23.本物の騎士
「嘘……あのグレーターベアを……!」
後ろで村娘が目を見開いている。
そこまで驚かれるとこっちも誇らしいな。
……だけど鎧の胸部分に風穴が空いたのは悲しい、でも表面的には気にしてないふりする。なんたって今の俺は尊敬できる騎士様だからな。
村娘ちゃん!もっと誉めてくれてもいいんだぜ?
「騎士様!本当に……本当にありがとうございます!」
村娘が俺に頭を下げてきた。
グヘヘヘヘ!美少女に感謝されるのはやはり気持ちが良いぜ!
っと……ふざけんのはこのくらいにして、まずはグルットの様子を見ないと。
意識無いっぽいしな。
「おい、大丈夫か?」
血まみれで倒れている村男……もといグルットに声を掛ける。
しかし一向に起き上がる様子は無い。
息はちゃんとしているし、骨も致命的な場所は折れていない。命に別状は無いと思う。
出血も見た目ほどは酷くない筈だ。
俺に医療的な心得は無いから見た感じだけども。
しょうがないから村の少し手前まで送ってやるか。
この村娘にグルットを担いで歩く腕力は無いだろうし、そもそも魔物と遭遇したらヤバイからな。
俺はひょいっとグルットをを持ち上げた。
前の世界の俺はチビのガリだったから10㎏サイズのお米を持つ事さえままならなかったが、今なら人間でも軽く持てる。
一応身長も伸びたしな、250センチもいらんけど。
「村娘、名はなんというんだ?」
一応名前を聞いておく。
つか俺この世界に来てから女子とも普通に話せる様になった気がする。
多分兜で顔を隠した上に、騎士っぽいキャラ作りをしているからだろう。
俺はチャットとかだと急に雄弁になるタイプの人間だからな。
顔を見せないコミュニケーションは得意なのだ。
「あっ、申し遅れました騎士様!カーニャと申します!」
「そうか……カーニャか。俺はケンイチだ。助けた相手に死なれても寝覚めが悪いから村まで送ってやる。着いてこい!」
「はい!ケンイチ様!」
「……様付けははしなくて良いぞ」
「はい!ケンイチ様!」
「……まぁいい。行くぞ!」
「はい!ケンイチ様!」
何でこいつ急にドラクエのNPCみたいになってんだ?同じ事しか言わなくなったぞ。
これではい、いいえ、しか言わなくなったら本格的に病院に連れていくとしよう。
俺たちは、村の方向に向かって歩き出した。
「ケンイチ様はどこにお住みになられてるんですか?」
「この森に住んでいる」
「えっ!?バナス大森林に!?」
あ、やっべこれミスった。
けどまぁ大丈夫だろ。
この森にはデカイウサギや、腕が4本の熊、まだ見たことはないが、ドラゴンもいるらしい。
そんな集団に騎士が入っても目立たねぇだろ。
なんたってドラゴンだぜ?ドラゴン?
「森に住んでいる騎士様……本当におとぎ話みたい……」
カーニャも小声でなにか言ってるだけで、特に怪しんではいない様だ。
「あっ、もうすぐ出口です!」
どうやらもう着いたみたいだ。
出口の方から人の声が聞こえる。
俺はできるだけ人とは顔会わせたくないからここらで撤収させてもらうとしよう。
「カーニャ!?大丈夫か!?」
その時、出口の方からカーニャと似た様な格好をした男が出てきて、カーニャに抱きついた。
そして後ろから同じ格好をした村人達が走ってきた。
「お、お父さん!?何でここに!?」
「森の奥の方から何度もグレーターベアの咆哮が聞こえたから、村の皆心配で森の前に来てたんだよ……とにかくカーニャが無事で本当に良かった……!」
なるほど、だから出口の方から沢山の人の声が聞こえたのか。
俺はカーニャの父を見る。
若干クセっ気のある茶色い髪に優しげな緑の目、イケメンだな。
大変妬ましいが、流石の俺も親子の感動の再開を邪魔するほど野暮ではない。
俺はエチケットを弁えているブサメンなのだ。
「そうだ!グルットは?グルットはどうしたんだ!?まさかグレーターベアに……!?」
「この騎士様がグレーターベアを倒して、グルットさんを助けてくれたんだ!」
カーニャがそう言うと、村人達の視線が一斉に俺に集中した。
「あの騎士様が?」「嘘だろ……?グレーターベアを?」
「嘘に決まってるだろ……カーニャは騙されてるんだ」
「いや、でも実際咆哮が聞こえたし……。」
村人達が口々に俺について話している。
今まで目立った経験が無いから分かんなかったけど、こういうヒソヒソ話しって結構聞こえるんだな。
鈴木とかはいつもこんな気持ちだったんだろうか。
「そうか、あなたが……騎士様、私はしがない村の農夫で、ランドールと申します。もし失礼でなければお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ケンイチだ。」
「ケンイチ様、この度はグレーターベアを討伐していただき、本当にありがとうございます……この村の代表として、カーニャの父親として、そしてグルットの友人として、心から感謝させていただきます……本当に……ありがとう……!」
そう言いながらランドールはカーニャを抱きしめ涙を流しながら崩れ落ちる様に土下座してきた。
一日に親子から連続で土下座されるって中々無い経験だよな。
つかイケメンに謝られるとなんかむず痒いから止めてほしい。
「頭を上げて欲しい。」
「しかし、私の感謝の気持ちは……!」
とりあえず適当に騎士っぽい事でも言ってみるか。
「人として当然の事をした……までとは言わない。しかし私は騎士だ。騎士は国民の血税で飯を食い、ろくな仕事もせずに鍛練をしている。それは何故か?、騎士道を貫くためだ。」
「!!」
ランドールと村人達は雷に打たれた様な顔でこちらを見た。
俺は更に続ける。
「騎士道とはその名の通り、騎士の正しい姿を現した物だ。勇気があり、強く優しい。そんな姿だ。そしてその強さは民を護るためにある。」
「あ、ああ……!」
ランドールは号泣している。
「すなわち諸君らは私に仕事を与えてくれたのだ。なに、心配することはない。対価なら感謝をそこにいるランドール君にたくさん貰ったさ。」
村人達はなんか全員平服していた。
そしてその村人達達をかき分け、一人の長い髭の杖を付いた老人が現れる。
「貴方様が、貴方様こそ本当の騎士様です!私達には貴方の恩に報いる手段が何もありませぬ!だから……せめてこの村に英雄として語り継がせてもらえませぬか?」
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【称号スキルに『ロードオブナイツ』が追加されました】
【称号スキルに『村の英雄』が追加されました】
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その後、唯一立っていた老人までもが頭を下げてしまった。
場を静寂が襲う。……どうしようこれ。
取り返しのつかない雰囲気になったぞ。