44.チートが無ければ即死だった
「ふごー、ふごー。」
目の前に広がっていた暗闇に亀裂が入り、陽光が漏れ混んでくる。
っておお……、朝か。
俺は藁から飛び起き、眠気を追い出すため伸びをする。
ポキポキという小気味良い音が鼓膜をくすぐった。
んー、いい朝だ!
爽快だねぇ!!!
フォウ!!!(高音)
皆さんお気づきの通り今朝の俺は非常にテンションが高い。
当然それには理由があり、それは今日がブラウを村に紹介しにいく日だからだ。
まぁ受け入れられるのは半分を確定しているような物だ。
え?何故かって!?
HAHAHA!野暮な事を聞くんじゃあないよ!
それはブラウがウサギさんだからさ!
考えてもみて欲しい!娯楽が少ない村に突然モッフモフでサラッサラのおめめクリックリな動くデカウサギが訪問してきたらどう思う?
そりゃあもう大歓迎でしょうよ!
まぁ最初は多少怖がられるかもしれないが、それも俺こと村の英雄(ステータス公認)が着いていればそれも問題ナッシング!
俺がいれば村人も安心するからな!
いやぁ!むしろ俺の人気がブラウに流れ込まないか不安だぜ!
もし俺が前刺突教えた少年とかが俺にそっぽ向いてブラウをもふりだしたら軽くへこむ自信がある。
まぁ人気争奪戦については一旦いいとして、肝心のブラウを起こすか。
村に行くとき寝ぼけてたら締まらないからな。
「おい!起きろ!」
俺はすっかり慣れた動作でブラウ揺さぶる。
しかし全く起きない。
いびきの波が変わる気配すらない。
何故紹介される本人がこんなのんびりしてるんだというイラつきに、効かないクロスボウを打ち込んでやりたい気持ちに襲われたが鋼の意思で我慢した。
「グビグガー、グビグガー。」
……どうしたものか。
あ、確か昔、家庭の医学で人の起こし方みたな 。
確か耳許で「ご乗車のお客さまー、終点ですよー」って言うんだっけ。
どうもバスや電車を乗り過ごしたと思って飛び起きるらしい。
けどこの世界にはバスなんて便利な物は存在しないし、どうしようもない。
……そうだ!
俺は家から出て適当な草を何本かちぎってブラウの鼻をくすぐった。
「ぐぅ?ふぁっ……ふぁっ……」
はははは!
どうだ?効くだろ!
これで起きるのも時間の問題……
「ファックショォォン!!!」
瞬間、一瞬の浮遊感の後、俺を凄まじい衝撃が襲った。
「カハッ……。」
な、何が……起こった……。
魔物でも攻めてきたのか?
俺は軋む間接にムチを打ち立ち上がろうとしたが、震えて立ち上がらない。
「け、ケンイチさん!大丈夫ですか!?」
ブ、ブラウが起きた様だ。
ま……ず、い。
俺を一撃で戦闘不能にする相手だ、ブラウでも厳しい相手だろう。
【『痛覚遮断』のレベルが上がりました】
「ぉ俺は……大、丈夫、だ。に、げろ」
俺は潰れた肺から空気を捻りだし一文字ずつ言葉を紡ぐ。
俺は再生できるから中々死なないが、ブラウはそうじゃない。
「す、すいません。目の前でくしゃみなんかしちゃって……立てますか?」
「……は?」
く、くしゃみ?一体なんの事を言ってるんだ?
「起きた時なぜか凄く鼻がムズムズして……目の前にケンイチさんがいたので抑えようとしたんですけど間に合いませんでした……」
……よく見ると、ブラウの鼻にはボーち○んみたいなでかい鼻水がぶら下がっていた。
つまり、俺はブラウのくしゃみの風圧で死にかけたってことか?
……はぁぁぁぁぁぁ!?
◆◇◆
俺は傷を直した後、藁に寝っころがり天井を見上げていた。
ブラウは近くの木に朝飯を取りにいっている。
出来れば汚す可能性があるから行かせたく無かったが、まだ膝が痛い気がするし、近場だから流石にそこまで汚す事は無いだろう。
しっかし、俺弱過ぎないか?
いや、ブラウが強すぎるのか。
それはわかっていたが、流石にくしゃみであそこまでダメージ食らうとは思っていなかった。
俺は今レベルが上限の3割程まで来ているが、ブラウに勝てるビジョンが全く見えない。
というか何でCランクのブラウがあんなに強いんだ?
魔族だから?ならなんで仮にも勇者な俺はあまり強くないんだ?
謎だ……。
ガチャ。
ドアの開く音が聞こえた。
「ケンイチさん、果物採ってきましたよ。」
ブラウが帰ってきた。
両腕に、沢山のリンボを抱えている。
取り敢えず今日はブラウを紹介しに行く日だから、そういう大事なことは別の日に考えよう。
まずは腹ごしらえだ。
腹が減っては戦は出来ぬって言うしな。
ぼんやりした頭を覚ますために、ブラウからまだ少し青いすっぱめのリンボを貰ってまるかじりする。
すっぺぇぇぇ……。
けど、頭はシャキッとしてきた。
もうひとつ、かじる。
お、今度は甘いな。
美味い。
つか前から思ってたんだけどこの世界って寄生虫とか居ないのか?
いまだに果物から芋虫とか出てくんの見たことないんだが。
まぁいいか、見つけたときに考えよう。
今のところ腹を壊す気配はない。