3.嵐の前の幸せ
説明を終えた後、今日は休む様に言われて俺達はすぐに別々
の部屋に案内された。
ドア開けると、そこは別の意味で異世界だった。
部屋と言っても俺の住んでいた家のリビング程の広さがあり
天井にはこれまたシャンデリア、部屋の中心にはキングサイズのベットが設置してある。
豪華過ぎてなんか落ち着かないな。
しかしそう思いつつも、今日は色々有りすぎて流石に眠い。
まだ明るいが一眠りしようとベッドに横たわって、ふと横を見ると、そこには本棚が有った。
かなり大きく、二段目に『魔術入門』と書かれた背表紙の本が差し込んである。
え?俺魔法使えちゃうの!?
一瞬で眠気が吹き飛び、何故異世界の言語や文字が理解できるのかという疑問を後回しにし、俺はその本を貪る様に読み進めた。
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魔術とは魔石を持たぬ人間が、魔族に対抗するために
産み出した技術である。
魔族は魔術を使用するためのゲートが存在しないため肉体の強化や再生そして進化に魔力が使用されるが、人間の魔力は少ないため効率よく使う必要があった。火.水.風.ひいては闇や光さえも発生させる攻撃は、魔族の防御をも打ち破る。
魔力自体をそのまま打ち出す比較的簡単な技術も存在するが、人間の少ない魔力では魔族に有効打を与える事は難しい為、その分野は衰退していった。
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ほうほう、要する魔族は単純にフィジカルの強化に魔力を使用し、人間は少ない魔力でそれを打ち破る為に魔力の放出を選んだって感じか。OK理解したぞ。
続けて読み進める。
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魔法は人間の全身に散らばっている魔力を杖などの触媒に集中させ、卓越した制御で現象へと変換し打ち出す事によって使用される。
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あー……魔法って結構難しい感じなのかな?
まあ取り敢えず魔力の使い方は書いてあるし……
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『魔力変質』
自分の魔力1につき、1㎏の様々な色、形、固さの様々な物質に変質させる。
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杖とかは無いけどこれ……使ってみるかぁ。
ぶっちゃけこれが俺の頼みの綱みたいな所有るし、さっきから気になって仕方がなかった。
まず無難に掌の上に1㎏分の鉄の塊が出るイメージでやってみよう。
さっきのステータス的な感じで……
「『魔力変質!』」
と、叫んでみる。
すると俺の掌から鉄の塊がモリモリっと……生えてきた。
「うわっ……ええ?ええええ!?」
「勇者様!何事でしょうか!?」
ドアを開けてメイドさんが部屋に入ってくる。
ちょっ、ヤバイヤバイ!
「大丈夫!大丈夫ですから!取り敢えず出てって!」
俺は慌てて入ってきたメイドさんから鉄塊が生えた掌を急いで隠した。
「し、しかし……」
「立ち去れぇぇぇぇぇ!」
「は、はい!」
メイドさんは俺の鬼気迫る表情に、若干引いた様子で出ていった。
……ふぅ。
一旦落ち着こう。
俺は取り敢えず鉄塊に向かって、「消えろ」と言ってみた。
すると鉄塊は何事も無かったかの様に消えた。
それを見て俺は冷や汗を流しながらも「なんだ、簡単じゃん」と思った。
そうだよ……そもそも俺の能力が俺に危害を及ぼす筈が無いのだ。
……ん?待てよ?体を変質?
「これって顔を粘土みたいに変質させて弄くればイケメンになれんじゃね……!?」
そのとき、俺に天啓が舞い降りた。
魔法、という言葉を聞いてからずっとイケメンになれないものかとアンテナを張り巡らしていたからこそできた発想だ。
言葉に出来ないワクワク感の様な物が俺の心を支配する。
ふははは!待ってろ異世界!
俺が美少女ハーレムを作るのも時間の問題だ!