46.双大剣
村に入って最初に感じたのは、ブラウへの圧倒的な数の視線。
村の皆は恐怖は感じていない様だが、何か浮き足立っている様な感じがした。
「す、凄い見られてますね。」
ブラウは周りを見渡していたが、村人と目が合う度にその村人はビクッ!として、後ろの方に隠れてしまった。
……まあ、この世界には魔物と言う存在がいるから先入観で怖がっているんだろうから、その内馴れるだろう。
「き、騎士殿!」
俺がそう思っていると、村人たちを掻き分けて長い真っ白な髭を蓄えた村の長老らしき老人が走ってきた。
よっぽど必死に走ってきたのか、息がかなり切れている。
だ、大丈夫か?急にポックリ逝かれても俺心肺蘇生とかできないぞ?異世界にAEDの装置は無いだろうし。
「ど、どうした?」
「うしっ……ゲハァッ!ろのッ……ガハァっ!まもッ……カヒュッ!」
ヤバイヤバイヤバイ!死ぬぞこのじいさん!
「長老様!お水です!どうぞ!」
村人が水を持って走ってきて、長老の口に流し込んだ。
よ、良かった。村人有能かよ……。
長老は水をこくこくと飲み込み、少し呼吸を整えた後、やっと立ち上がった。
「騎士殿……お見苦しい所をお見せしました……。儂も後60才若ければ。」
「そ、そうか。」
見苦しいと言うか、こっちが見てて苦しくなるぐらい苦しそうだったぞ。
見苦しい(物理)って感じか。
「所で……後ろの魔物は騎士殿の召喚獣ということでよろしいのですね?」
「そうだが。何か問題でもあるのか?」
俺がそう尋ねると、長老は訝しげな顔をして、
「いえ……問題と言いますか、その召喚獣を見るとなにか胸騒ぎの様なものがして……」
胸騒ぎだって?俺はブラウを見る。
……ウサギだよな。
どうみても、どの角度から見ても、胸騒ぎの欠片もしない。
この長老どんな感性してんだ。
そう思って他の村人を見たが、大体の人がうなずいていた。
マジかよ……この村は一体ウサギになんの怨みがあるんだ。
「胸騒ぎ?」
「ええ、胸がざわつくのです。本能が警笛を鳴らしていると言いますか。」
なにそれ。どんだけだよ……。
……けど、心当たりが無いわけではない。
俺はブラウに『観察』を使った。
【種別:『魔族』】
多分これのせいだとは思う。
若干忘れかけていたが、ブラウは魔族だ。
魔族の出す、オーラ的なアレが人間に悪影響を及ぼすのかもしれない。
おそらくだが、俺は一応勇者だから魔族に耐性をもつのだろう。
だとしたら、ブラウと人間が仲良くなるのは難しいかもな……。
「騎士様!それ召喚獣なんですよね!?」
俺が前に刺突を見してあげた少年、確かリウスといったか。が近づいてきて、ブラウを指さしながらそう言った。
んん?コイツはブラウが怖くないのか?
「そうだが?」
「あ、あのっ!乗っかっても良いですか!?」
「こ、こらリウス!失礼だぞ!」
リウスがキラッキラした目で聞いてくる。
……これはチャンスかもな。
子供を乗せる事で、ブラウの人畜無害っぷりをアピール出来るかもしれない。
「構わないぞ!」
俺は親指を突き立てた。
「き、騎士殿!?」
「やったぁ!ありがとうございます騎士様!」
リウスがブラウに乗ろうと手を伸ばすが、身長の問題で届いていない。
乗っけてやれよ!と思ってブラウを見たが、緊張でガチガチ過ぎて、一点を見つめたまま小刻みに震えていた。
俺がブラウに目で訴えると、ハッとした表情をして、リウスをそーっと自分の背中に乗せてあげた。
「すげぇ!めっちゃ高い!しかももふもふしてる!皆も来いよ!良いですよね!?騎士様!」
少年に俺は笑顔で(向こうには無骨な兜しかみえてないが)サムズアップした。
すると村の奥から30人程の小さい子供たちが走ってきて次々とブラウにしがみつき、数十秒後には、キャベツの裏につくアブラムシの如く大量の子供たちがブラウにしがみついていた。
隙間から見えるブラウも嬉しそうだ。
もしかしたら子供には魔族のオーラ的なものは効果が薄いのかもしれない。
周囲の大人たちもブラウが子供たちにしがみつかれても乱暴に振り落としたりしないのを見て、心なしかブラウへの目線が少し和らいだ気がした。
これは希望が見えてきたぞ。
「やけにうるせぇと思って出てきたら……騎士様、ありゃあなんだい?」
後ろの家屋からグルットが出てきた。
え……?傷治るの早くね!?
数日前は全身包帯グルグル巻きだったのに、今は松葉杖らしき物を使えば歩ける程に回復していた。
「お、おい。傷はどうしたんだ?」
「ああ、俺『再生』持ちだからよ。あのくらいなら一週間で治るんだわ。」
やはり人外か……。
グレーターベアの腕もいだ所でちょっとおかしいなとは思ってはいたが、やはりこいつもアッチ側の人間だったか。
つかなんだよ『再生』って、それ俺の専売特許だろ。
ずるいぞ。
「んで、アレは何だよ?」
「俺の召喚獣だ。」
「……マジか。」
グルットが驚いた顔をした。
「マジだ。」
「俺にはどうもアレが人間と相まみえる存在には見えんがな。」
いや、俺アイツとルームシェアしてんすけど。
しかもワンルームの一軒家で。
いかにも暴走フラグっぽい感じで言っちゃったけど完全に気のせいだからな?
なに鋭い目して言っちゃってんの。
今お前すげぇカッコ悪いぞ。
「まぁアイツが暴れた時は、この『グルット』に任しときな。」
急にどうしたこいつ。
「急にどうした」
「ふっ……、この俺の実力を知らないとは。騎士様もまだまだだねぇ。」
グルットが軽くにやけながら言う。
「お、おう。」
「Bランク冒険者、双大剣のグルットと言えばピンとくるか?」
グルットが松葉杖の片方を俺に向け、そう言った。
そのせいで片方の足がプルプルしている。
いや、それが言いたかっただけだろ。
それに俺はずっと森にいるからBランクとか分かんないし。
「知らんな」
「あれぇー!?」
グルットがこけた。
すげぇ、俺初めて現実でビックリしてこける人見たよ。
「ま、マジか!?マジで知らないのか?」
こいつマジマジうるさいな、マジで知らんて。
「知らん。」
「く、くそぅ。今度は倉庫から双大剣持ってくるから!それ見たら絶対分かるから!」
双大剣お蔵入りしてんじゃねぇか!
全く……使ってない武器を二つ名にすんなよ。
それじゃ多分俺が現地人だったとしても分かんないぞ。