22.決戦、グレーターベア
「ゴァァァァァァァァァァ!」
全身が馬鹿みたいに痛ぇ!
目も良く見えねぇし、体が全く動かない!
鎧の中で全身がグチャグチャのミンチになったみたいな感覚だ。
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【耐性スキルに、『殴打耐性』Lv4が追加されました。】
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【『痛覚遮断』のLvが、1から3へと上がりました。】
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【耐性スキルに、『衝撃耐性』Lv5が追加されました】
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痛みが退いていく。
一気に耐性スキルのレベルが上がったな。
普段なら喜んでいる所だが、今はそんな場合じゃねぇ。
とにかく急いで再生しねぇと。
俺は『魔力変質』を使い、体を変質、変型させ傷を塞いでいく。
どんどん視界が鮮明になってきた。
俺をふっばしたグレーターベアの方を見据える。
グレーターベアは俺を殺したと思ったのかさっきまで休んでいた木で、また座り込んだ。よし、もう一回寝るまで死んだふりだ。
そしてグレーターベアが寝静まったらグルットを担いでスタコラ逃げよう。
「騎士様!」
茂みに隠れていた村娘がこっちに叫びながら走ってくる。
お、おい馬鹿じゃねぇの!?
グレーターベアがその声に気づいてこっちに歩いてきた。
「騎士様!ああ………私のせいで……」
お前のせいでグレーターベアに気づかれたんだよ!
ああクソ!
俺は立ち上がり、素早くグレーターベアと村娘の間に立った。
「騎士……様?」
村娘はギョッとした顔で俺を見ている。
そりゃそうだ。
10m近く吹き飛んだ奴が平然と起き上がったんだからな。
「グラァァァァァァ!」
世界が震えた。
あるいは俺が震えているのか、空気がピリついているのか。
いや、両方か。
俺は震える手を押さえ込み、騎士剣を両手で握った。
あいつとの距離はだいたい3m、『グレーターベア』の体格から考えると、ここはもうあいつの間合いだ。
俺は先程の痛みを思い返す。
それだけで、心臓が張り裂けそうなほど高鳴り、足は生まれたての小鹿の様に震える。
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【通常スキルに、『精神健常化』Lv1が追加されました】
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落ち着け、俺。
確かに怖いが、震えてたって状況はなにも変わらねぇ。
「はー、はー」
俺は静かに深呼吸した。
心臓の鼓動が僅かに小さくなった。
よし、戦える!
奴の懐に飛び込み、頭蓋を叩き斬ってやるぞ!
あ、高さ的に頭は無理か。
「うぉぉぉぉぉ!」
俺は全力でグレーターベアの腹に『刺突』を使い剣を突き立てた。
しかしいくら力を込めようとも、剣は腹に沈んでいかない。
「は!?」
一撃じゃ仕留められないとは思ってたけど剣が刺さんないって異常だろ!?
その瞬間、俺の足が地面から離れた。
どうやらグレーターベアに抱き締められた様だ。
当然仲直りなどではない。
ベアバックというやつなのか。
ギシ、ギシ、ギシ。
全身に凄まじい力が掛かり、鎧がひしゃげていく。
まるでアルミ缶を潰すみたいに。
まずいまずいまずい!何かこの状況を打破できるスキルは無いのか!?
俺のスキルの中で攻撃系のスキルは『刺突』と『殴打』くらいしかない。
両方とも、手足の自由が効かないこの状況では使用できないスキルだ。
『詰み』
この2文字が俺の脳裏を掠めた。
こうして考えてる間にも鎧はどんどん潰れていく。
まだこんな所じゃ死ねねぇ!考えろ!
『魔力変質』『刺突』『殴打』の3枚の手札で俺が打てる最善手を!
いや、待てよ?
俺は今まで、『魔力変質』を使って掌とかからしか武器を出していなかった。
もし、胴体からも出せるんだったら、勝機はある。
『魔力変質』で胴体に特大の槍を生成して、それを『刺突』で打ち出す。それしかない。
問題は、『グレーターベア』の防御力だ。
もしゼロ距離での攻撃でも効かないんだったら、その時はもう諦めるしかない。
『魔力変質』と『刺突』のコンボ、これが俺の今捻り出せる最高火力だ。
鎧はもう限界を迎えかけている。
迷っている時間はない。俺は胴体の中心に槍を生成する。
胴体から槍を生やすことに関しては問題なくできそうだ。
俺を締め殺そうとしているグレーターベアを改めて見る。
「倒れろ、巨大熊……!」
『刺突』を使い、胴体から高速で槍を打ち出す。
凄まじい手応えだ。
しかしさっきとは違い、槍はグレーターベアの胸にズブズブとつき刺さっていく。
「頼む……死んでくれ……!」
『グロォォォァァァァ!!!』
『グレーターベア』が苦悶の声を上げながら俺を振りほどこうとする。
それから10秒ほど暴れていたが、程なくしてグレーターベアが倒れた。
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【経験値を900得ました】
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【齋藤健一のLvが6から27に上がりました】
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【『刺突』のレベルが1から3へと上がりました】
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【通常スキルに『バイルバンカー』が追加されました】
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倒した、のか?俺が1人でC+を?
……よっしゃぁぁぁぁ!
やったぞ!俺が、俺が倒したんだ!ブラウと同ランクの魔物を!
今まで恐れるしか無かった、グレーターベアを!
横で村娘が目を見開いている。
……こんな俺でも、誰かを救えたんだ……!
精神が高揚する。こんなに楽しいのはいつぶりだろうか。