48.本職
「……」
「……」
騎士……もといハルメアスは俺をじーっと見ている。
バレたか……?
身長のせいで凄まじい威圧感だし、鎧のせいで表情が見えないのが余計に怖い。
つか俺って他人からみたらこんな感じなのかな?
高い身長に鎧って俺と同じ特徴だしな。
これから村人とかと話す時はなるべくフランクにしよう。
「き、き、き、騎士ひゃま!?何の御用でしょうか!?」
横に立っていたハーネスが沈黙に耐えられずに口を開いたが、緊張し過ぎて口が回っていない。
ハーネスよ……こういう場合コミュ障がでしゃばると大抵痛い目にあうぞ……。(戒め)
「む……貴女はハーフエルフか?」
騎士がハーネスの耳を見ながら言った。
あ、この世界ではハーフエルフは差別の対称だっけ?
まぁ大丈夫だろ。
騎士なら表立って人種差別はしないと思う。
「うあ……違う!わた……儂はハーフエルフなんかじゃない!」
ハーネスは凄まじい勢いで耳を隠して俺の後ろに隠れた。
おお……急にヒステリックになんなよ……。
と言うか、俺の後ろに隠れんな。
自分が稼いだヘイトを他人にぶつけるのは良くないぞ。
俺はハーネスを前に立たせ直した。
「ケンイチ……」
ハーネスが悲痛な目で訴えて来るが、気にしない。
「いや、そういうつもりで言ったのではないぞ。勘違いさせてしまったならすまない。あと……貴公よ、奴隷とは言え流石に裸足で森を歩かせるのは辞めてやれ。」
ハルメアスが若干引いた様子で言ってきた。
ど、奴隷?あ、今ハーネスが裸足だからか。
今気になったが、この世界に奴隷っているのか。
世界観明らかに中世だけど、地球の史実にもこの時代に奴隷っていたのか?
いや、確かアメリカとかでも結構最近の昔まで奴隷は存在したから、居てもおかしくは無いか。
とりあえず誤解を訂正しなければ。
「いや、コイツは奴隷じゃない。」
「ならなんだ?兄妹か?」
「違う!私とケンイチは!」
「そうだな、強いて言うなら只の隣人だ。」
「え……?」
「そうか……なら余計に辞めておけ。」
よかった。
何とかなったっぽい。
このままでは俺のイメージが怪しい騎士から少女を裸足で歩かせる鬼畜になってたからな。
危なかった危なかった。
「それはいいのだが、もしかして……村人の言っていた『騎士様』というのは貴公の事か?何でもグレーターベアを倒したとか。」
あれ?確か村人にその事言うなって口止めしたよな?
それはそれで問題だが、今はナイスだ!
怪しい騎士から村の英雄へとグレードアップだぜ!
「そうだが。」
「おお貴公が!話を聞いてから1度会いたいと思っていたのだ!さぞ腕が立つのであろう?」
騎士は声のトーンを一気に明るくして詰め寄ってきた。
お、おう。
けどあの時勝てたのはグルットが腕もいでくれてたお陰だと思うし、レベルが上がった今でも万全で戦ったら厳しいと思う。
だが、謙遜はしない。
実際より強いと思われた方が色々と都合が良いだろ。
「どうだ……?ここで一つ、手合わせをしてはみないか?」
ハルメアスがまるで、それが素晴らしい提案であるかの様に言った。
は?いやいやいや!?
挨拶もそこそこに戦いとかどこぞのバトルジャンキーかよ!?
やらねぇ。絶対やらねぇ!
こいつ絶対強いもん!なんだよハルメアスって!
もう名前だけで強キャラって分かったわ!
「すまないな。私は誰かを守るためにしか剣を振るわないと誓っているのだ。」
ビビってると思われない様に、ナメられない様に、慎重に単語を選んで言葉を紡いだ。
いくらバトルジャンキーと言えどもこちらが絶対にしたくないと言えば、無理強いはしないだろう。
「ふむ……ならこうするのはどうだ?貴公が私に勝てば、鎧
の件は黙っておいてやろう。しかし断れば……わかるな?」
こ、こいつ……何でどいつもこいつも俺に鎧を脱がさせようとすんだ……。
マーフィーの法則ってやつか?
剣とかならいくらでも差し出してやるのに。
このまま逃げるって手もあるが、それは後々の村との交流に響いてきそうだからよろしくない。
負けなければいいのだ。負けなければ。
「分かった。やってやる。」
俺は剣を抜き、それっぽく構えた。
「まぁ待て、流石に決闘はしない。あくまで遊びだ。ルールは相手の胴体に先に三回攻撃を当てた方の勝利。鎧が無い手首などを狙うのは禁止でどうだ?」
案外マトモだな。
こっちはゾンビ戦法で最悪デスマッチに持ち込む覚悟もあったのに。
俺は鎧を剥がれるイコール死だからな。
「異存はない。」
「よし、それでは貴女、掛け声を頼む。」
「えっ、儂が?」
ハーネスが驚いた顔で自分を指差す。
そりゃそうだ、戦いの当事者がやったら不公平だからな。
「じゃあ……は、始め?」
「おらぁぁぁ!」
俺は合図の瞬間に走り出し、ハルメアスを切りつけるべく胴体めがけて剣を薙ぐ。
しかしそう上手く行くハズもなく、あっさりと向こうの剣に防がれた。
「貴公の持ついわゆる直剣は『切る』事は不得手。これが模擬戦とは言えそれは悪手だぞ。貴公。」
そして力比べに持ち込もうとした俺の剣をヌルリと受け流し、重心を崩した隙に思いきりヤクザキックを食らわしてきた。
俺は吹き飛び、衝撃で口に胃酸が込み上げる。
「がっ……!」
「これで一発目だ。貴公は力に自信がある様だが、剣術に関しては素人に毛が生えた程度だな。」
唾を飲み込み、体勢を整え直す。
ち、ちくしょう……。
予想より大分強いぞコイツ。
前の盗賊とは段違いだ。
というか魔力変質が使えないのがキツイ。
今まで再生チートでごり押ししてきたツケがまわってきたか。
さて……どう勝つ?