42.とある紛い物の視点5(sideハーネス)
今儂は騎士と共に森を歩いている。
久々に人と話せてとても嬉しかった。
しかし1つの疑問が儂の頭を渦巻いている。
怪我をしている筈の騎士は平気そうに……いや、むしろその場に儂が居なければ鼻歌でも歌いそうな程ウキウキしている様に見える。
落とし穴に落としてしまった本人である儂が言うのも何だけど、本当に重傷なのだろうか。
「もう少しでつくぞい!気を確かに持て!」
そう儂がいうと騎士は、思い出した様に体をくの字に曲げ、わざとらしく苦しみだした。
「ぬぉぉぉぉ……!」
……この騎士、実は思ったより怪我してないんじゃないか?
今なんて完全に言われてから苦しみだしたし、本当は元気な気がする。
よく見れば落下で空いたハズの穴からは血液も流れていないし、そこを押さえたりする気配もない。
しかも心臓部分にも穴が空いてるのに平然と生きている。
やはりこの穴は前から合ったもので、落下ではこの騎士はダメージを負っていないという可能性が高い。
しかしだとしたらなぜ儂の家に来たがっている?
近くに村もあるし、騎士だってこんな辛気臭い森さっさと出たいはずだ。
単純に腹が減っているのか?
いや、だとしたら儂みたいな気持ち悪い混ざりエルフには
着いてこないだろう。
何を出されるかわかったものではない。
もしかして金品目的?いや、儂を見て豊かだと思う人間はま
ず居ないだろう。
だったら……か、体か!?体が目的なのか!?
……いや、それが一番無いな。
儂の容姿はエルフの森で迫害されていた時から見た目は精々3歳ほどしか成長していないし、時折見る水面に映った顔はとても醜い、体も貧相だ。
体目的は絶対にない。
……こうやって言っていると自分に良い所が何一つ無い事を再確認するな。
「はぁ……」
思わず溜め息を漏らしてしまった。
場を静寂が支配する。
「……」
「……」
儂も騎士も黙ったまま歩いている。
この騎士は気難しいのか?声は結構若い気がしたが……。
き、気まずい……。
この騎士が何者かは別として、お互いのことを知り仲を深める為にも何か話題を出した方が良いのだろうか?
でも向こうが儂と話したくなくて黙っているとすれば、完全に逆効果だ。
「こいつ必死だな」とか、「くせぇから口開けんな」
とか、「テメェの声汚ねぇから出すな」とか、「敬語使えや!」思われるかもしれない!(実体験)
いや、思われるだけならまだいいけど口に出されたら儂はぁぁぁぁ!!!(実体験)
ああああ!どうしよう!
……えぇい!
やらないで後悔するなら話しかけて粉砕する方がマシだ!
話しかけよう!
「それにしても……」
それにしても……どうしよう。
何て言うか考えてない!
何故しっかり考える前に声にだしちゃったんだ!
とりあえず当たり障りの無さそうな質問を……
「それにしても……なぜおぬしの様な騎士がこんな森なんぞにおったんじゃ?」
おお!儂年長者っぽい!
落ち着いた声出せた!
これなら騎士にも舐められはしないだろう。
カチャッ
儂がそう思っていると、先程まで鳴っていた騎士の鎧による音が止まった。
振り返り騎士を見ると、先程と『変わっていた』先程は少しひょうきんで暖炉の様な暖かみがあったその双眸は、今や灰の様に何も感じさせない、空虚な目になっていた。
お、怒らせたか?
少なくとも騎士が抱いているモノは良い感情ではないだろう。
しかしその目には確かに見覚えが合った。
けど思い出せない。
儂は必死に記憶を遡る。
誰だ……誰の目だ?
お父さん?違う。
もっと暖かった。
別のエルフ?違う。
もっと冷たかった。
更に記憶を掻き分け、探す。
誰だ誰だ誰だ……!
……見つけた。
『自分』だ。
からっぽで、世界に何の期待もしていない。
あの目だ。
40年間、ずっと見つめあった目だ。
儂は再度、騎士を確認する。
騎士は空を仰いでいた。
あの自分と同じ、『灰の目』で、星をみつめていた。
「外で色々あってな……」
騎士がボソっと言葉を漏らした。
そして自分の姿を丁寧に見せる様にこちらを向く。
儂はその姿を見た。
……ボロボロだ。
先程は『屈強』、『歴戦』の印象を受けた姿だったが、そんな事は全くなかった。
それは、一人でずっと戦い続けた『愚者』の姿だった。
不幸に襲われ、裏切りに合い、それでもなお剣を振るい大切な何かを守り続けた、『愚者』の姿だ。
当然、儂の様な『破綻者』とは違う。
この騎士は強い。
途中で折れてしまった儂とは違う。
でも。
「そうか……おぬしもか……儂も外の世界に辟易してこの森で暮らしておる。所謂世捨て人というやつじゃな……ふふ、その点儂とお主は気が合いそうじゃのう。」
この人と、仲良くなりたい。
折れてしまった儂を救ってくれるのは折れずに耐えぬいたこの人しかいない。
それを直感した。
「1つ、聞きたいことがあるんだが」
騎士は前に向き直り、そんなことを言ってきた。
こちらにも質問させろということか。
「なんじゃ、何でも聞いてくれ!」
一体何を聞いてくれるんだろうか。
年甲斐もなくワクワクしてしまっている。
お互いについて聞きあうなんて本当に友達みたいだ。
「では単刀直入に言わしてもらおう、お前は一体いくつなんだ?」
……は?
いくつ、って言うのは年の事だろうか。
確かに人間で60年はかなり高齢だった気がする。
……言いたくないな。
初対面で年齢を聞くって失礼じゃないのか?
それに……ば、ババアとか思われたくないし……。
「な!……お主意外とデリカシーが無いのう……いかにも騎士という風貌をしているというのに……」
そう言うと騎士は、
「すまなかったな。レディーに対して年齢の話題は失礼であった。」
と言いながら頭を下げてきた。
れ、れでぃー?儂が?だったら実際より高齢だと思われてたら困る。
この森に来るまでに何年か人間の国を旅していたが、その時に見たお伽噺とかに出るエルフ達は例外なく、とんでもなく高齢であった。
だから人間の間ではエルフは皆500歳超えとか言う風潮があって驚いた記憶がある。
この騎士も例外ではないだろう。
実年齢より高く思われるのは……なんか、嫌だ。
「れ、れでぃーって……いや!儂はエルフとしては若い方じゃからな!年も……その……ろくじゅう、くらいじゃし……」
は、反応は……?
「60……か」
騎士は深い溜め息をついた。
うわああああ!!!
絶対ババアだと思われた!
何か良い言い訳を……。
「ああああ!言うんじゃなかった……そうじゃ!犬と人間みたいなものじゃ!人間に!人間に直したら多分15歳位じゃから!その!ババアとかおもうなよ!」
騎士は儂を訝しげな雰囲気で見ている。
ああああ!絶対変な奴だと思われた!