29.神に愛された男
「騎士様!どうぞお召し上がり下さい!」
俺は今村人に引っ張られて村の中に入り、沢山の人に囲まれながら椅子に座らされている。
そして目の前の机には、明らかに俺の体の体積を越えそうな程の豪勢な料理が大量に並んでいる。
どうしてこうなった……
つかなんで俺が案内された時にはもう料理が作ってあったんだ!?
なんで俺が来るってわかったの!?
予言者でも居んのかよ!?
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【『精神健常化』Lv1を使用しました】
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……ふぅ、落ち着け。
とりあえずどうやってこの状況を切り抜けるか考えよう。
もちろんこの料理は魅力的だが、今兜を外せば俺のちょっとやそっとの火傷や怪我じゃ誤魔化しきれないほどのモンスターフェイスを御披露目してしまうことになる。
ブラウの前では着けたまま食っているが、さすがに村人の前で兜を着けたまま食うのは違和感があるからな。
なんて断るか……言い方によっては失礼にとられてしまう可能性がある。
とりあえず一番無難だし、宗教的な関係で人前で物を食えない事でもにしておこうか。
多分納得してくれると思う。
前の世界でも宗教なんて大小関係なければ星の数ほどあったからな。
そういうありがちな設定を持ち出せば誤魔化せるだろう。
「すまない。教義の関係で家族以外の前では物を食えないのだ。」
「なるほど……それは申し訳ありませんでした。こちらの気遣いが足りなくて……おいリウス!籠を持ってきなさい!」
「わ、わかった!」
俺を連れてきた村人が少年にそう言うと、少年は急いで何処かへ行き、1分程で木でできた籠を持ってきた。
「騎士様、すぐに籠に食べ物を詰めますので少々お待ちください」
持って帰らせてくれるのか。
持って帰れるならそれに越したことは無い。
最近果物食い過ぎて若干マンネリ化してきたからな。
「あ、あの!」
村人が籠に食い物を詰めているのをボーッとしながら見ていると、横からさっき籠を持ってきた少年が話しかけてきた。
「何だ?」
「俺も……俺もあなたみたいな立派な騎士になれますか!?」
この少年はどうやら騎士志望な様だ。
よく見たら背中に手作り感満載のちっちゃな木刀が刺さっている。
けど俺鎧着てるだけでぶっちゃけ騎士でもなんでもないタダ
の無職だからな。
そもそもこの鎧も盗んだ訳だし、騎士どころか若干盗賊に近い気がする。
そんな俺がここで「きっとなれるさ」とかいってこの少年の将来を左右したりしてしまうかもしれないのは申し訳ない。
適当に稽古とかのアドバイスとかしとくのが正解だろう。
俺は剣術のけの字も知らないが、もちろん策はある。
俺は無言で腰から剣を引き抜いた。
「き、騎士様?」
「騎士様!私の駄息子が失礼をしてしまったのなら謝ります!どうか息子の命だけは!」
少年の父親がそう言いながら少年とか俺の間に立つ。
何を勘違いしているのかは知らないが、当然俺にこの少年を殺す気は全く無い。
「そのまま動くな」
俺はそう言って父親がを押し退け、少年の僅か横に向かって全力の『刺突』を放った。
ちゃんとスキル認定されてるだけあって、結構サマになっている。
俺に当てる気が無かったのが分かったのか、父親とその周りの村人は安堵の表情を浮かべているが、唯一少年だけが状況に着いていけないのか泣きそうになりながら足をガタガタさせ、俺の方を見ている。
俺は少年にこう言った。
「今ので半分だ」
「ぇ?」
クッソ全力のだったけどな!
下手したら『グレーターベア』の時位のスピードはでてたんじゃないだろうか。
しかし今は事実なんてどうでもいい。
この少年にこの人スゲー!と思わせることが大事なのだ。
「もし私の剣を受けた今でも騎士になりたい思いが消えないのなら、今の突きを目指して訓練しろ」
「え?じゃあ今のは俺のために……?」
「そうだ。お前が将来この突きに届いたのなら、その時にもう半分も見せてやる」
「ッッ!はい!」
うし、なんとか丸く収まったみたいだ。
これで一件落着、と言いたい所だが、なんか忘れてる気がするな……
あっ!そうだ!水源地の場所について聞いてない!
