35.適性
扉をくぐり中に入ると、そこは薄暗いが不便でない程度にランタンで照らされた部屋だった。
中心には机が置かれ、奥に本棚、そしてその横にまた扉らしき物がある。
おお……俺達の家とは大違いだな……。
と言うかこのランタンも魔法でつけてるのか?
だとしたら教えてもらいたい。
森は夜暗いし、散策とかをするときに便利そうだ。
「そこに座っておれ。すぐに肉のスープでも作ってやろう。」
エルフはそう言いながら先程の扉らしきところに入っていった。
あそこは貯蔵庫か何かなのだろうか。
というかエルフじゃ呼ぶとき困るから名前聞いとくか?
俺がそう思っていると、幾つかの食材を持ってエルフが出てきた。
「今更じゃが、一応自己紹介をしておこう。儂の名はハーネス……ハッ、只の混ざりエルフじゃ。御主は?」
おおう。ナイスタイミング、向こうから聞いてきた。
ハーネス。ハーネスだな、よし、覚えたぞ。
つか混ざりエルフってなんだ?
要するにハーフエルフって事か?
そこら辺よくわからないが、そんな解釈で良いだろう。
「私の名はケンイチ、只の騎士だ。」
俺がそう言うと、ハーネスが嬉しそうな顔をしながら、
「ふふ……やはり御主は儂が混ざり者と知っても変わらないのう。同じ俗世に疲れたはぐれ者同士、仲良くしようではないか!」
と、言って手を差し出してきた。
もしかしてこの世界ではハーフエルフは差別の対象にあるのか?
まぁ別に良いんだが、俺には関係ない。
それに魔術とかも教えてもらいたいし。
これはメラゾーマではない……!ただの『メラ』だ……!とかやってみたいしな。
まあ森だから使えんけど。
「ああ、よろしくお願いする。ハーネス。」
俺とハーネスは固い握手を交わした。
勿論本気では握っていない、下手したら潰してしまう。
「ハーネス、か。他者に名を呼ばれるのは一体何十年ぶりじゃろうな……」
ハーネスがそんなことを呟いた。
こいつ何年位この森に引き込もってんだろう。
もしかしたらブラウより長いのかもしれない。
「おっと、そう言えばお主は腹をすかせておったんじゃったな。すぐ作る。」
ハーネスは、部屋の隅の台へ行き、そこに食材と鍋を置いた。
スープ作るって言ってたけど水無いよな?どうすんだ?
「水が無いが……」
「ちょっと見ておれ。『ウォーター』」
ハーネスが唱えると、鍋の底から涌き出るように水が発生した。
すっげぇぇぇ!マジで魔法便利過ぎないか!?
これは本格的に教えてもらいたい。
ハーネス驚く俺を嬉しそうにチラチラ見ながら、今度は『ファイア』と唱えた。
鍋周りに豪火が巻き上がる。
ハーネスはそこに塩らしきものと、火を通した肉とジャガイモをいれて、手慣れた手つきで混ぜ始めた。
俺が一晩かけて結局つけられなかった火を一瞬で……
これは寧ろもう森で暮らしていくには必須スキルなんじゃないか?家電並の性能を誇ってやがる。
「ハーネス。もし良かったらでいいんだが、私に魔法を教えてくれないか。」
俺がそう言うと、ハーネスは少し悩んだ後、
「教えるのは構わないんじゃが……魔術とは基本的には才能の世界なんじゃ。適性の無い属性は使えぬぞ。中には適性属性無しなんて者もザラにおる。」
と、言った。
なるほど、そういう感じなのか。
まぁ勇者補整的なアレで適性無しなんてことは無いだろう。
さっきハーネスが使った魔法から1つでも使えれば大分生活がイージーモードになるだろう。
「かまわない。しかしハーネスは何属性に適性を持っているんだ?」
これは気になる。
もしかしたら混合魔術とかも存在するかもしれんからな。
「儂の場合は、火適性が少、土が中、風が大、水が中じゃな。」
「それは凄いのか?」
「自分で言うのもアレじゃが、凄いなんて物では無い。天才、いや鬼才と呼んでも差し支えないじゃろう。」
4属性で凄いんだな。
前読んだ魔法入門書では光と闇もあるっぽいから、全属性とかは難しいかもな、そういうの憧れるんだけど。
「その適性を調べる方法はあるのか?」
「勿論じゃ。儂を誰だと思っておる。そのような初歩的な魔法なんて朝飯前じゃ!」
ハーネスはどや顔で言い放った。
おお!分かるのか!
「是非調べてくれ!」
「勿論じゃ!ではいくぞ!『スキャン』!」
緊張するな。
感覚としては、心理テストの結果を見ることに近い。
自分の隠された何かを知れるみたいな。
「!」
ハーネスが驚愕の表情を浮かべた。
調べ終わったっぽい。
「どうだ?」
俺が聞くと、途端にハーネスは微妙な表情になった。
な、なんだ?まさかまさかの適性0とか?
それきっついぞ、悲しすぎる。
「う……む。実はかなり奇妙な適性でな。儂も初めて見たから少しばかり驚いたのじゃ」
マジでか!これは俺だけのオリジナル適性属性来ちゃったんじゃないの!?
時間とか!影とか!空間とか!
うぉぉぉぉ!テンション上がってきた!
「なんだ!?焦らしてないで早く教えてくれ!」
俺はハーネスの肩を掴み揺さぶる。
「ふぉぉぉぉ……一回!一回放せぃ!」
あ、ヤベ。
「す、すまない。」
「うう……お主はどんな馬鹿力をしとるんじゃ……」
やっちまった……
今の俺のステータスを考えるべきだった。
軽く揺さぶったつもりが、まさかこうなるとは。
次からは気を付けよう。
「全く……まあ良い。まずはお主の適性じゃ。」
「ゴクリ……」
運命の瞬間だ。
これによって俺の森林生活がバラ色か灰色か決まる様なものだからな。
「お主の適性は………全属性!」
よっしゃぁぁぁ!!!
時空魔法とかも欲しかったが、これも大当たりだ!
「の、微少じゃ。」
「は?」
今、なんて言った?
微少?つまり器用貧乏タイプって事か?
よくわからないな。
「微少?」
「そうじゃ。微少じゃ。要するにお主には才能が無い」
な、何故だ!?一応適正あるんだから無くはないだろ!
「わ、私は魔法が使えないのか?」
「いや、使えなくはないのじゃが……ただ単に極端に才能が無いのじゃ」
才能が無いって……でも適正があるからには一応使えるんだろ?
「それはどういう……」
「例えば適性大の火の魔術師と適性微少の火の魔術師がいたとしよう。」
「ああ。」
「そして二人が同じ環境、同じ指導者に教わる。そして適性大は1日で初級の『ファイア』にたどり着く。」
でも微少の方だって1年位修行すれば……
「しかしそれに対し微少の方は一生その感覚さえ掴めん。いや、これは少し語弊があるな。人間の寿命では無理と言う意味じゃ。100年ほど必死に頑張れば『ファイア』位は使える様になるじゃろう。」
嘘……だろ?
そんなの適性なしと変わんねぇじゃん。