45.大きな一歩
目の前に見えるは堅牢な柵、ただでさて頑丈そうな木の棒を何本も組んだ物に、これでもかと言うほど針金?らしきものが巻き付けられている。
真ん中に付け外しできる壁が付いており、それを使用して出入りができる。
「わ……、前見たときより頑丈になってますね。」
ブラウがびっくりした顔で柵を見ていた。
一度来たことがあるんだな。
「前ってどのくらい前だ?」
「100年前位ですね。」
「なにそれこわい」
ええ……。
100年って前会ったババエルフ……もといハーネスよりずっとベテランじゃねぇか……。
「え……、じゃあお前何歳なんだよ!?」
俺の言葉にブラウは悪そうな顔をしながら、「ふふふふふ……知ったらもう後戻りできませんよ……?」
とか言ってきた。
んだよそれ……。
まあいい。
今は村に入るのが先決だ。
俺は柵の前に立つ。
ブラウはビビってるのか俺の後ろで縮こまっている。
まぁ縮こまっても俺より遥かにデカイんだがな。
「おーい!私だ!開けてくれ!」
「あ、はい騎士様!何かご用でし……へえっ?」
当番なのか知らないが、前回も柵の近くにいた青年がマヌケな顔をしながら俺の背後に目線を釘付けにしている。
「ん?どうした?」
「き、騎士ぁ……!う、後ろに何かいます!」
あ、そうか、ブラウのことか。
明らかにウサギを見る目じゃないから気づかなかった。
「ああ、すまないな。紹介する。コイツは俺の仲間で……」
「魔物がっ……!魔物が来たぞぉ!!!狩人を!特にグルットさんを呼べぇ!早くぅっ……はやくぅっ!!!」
シャリンシャリンシャリン!
青年が叫びながら何かのレバーらしき物を下げると同時に、村の中と外両方で凄まじい鈴の音が響き渡る。
ちょっ……ヤバイヤバイヤバイ!どうしてこうなった!?
「おい落ち着け!コイツは安全だ!」
「魔物だぁぁぁ!!!まものだぁぁぁ!!!」
青年は喉が張り裂けそうなほど叫んでいて、パニックに陥っている様だった。
……ああ!!!
マジでどうしてこうなった!
「何事……って魔物じゃないですか!っ!騎士様!後ろに魔物がいます!そこから離れて下さい!」
村の奧から身軽そうな狩人装束を纏った青年が出てくる。
その服装通り、狩人なのだろう。
ブラウを一目見た瞬間覚悟を決めた様で、「刺し違えてでも……」という雰囲気がビンビン伝わってきた。
「鮮血ウサギの亜種か……?だとしたらこの村どころか王都が陥落する可能性さえ……。」
狩人の青年が切羽詰まった表情で何やらぼそぼそ口にしている。
ここには話が通じる奴はいないのかよ!
……そうだ!
俺は後ろでもうどうしたらわからなくて震えているブラウにこっそり耳打ちする。
(ブラウ!俺が「召喚解除!」って言ったらあいつらの目に見えない早さで森の茂みにかくれろ!)
(え……?わ、わかりました!)
こうなったらブラウを、俺の召喚獣的な物だという事にして丸く納めるしかない!
完全に俺の管理下にあることに建前上しておけば問題無いだろ!
(よし!いくぞ!)
(は、はい!)
(せーの……)
「召喚解除!」
俺はそれっぽいポーズをとりながら青年達にも聞こえるように大きな声でそう叫んだ。
その瞬間俺の後ろで凄まじい旋風が巻き起こり、ブラウの姿が掻き消える。
「へ?」
青年達はおれの方を見て硬直し、10秒後程にようやく再起動した。
ちなみにこの間俺はポーズ決めたままね。
「き、し、さま?それは、どういうことでしょうか?」
青年の問いに俺はゴホン、と咳払いをしてから答える。
「あのウサギは俺の召喚獣でな。怖がらせてしまってすまない。」
「へああっ!?あれが召喚獣ですか!?」
俺の言葉に青年は目を目玉が飛び出さんばかりに見開いた。
なんだ「へああっ!?」って、はじめて聞いたぞ。
「ああ、そうだ。苦労したがブラ、……アレは完全に俺の管理下にある。」
「そ、そうなんですか……はぁぁぁ!良かったぁぁぁ!」
狩人の青年は極度の緊張から開放されたせいか、地面に身を投げ出した。
「本当にすまなかったな。こちらの気遣いが足りなかった。」
「いえいえ!こっちが悪いんですよ!あ、ボク、村のみんなに勘違いだったって知らせてきますね!」
狩人の青年はが飛び起き、門番と一緒に村に走っていく。
それを見送った後、ブラウが茂みから恐る恐る出てきた。
「あのー、ケンイチさん。私帰った方が良いですか?」
「いや、大丈夫だ。」
ブラウが心配そうに言ってくる。
ばか野郎!ここまでされてタダで帰れるかよ!
「でもあんなに怖がられてましたよ?」
「大丈夫だって!俺に任しとけ!」
多分今ごろさっきの狩人の青年が、原因は騎士の召喚獣だったって吹聴して周ってるはずだから、村人がブラウを見てももう混乱も恐怖もないはずだ。
「うし!じゃあ入るぞ!」
「わ、待ってくださいよ!」
俺は、ブラウと共に村の柵をくぐった。
ブラウとくぐる村の柵はいつもより新鮮で、その先にとても楽しい事が待っている様に思えて、ワクワクした。
実際、そうだろう。
コイツとなら、何処へだって行ける、何処までだっていける。
コイツがいなかったら、誰も味方がいない異世界で生きていけなかった。
「頑張ろうな、ブラウ。」
俺はそう口のなかで呟いた。
これからも、ずっとブラウとの日々が続くと信じて。