危ねぇ危ねぇ。
危うく本来の目的を忘れるところだった。
とりあえずさっきの少年の父親に聞いてみよう。
「すまない。聞きたい事があるんだが。」
「はい!なんなりとお聞き下さい!」
「この村の近くに水源地は無いか?」
「水源地……ですか?それならこの村の西側にありますが」
西か。
バナス大森林は村の東に広がってるから、家からいく場合は村を挟まなきゃいけないな。
まぁ今日はこの足で水を汲みに行くから問題ないだろう。
「今日は世話になった 」
俺はそう言いながら席を立ち、食べ物が詰まった籠を持って、水源地があるという村の西側に歩きだした。
「また何時でもお越しください!」
「ああ」
村人がすこしづつ小さくなっていく。
ブラウを紹介しに明日来るけど言っておくか?いや、やめといた方が良いな。
突然来ただけでこんな歓迎されたんだ。
これ以上盛大に歓迎されても困る。
「グルットさん!そんな体じゃ無理ですよ!」
「離せカーニャ!命の恩人に感謝の言葉の1つも言えなかったら治る怪我も治らねぇ!」
俺がそう思いながら歩いていると、後ろから声が聞こえてきた。
俺は振り替える。
そこには俺が昨日『グレーターベア』から助けたグルットが、包帯グルグルでカーニャを引きずりながらこっちに来ていた。
グルットは俺の前に辿り着くと、倒れこむ様に土下座した。
「カーニャを助けてくれてありがとうございます!もしコイツが死んじまったらコイツの父親に申し訳なくて死んでも死にきれなかった……!」
グルットは涙を流している。
なんか俺最近マジで土下座ばっかされてんな。
これワンチャン隠しスキルに『土下座神の加護』でもあんじゃねぇの?
死にスキルだし、俺が土下座の神を崇拝してるみたいで嫌なんだが。
「あ、改めて私もありがとうございます!」
カーニャは普通に頭を下げてきた。
そう、それで良いんだよ!
土下座はやりすぎなんだよ!
「頭を上げて欲しい」
「あ、ああ」
「あのグレーターベアの傷を見るに、お前はかなり優秀な戦士の様だ。お前に落ち度は無い。」
これは本当だ。
グレーターベアの腕をもぐとか、もしかしたら俺より強いかもしれない。
まぁ再生チート解禁したら俺が勝つけど。
「そう言ってもらえると助かる……」
「もし、また『グレーターベア』の様なイレギュラーが出たときは、大きな声で私の名を呼ぶといい」
「え?」
「一瞬で駆けつけるさ」
俺はそう言いながらまだ地べたに座っているグルットに手を差しのべた。
「へへ……そんなときよろしくな、騎士様!」
グルットはその手をつかみ、立ち上がった。
「それでは私には用事があるので、これで失礼するよ」
俺はグルットに背を向け、歩きだす。
思ったより長居してしまったな。
出発したときは朝だったが、もう昼に近い。
「あ、ちょっと待ってくれ!」
俺はグルットに引き留められ振り返った。
今度は何だ?
「お礼と言っちゃあ何だが、あんたにこれをやるよ」
グルットはそう言いながら背中に着けていたクロスボウを俺に渡してきた。
「くれるのか?」
「ああ、今回の戦いで格上相手にはクロスボウは通用しねぇと分かった。俺は変わらなくちゃいけねぇ。だから俺の新たな門出のためにアンタが貰ってくれ」
おお!これはありがたい!
『魔力変質』じゃ物質を生やすだけで打ち出せはしないからな。
ちょうど飛び道具が欲しいと思ってた所だった。
「感謝する」
「良いってことよ!そのクロスボウもあんたに使われた方が幸せだろうしな!ボルトも3本しかセットされてねぇから今度俺の家に来い!幾らでもやるよ!」
明日行くとしよう。
俺はグルットに背を向け、今度こそ西に向かって歩きだした。




