33.チンピラ騎士
俺は上を見上げた。遥か先に小さな夕暮れが見える。
どうやって出ようか。いやマジで。
とりあえずパッと思い付く策は、
『大声で叫ぶ』
無理、近くに人居ないし逆に獣を呼ぶだけ。
『ロッククライミングしてみる』
無理、取っ掛かり無いし剣で上ろうにも意外と先に剣が曲がる。
『待つ』
無理、ブラウには家にいろと言ってるし村人から助けが来る見込みもない。
あれ?もしかして詰んだんじゃないかこれ。
ヤバイ、泣きそう。
俺の心のライフがもう残り少ない、心細い。
空腹なのが余計それを助長している。
俺は穴の隅らしき針が無い場所へ行き、体育座りした。
「はぁ……どうしよう……」
もしかしたら俺はこのままミイラになってしまうんじゃないか。そんな不安が俺を襲う。
人間って確か3日以上水分取らないとヤバイんだよな。
ああ……
確か昔ネットででミイラの画像見たけど、なんかビーフジャーキーみたいだった気がする。
俺はミイラになった自分を想像してみた。
しわしわの体をした異形の怪物。
字面だけでもヤバイのに自分がそうなってしまうかもしれないと考えるともうなんと言うか……ヤバイ(語彙力無し)。
とにかくさっきの3つの方法以外で方法を探さなければ。
流石にビーフジャーキーにはなりたくないからな。
……………………俺は思考する。
そして明晰な脳細胞を総動員して考えること30分……俺の脳裏に閃光走る!
手甲を外して、手のひらを粘着質にした。
前に城で壁に張り付いた時みたいに。
これでよじ登ればかつる!
俺は両手を壁に貼っつけてそれに体重を乗せた。
しかしその瞬間、俺の重さに耐えきれず手の皮がずる剥けた。
「痛ぇぇぇ!!!」
急いで修復していくが、中々痛みは消えない。
あー、クソ。
まぁ薄々気づいてたけどね。
ふつう手の皮に全体重のっけたらずる剥けるわ。
現実のタケコプターと同じだ。しっかしマジで痛ぇ。
『痛覚遮断』レベルアップはよ。
俺は手の皮を修復し終わったのを確認して、魔物の死骸の上に寝っころがった。
上に星空が見える。
壮大な星空を見ていると自分の事なんて酷くちっぽけでどうでもいい事の様に……は思えないが、何もしないよりはマシだ、精神的に。
「おーい!誰か居るのかのう!」
若干現実逃避し始めた俺の耳にそんな声が聞こえた。
ついに幻聴か……どうやら俺はここまでの様だ……ガクッ。
「おうい!本当誰も居ないのかの!?居たら返事をしてくれい!」
……どうやら幻聴では無いようだ。
本当に助けが来たのか?しかし誰が?
そんな疑問が俺の中に渦巻く。しかし今悩んでも仕方がない。とりあえず返事をしよう。
「ああ!落ちている!助けてほしい!」
「おお!やはり落ちていたか!すまんのう!落とし穴なんかを放置してしまって!すぐにロープを下ろすから待っててくれ!」
口振りからして、この声の主が落とし穴を設置した様だ。
そしてさっきの俺の叫びを聞いて飛んできたと言うわけだ。
けどこの森に俺の他に人が住んでいたとは。
嬉しいが、一体どんな人だろうか。
俺は降りてきたロープを伝い、上に登っていく。
すこしづつ外の景色が大きくなっていき、穴から出ると……
「おぬし、怪我は無いか?本当に申し訳ない……まさかこの森に儂以外に人がいたとは思っていなかった物でのぅ……」
おろおろしながら謝ってくる緑色の髪をした少女がいた。
………は?
やけに声が甲高いとは思っていたが、こんなちんちくりんだったとは。
年上だと思って気を使っていたが、これなら大きく出ても問題ないな。
俺は子供には滅法強いんだ。
「ぐっ!全身が裂けるように痛い!どうしてくれるんだ!私には臣民を守ると言う責務が……!」
安定の騎士ロールで少女を責め立てる。
騎士キャラの汎用性には目を見張る物があるな。
たまにめんどくさいけど。
「え,あああ……ご、ごめんなさい……。」
少女涙目になりながら右往左往しているが、勿論嘘に決まっている。
全く痛くない。
しかしこの少女は森に住んでるっぽいし、コイツのお母さんからでも慰謝料として食い物をふんだくろう。
そのためにはもっと向こうの罪悪感をくすぐる必要があるな。
俺は地面に這いつくばり、身をよじった。
「ぬぉぉぉぉ……!私には故郷に家族が居るのだ……まだ死ねぬぅぅぅ!!!」
「し、死ぬのか!?そんなにひどいのか!?」
よし、今だ!
「これはもう食い物を食わなければ直らないが……近くに食い物は無いかぁぁぁ……」
「そ、それならこのリンボを……」
「バッカ野郎ぉぉぉ!」
「ひっ!?」
俺は少女に怒鳴り散らす。
これでは俺がいたいけな少女から物を奪おうとしているチンピラ騎士にしか見えないが、断じて違う。
あくまで正当な慰謝料を貰おうとしてるだけだ。
「そんなものでは血肉にならない。何か違うものをくれ。例えば……肉とか!」
「けど肉なんてこの近くには無いぞ……?」
「お前の家には無いのか?」
「有るがその怪我でそこまで持つのかのう?」
少女が不安そうな表情で聞いてくる。
おお!あるのか!
これは行くしかない!
「ああ、たった今私の神からお前の家までかろうじて歩ける加護をもらった。」
「ず、随分と気配りのきく神じゃのう……それなら良いんじゃが……ついて来てくれ。」
俺は歩きだした少女に着いていく。
よっしゃ!あー、早く肉食いたいな!