49.格上
俺とハルメアスは互いに距離を取り、構えていた。
こっちはもう一発もらっちまった。
喰らっていいのは残り一発。
ハッキリ言って俺の剣の技術はそこらの盗賊より遥かに低い。
スキル化してるだけ『刺突』とかの単発はマシだが、足さばきとかは完全に素人だ。
だから今までは魔力変質による相手の虚をつく攻撃や、肉体再生で窮地を脱してきた。
しかし、目の前のこいつにはどちらも使えない。
いや、使えなくもないが、使ったら俺は急に体から武器が生えるビックリ人間になってしまう。
「来ないのか?ならばこちらから行くぞ!」
やばい来た!
ぶっちゃけこのルールじゃ正面切って勝てる相手じゃねぇ!
俺は全力でバックステップしながら逃げた。
とにかく作戦を練る時間が欲しい。
「随分臆病なんだな?」
「……」
ハルメアスの剣が俺の一寸先の空気を掠める。
そして避けたかと思えば、剣が生き物の様に変則的な軌道で再度俺に迫ってきた。
うお!危なかった……。
咄嗟に剣を挟み込まなければあのまま押しきられてた。
けど競り合いになればこっちのもんだ!
俺は思いきりハルメアスの剣に力を掛ける。
力で負けるつもりは無い。
今度はこっちが圧しきってやるよ……!
受け流されても対応できる様に、軸足は後ろにして直ぐにバックステップできる様に構えた。
しかし以外に力が拮抗している。
え……?このっ!このっ!
いくら力を込めてもハルメアスの剣はビクともしない。
向こうは、大して力が入る体勢でもないのに。
俺は薄ら寒い物を感じて堪らず退いた。
……前言撤回。
コイツは力も技量も俺より上だ。
「怪物が……」
「とんだ期待外れだったな。やはりそうか。」
やはり、とはどういう事だ?
「何が言いたい?」
「貴様、盗賊だろう?グレーターベアの件も全くのでっち上げで、村人を自分達の食い物にするために恩を着せた。その鎧も盗品だ。違うか?」
ち、ちげぇし!
盗みの件に関しては否定出来ないけど!
ヤベェ……盗みに詐欺、どんどん容疑が増えてくぞ……。
なんとしても勝って実力を証明しなければ。
そのためには、魔力変質をなんとか使える理由を作らなければ
ならない。
……武器召喚、とか。
ブラウも召喚獣って事にしてるし、それでいくか?
いや、でもそれじゃあ今まで使わなかった理由が無い。
それに俺のは召喚と言うか生えてきてるし、見た目でその異質さが分かってしまう。
しかも確か城でステータスの魔力変質を見られていた。
ハルメアスがもしあの場にいて、もしも先代の勇者とかの記録で魔力変質を知っていたりするかもしれない。
いっそ右腕とかを見た目変質をさせて、そこからだけ武器を出す様にしたりしてみるか?
「できれば使いたくなかったのだがな……」とか言いながら使えば体に負担があるって事にもできるしな。
しかもそんな物を村人のためにグレーターベアに使ったとなれば、評価はうなぎ登りだ。
うん!それしかねぇ!
「いたしかた無い……アレを使うか……!」
ハルメアスにも聞こえる様に大きな声で言う。
俺は右手を赤黒い感じに変質させて、そこだけ鎧を外した。
過剰な再生の積み重ねによる腕の異形っぷりが余計不気味さを助長している。
「……なんだそれは」
「これは、先程言った私の師から受け継いだ物だ。」
「なに……!?」
うしうし、驚いてるぞ!
「この腕はな、大昔に上級の魔族を封じた物だ。」
「上級……だと?」
「当然、代償がない訳ではない。これを使うと内側から魔族が力を放出してくるのだ。そしてそれは明確な俺への殺意の形として武器として表に出る。」
俺はそう言ったと同時に、その腕からおよそ10本程の剣の刀身のみを生やした。
俺の魔力が180ちょいで、今のパフォーマンスで15消耗した。
使えんのは165。
十分だ。
そしてそこから一本刀身を抜き、ハルメアスに投げつける。
キィィィン!
呆気にとられてはいたが、なんとか防がれた。
が、まだ終わりじゃない。
今の隙に装填した、先端だけ丸くして殺傷性を下げた5メートルバイルバンカー。
先程のはあくまでもブラフ。
本命はこっちだ。
「っらあ!」
「っ!」
打ち出した刹那、ハルメアスにインパクトする先端。
軸を捉えたお陰か、そのまま吹き飛び、後ろの木にぶつかって止まった。
これで一対一だ。
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【『バイルバンカー』のレベルが1から2へ上がりました】
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もう一発打てるぜ?という意図を込めて右手をグーパーしながらハルメアスを睨み付ける。
さっきので消費したのが40。
残りは125だ。
あと125㎏分、俺は何かができる。
さっきのは初見殺しみたいなもんだから次はバイルバンカーじゃ通用しないだろう。
しかし、魔力変質のお陰で作戦の幅がグンと広がった。
勝てるぞ、勝機が見えた。
「待て。この手合わせは貴公を試したのだ。元より鎧を奪うつもりはない。」
ハルメアスが立ち上がりこちらを制止する様に言った。
あんだって?
「なに?」
「貴公がグレーターベアを倒したと言う話、私は正直信じてはいなかった。むしろ、村人をだます騎士モドキを成敗してやるつもりだった。」
騎士モドキって……
コイツ今奇跡的に正解を言い当てたぞ。
「しかし、剣を交えて解った。貴公はそんな人間ではないとな。そしてグレーターベアを倒すほどの実力も備えている。疑って悪かった。」
ハルメアスは立ち上がり、何処かへと歩いて行った。
なんだったんだアイツ……。
でも、なんとかなって良かった。
よし、それじゃあ村にブラウを回収しに行くか。
「けんいち!だいじょうぶ!?痛いとこ無い!?」
ハーネスが駆け寄ってきた。
大丈夫だ、グレーターベアの薙ぎ払いに比べりゃアイツのヤクザキックなんて屁みたいなもんだからな。
「ああ、大丈夫だ。」
「ケンイチが痛そうにしてて、凄く苦しかった……もうあんなの辞めてよ……!」
……何でこいつ俺の事こんなに心配してくれてんだ?
「そんなに心配することは無いだろう。」
「そんなことない!ケンイチは、私を初めて……!」
……急にヒロインみたいになりやがって。
俺はハーネスの頭をクシクシ撫でて村に歩きだした。
まるで年の離れた妹ができたみたいで、ちょっとむずかゆい気持ちになった。