31.聖戦
俺は『イーヴィルタイガー』の眉間からクロスボウのボルトを引き抜き、またクロスボウにセットした。
三発しか弾数が無いから節約しないといけない。
『魔力変質』で作るという手もあるが、正確な大きさで作れるか分かんないからな。
ちゃんとしたボルトを使えるに越したことはない。
うし、じゃあ行くか!
俺は後ろにおいてあったバケツを持ち、歩き出そうとしたがふと違和感を覚えた。
バケツの中からピチャピチャと変な音が聞こえるのだ。
今度はなんだ?
バケツの中を見ると、そこには小さな蛇が泳いでいた。
俺が『イーヴィルタイガー』に対処してる間にバケツに滑り込んだのか?
あんま危険そうには見えねぇが、一応『観察』しとくか、観察レベル5の効果も見たいしな。
「『観察』」
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【『ポイズン・サーペンター』ランクE+】
【身体能力は弱いが、牙に超強力な神経毒を持つ。1匹で人を殺し、10匹で獣を討ち、100匹で竜をも堕とすと言われ恐れられている。】
【かつて特殊個体の『ポイズン・サーペンター』が村を襲っていた龍を一体で殺したため、現在も一部の地域では神聖視されている】
【『聖戦』以前は牙を薬として運用する技術が確立されていたが、『聖戦』の影響で文明が衰退し、失われた。】
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「は!?」
俺はあまりの驚きに、『ポイズン・サーペンター』ごとバケツを捨ててしまった。
ツッコミ所は山ほどあるが、まずこの蛇ランクE+の癖してクソヤベェ奴じゃねぇか!そんな奴が入った水なんて使えねぇし!
あと聖戦ってなんだ!?ここに来て新たな設定を盛り込んでくんじゃねぇよ!つか戦争で文明が衰退するって異常だろ!
はぁ……はぁ……。ま、まぁいい。
今考えてもしょうがねぇからまず家に帰るとしよう。
ポイズンサーペンターのせいで水は減ってしまったが、まだブラウを洗うには充分な量は残っている。
俺は無事な方のバケツを持ち、再度家に向かって歩き出した。
◆◇◆
「ただいま」
俺は家の前にバケツを置いて、家の中に入った。
いやー、疲れた疲れた。
しかしまだ今日はブラウをクリーニングしてやるという大仕事が残っている。
「すぴー、ずびー」
……コイツいっつも寝てんな。
まぁ森だし、娯楽が寝る意外に無いから仕方がないのかもしれないが、今は関係ない。
「おい、起きろ!」
「え!?朝ですか!?」
「昼だよ!」
仮にも野性動物が無防備に眠った上に時間感覚狂ってんじゃねぇよ!
「今からお前を洗うから外に来い!」
「ああ……今日の朝言ってましたね。すぐ行くので外で待ってて下さい」
「ああ」
俺は外に出た。
待ってる間暇なので、一応また変なものが入っていないか確認するために、バケツを覗いてみた。
うん、今度はほとんどなんも入ってねぇ。
精々ハエの死骸が浮かんでる位だ。
「遅くなってすいません」
ブラウの声が聞こえる。
お、やっと来たか。
それじゃあ早速ブラウのクリーニングを始めよう!
気合い入れるために何か掛け声でも言ってみるか。
「これより第一回ブラウ洗浄作戦を始める!準備は良いか!」
「お、おー!」
いや、洗浄される側のお前が言ってどうすんだよ。
まぁ他に誰が反応すんだって話だけども。
俺はまずどうやって洗うかを考えていく。
この世界には洗剤は無いし、ブラシを創造しようにも、バケツでさえ満足に作れない俺にあの繊細な毛先を再現できるとは思えない。
俺はとりあえず小さめのバケツをつくってみて、そこに水を入れた。
とりあえず一発ぶっかけるか!
考えるのはそれからにしよう。
思考停止万歳だぜ!
「セイヤァァァァァ!!! 」
「うひゃぁぁぁぁぁ!!!」
よし!濡らしただけで結構洗えた気がしないでもない!
じゃあ第2射行くか!
「セイy」
「ちょちょっ!待って下さい!冷たいです!」
そんなの関係ねぇ!水が冷たいのは当たり前だろ!第3射発射ぁぁぁ!
「セイヤコラァァァ!!!」
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
ーー1時間後ーーー
俺の前には見違えるほどベチャベチャ……いや、清潔になったブラウがいる。
「け、結構よくなったぞ?」
「本当ですか……?」
ブラウが恨めしそうな顔でこちらを見てくる。
わ、悪かったって!俺も途中から楽しくなってザッブンザッブンやってたけど実際に結構綺麗になってるから!
な?な?
「ヘクシュン!」
ブラウがくしゃみをした。
風邪を引いたのかも知れない。
というかウサギって風邪引くのか?
よく分かんないけどコイツが本当にウサギかどうか不安になってきたぞ。
あ、魔族か。