34.魔法
「もう少しで着くぞい!気を確かに保て!」
「ぬぉぉぉぉ……!(死にかけのふり)」
俺は今、知らない少女にホイホイ着いていっている。
いやー!ついに肉が食えるのか!
テンション上がるな!最高にハイってヤツだぜ!
ひゃっふぅぅぅ!!!
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【『精神健常化』を使用しました】
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ひゃっふぅぅぅ……
……はい。
とりあえず落ち着こう。
落とし穴に長時間落ちていたせいで、俺もかなり情緒不安定になっていた様だ。
それにしても変わった少女だな。
緑の髪に整った顔立ち、そして右手にもったデカイ杖、
少なくとも普通ではない。
いや、もしかしたらこの世界では普通なのかもしれないが、何しろ俺にはこの世界のデータが少なすぎる。
まともに話したのが村人とウサギしかいねぇ。(深刻)
もしかして、ファンタジーらしく魔法使いなのだろうか。
いや、違うか?
この少女の体格では茂みを掻き分けるのも困難だろうから、バランスを取るためかもそれない。
そっちの方が現実的だ。
「それにしても……なぜおぬしの様な騎士がこんな森なんぞにおったんじゃ?」
少女が聞いてくる。
それはこっちのセリフなんだが、とりあえずなにか事情があるっぽく振る舞おう。
説明できないしな。
「外で色々あってな……」
空を見上げ、哀しげな雰囲気を醸し出す。
別に平たく言えば整形と整体失敗して化物になっただけなんだが。
異世界に来てから俺の演技力がガンガン上がっていくな。
まぁ騎士キャラ限定だけど。
けどそのうち本当の自分がわからなくなりそうで怖い気がする。
「そうか……おぬしもか……儂も外の世界に辟易してこの森で暮らしておる。所謂世捨て人というやつじゃな……ふふ、その点儂とお主は気が合いそうじゃのう。」
少女も哀しげな雰囲気を醸し出しだした。
お前そんなこと言えるほど年取ってねぇだろ!辟易とか難しい言葉使ってんじゃねぇ!ふざけんな!と、思ったが、俺は勘違いをしていたらしい。
少女の耳を見ると、先っちょが少し尖っていた。
これはもしかしてエルフというヤツなのだろうか。
そうだとすればこの奇妙な口調と言動にも納得がいく。
要するに『ロリババア』というやつなのだ、こいつは。
エルフの年齢経過が遅いのはお決まりだ。
もしかしたら目の前の少女も実は1000歳とか行ってるのかもしれない。
聞いてみるか。
それによって今後の対応も変えねばならない。
「1つ、聞きたいことがあるんだが」
「なんじゃ、何でも聞いてくれ。」
少女がワクワクした表情で聞いてくる。
お、意外と詮索させてくれるんだな。
こうゆう奴って過去に闇抱えてそうだけど。
「では単刀直入に言わせてもらおう、お前は一体いくつなんだ?」
「なっ……お主意外と失礼じゃのう……いかにも騎士という風貌をしているというのに……」
そうだった。
仮にも騎士を然るのなら最低限の礼節を弁えた方がカッコいいし、何よりそれっぽいだろう。
相手は仮にもレディーだからな。
年齢の話は御法度だったか。
まあそもそも現在進行形でそのレディーに飽食紛いの事をしてる奴が今更何を言ってんだって話だが。
「すまなかったな。レディーに対して年齢の話題は失礼であった。」
「れ、れでぃーって……いや!儂はエルフとしては若い方じゃからな!年も……その……ろくじゅう、くらいじゃし……」
あ、自分で言っちゃったよこの人。
60って……中途半端に生々しいせいで、1000歳とかより寧ろキツイぞ。
「60……か」
「ああああ!言うんじゃなかった……そうじゃ!犬と人間みたいのものじゃ!人間に!人間に直したら多分15歳位じゃから!その、ば、ババアとか思うなよ!」
こいつ遂に自分で自分を畜生レベルにまで叩き落としたぞ。
色々空回りまくってんな。
久々に人と話したのかも知れない。変にテンションが上がっている。
何が「所謂世捨て人みたいな者じゃな……ふふ……」だよ。
人間関係に未練タラタラじゃねえか!
「ああ、お前は15才のピチピチギャルだ。ババアなんかじゃない」
「その、ビツビツガルと言うのはよくわからないが、とにかくわかってくれればいい」
ビツビツガルじゃねぇし。
なんか強そうなんだけど、ビツビツガル。
つか現代語が通じる基準がわかんねぇな。
レディーは通用したが、ギャルは知らないっぽかった。
そこら辺いつかはっきしさせなきゃな。
「あ、見えてきたぞ!」
その声を聞き前をみたが、そこにはツタや雑草がはびこっている土壁しか無かった。
も、もしかしてこの壁を登れとか言い出すんじゃ……
やっぱり森なんかに住んでる奴はみんなおかしいわ。(大ブーメラン)
「土よ、我が魔力に呼応し真の姿を表せ」
俺が戦慄していると、少女は壁に手を当ててそんな呪文を唱え出した。
もしかして中に人が居て、その人に対する合言葉的な物なのだろうか。
壁を再確認する。
しかし壁には何も起こる気配は無い。
ど、どうしたんだ?
俺は疑問に思ったが、その瞬間土の壁が急に薄くなり数秒後、さっきまで土壁が存在していた場所には青い扉が合った。
「どうした、ここが我が家じゃ。早く入ってこい。」
少女がドアを開け、先に入っていった。
すっげぇ……このババ……この人魔法使いだったのか……。
俺はそれに続き中に入るべく、足を一歩踏み出した。