存在すんだな、ちくしょう。
とりあえず、聞き込むか。
俺は隅っこでチビチビと一人で静かに飲んでいるおっさんに近づいて行った。
一対一の方が聞き込みはしやすいしな。
「よう、やってるかい?」
俺はおっさんの向かいの席にドカッと座り、アメリカンなノリで話しかけた。
おっさんは俺を一瞥したあと、直ぐに酒へと目を移した。
俺は聞き込みをしようとしたが、何か違和感を感じた。
店が、静まり返っているのだ。
しかも客の視線が俺の席へと集中している。
な、なんだ?何が起こった?
「あいつ死んだな……」「俺達も逃げとくか?」「いいや!久々にギルさんの技が見られるぞ。」
急激にアウェーになった空気に思わず身がすくむ。
俺がアタフタしていると、おっさんが立ち上がった。
「……俺に用があんだろ?着いてきな。」
そして椅子に立て掛けてあった大剣を担ぎ、店から出ていく。
ポカンとしていると、金髪の青年が近づいてきた。
「おい、アンタ正気か?ギルさんにケンカを売るなんて……。」
「どういうことだ?」
「おいおいしらばっくれんなよ。ホラ、早く逃げるか表に出るかしろ。殺されはしねぇからよ。……多分。」
なんすかそれ。
あのおっさんそんなにヤバイの?
これは逃げるしかないな。(確信)
「忠告感謝する。逃げるわ。」
「……おまえ、情けないな。」
う、うるせぇ!別にビビったとかじゃねぇし!
急いで無かったら相手してたし!
「そういやお前、今日でかいウサギを見なかったか?」
「ん?ああ、馬車に積まれて城に運ばれて行ったよ。見世物かもな。」
し、城?何でだ?
普通魔族なんて危険な存在、王がいる城に運ばないだろう。
何か理由があるのか?
まあ良い。さっそく城に行こう。
「ありがとな。」
「おう。まぁギルさんの機嫌が良ければなんとかなると思うから、気張ってにげろよ。」
「おう。」
俺はギルとやらに見つからない様、裏口から小走り出で城に向かった。
ガラの悪い悪い連中も多くいたが、流石に全身鎧を着こんだ190センチの男にケンカを売ろうとは思わないのか絡まれる事はなかった。
必要のない戦闘はしたくないからな。
こっちはHPも魔力も、よく考えて使わなければいけないのだ。
しばらく走っていると、城が近くに見えてきた。
前は城壁をよじ登ったから気づかなかったが、長槍を持った騎士二人が門の前に立っている。
流石城と言うべきか、町の門にいた兵士より大分格上に見える。
さて、どうやって入ろうか。
仲間のフリをしようにも、俺は鎧がボロボロ過ぎてむしろ怪しまれる可能性が高い。
……二人程度ならやれるか?
一人は奇襲で倒して、もう一人は何かしらで意識を刈り取る。
よし、これで行こう。
俺は門番の騎士に近づいていった。
「む、なんだ貴様は。」
……バレた。
そりゃそうか、武装した怪しい騎士が近づいてきたらバレるわな。
こうなりゃ強行突破しかねぇ!(思考停止)
「おらぁ!」
「ぐふぉ!?」
俺は拳を硬くして右の騎士に殴りかかった。
騎士は突然の事態に対応出来なかったのか、思いきり吹き飛んでいった。
ざっと5メートル位飛んだな。
俺も遂に人間卒業か?
「貴様ぁぁぁ!」
もう一人が槍を持って突っ込んできた。
しかし、遅い。
穂先が止まって見えるぞ。
俺は槍を避けて、持ち手の部分を膝で思いきりへし折った。
「怪物が……!」
騎士が背中からクロスボウを抜こうとしたが、その前に殴り飛ばす。
そして、グッタリした二人の騎士を路地裏に隠し、鎧を奪った後、俺は門の中に入っていく。
中には美しく整えられた木々と、大量の騎士が巡回していた。
しかし鎧を奪ったお陰で今の俺の見た目はこいつらの仲間だ。
恐れる必要はない。
庭園をそれっぽく巡回するフリをしながら、ブラウが居そうな場所をさがしていく。
しかし全く見つからない。
と言うか、ブラウはもう起きているハズだ。
何故に騒ぎにならない?
それともこの城には勇者以外にブラウが暴れても鎮圧出来る存在がいるのか?
その時、騎士が地面に付いた蓋を開け地下に入っていくのが見えた。
まさか……と思いこっそり後を着ける。
その中に入り、辺りを見渡すと……
【ゴブリン】
【オーク】
【イーヴィルタイガー】
【スライム】
【アンデッド】
【ベルジール】
【リトルコカトリス】
【ベビーロックドラゴン】
【ファーガルド】……
大量の魔物が犇めいていた。
俺は驚いたが、直ぐさま別の違和感を感じた。
魔物が檻に入れられていないのだ。
不思議に思ってよく見ると、魔物が自分を囲む空間に向かって爪を振るったり牙を剥いたりしていたが、ゴィィン!と言う鈍い音と共に弾かれていた。
な、何がどうなってんだ?
まるで見えない壁に閉じ込められているみたいな……。
そして更に辺りを見ると、奥の方にブラウを見つけた。
おお!よし!
「ブラウ!大丈夫か?」
「え……ケンイチさんですか!?どうしてここに!?」
ブラウ驚いた顔をしてこちらを見ている。
「いいから逃げるぞ!」
「で、でも何故か動けないんですよ……。」
動けない?どういうことだ。
ブラウも周囲の魔物と同じく、檻には入っていない。
「どういう……」
「誰だ、貴公は?」
後ろから声が聞こえた。
振り向くと、見慣れた鎧を着た騎士がいた。
しかし、聞き覚えのある声だな。
……コイツ、ハルメアスだ。
絶対に俺だと気づかれない様にしないと。
「い、いえ……こいつらが逃げ出していないか確認しに来ました。」
「えらくボロい鎧だが……新入りか?その心配は無用だぞ。コイツらは私の魔法で封じてある。」
魔法?この見えない壁の事か?
俺が試しにブラウに触ろうとしてみると、確かにブラウに触れる瞬間何かに遮られた。
こいつ、そんなもん使えたのか?
だったら何で俺との戦いで使わなかったんだろうか。