21.再会の『熊』
「騎士様!グルットさんが大変なんです!どうかお助け下さい!」
何故か俺は今、自分が助けた少女に土下座されている。
地面に着いた両手に、同じく地べたに擦り付けられる頭。
間違いなく日本男児の伝家の宝刀『DOGEZA』だ。
まぁそれはいいとして、グルットって誰だ?
多分この村娘の仲間だろうが、『グルットさん』という口ぶりから察するに親子ではないと思う。
近所のお兄さんと言ったところか。
そのグルットさんが一体どう大変なんだろうか。
「落ち着け。何があったんだ?」
「グルットさんが、私を庇って『グレーターベア』と戦って、それで……」
グ、グレーターベアだぁ!?
グレーターベアって、あのグレーターベアの事だろ!?
初日に桃を採ろうとしたら殺されかけて、ブラウがワンパンしたあいつだ。
俺の予想ではグレーターベアのランクはD+程だと思う。
ちょっと厳しいんじゃないか……?ブラウはこの村娘を恐がらせないようにと、遠くの方で待機してもらっている。
呼び戻そうにも、呼び戻すのに時間を使えばそのグルットとやらを助けるのは間に合わないだろう。
だとしたら行っても無駄足だ。
それどころか俺が危ないかもしれない。
「悪いな、ちょっと無理だ。」
俺はそう言って今も土下座している村娘に背を向けた。
「待ってください騎士様!」
村娘は俺の足にすがりついてきた。
ちょっ……そこまでするか!?
「お願いします……お願いします……」
……しょうがねぇな、ちょっと行ってみるか。
少し見てみるだけだ。
もしかしたらそのグルットがグレーターベアに重症を与えているかもしれない。
その場合俺がグレーターベアを倒せば俺が経験値を貰える。
けしてこの村娘に情が移ったとかではないぞ!けして!
「わかった。向かってみよう」
「っ!ありがとうございます!ありがとうございます!」
「どっちに行けばいいんだ?」
「こっちです!」
そう言って村娘は走っていった。
俺もそれに着いていく。さて……どうなるか。
相手はあの「グレーターベア」だ。
今でもあいつの姿を思い出すと背筋が震える。
3メートルを優に越える体格、丸太の様に太い4本の腕、そして何よりあの凶悪な顔。
同じ熊ってだけで某有名はちみつ大好き熊さんにも風評被害が出そうなくらいだ。
もっともこの世界にプ◯さんはいないだろうが。
「騎士様!着きました!」
「ああ。」
どうやら俺が緊張をほぐすため無駄な思考をしてる間に、もう着いてしまった様だ。
俺と村娘は茂みに隠れ、グレーターベアがいるはずの方向に視線を送った。
グレーターベアは木にもたれ掛かり眠っていた。
右腕の内1つは吹き飛び、耳は削げ片目がつぶれクロスボウのボルトがいくつもぶっ刺さっていた。
辺りはグレーターベアが残した凄まじい破壊の痕跡が残っている。
木がいくつも薙ぎ倒され、地面は抉れている。
さながらブルトーザーでも通ったみたいだ。
そしてヤツの正面には、倒れた人間がいた。
恐らくあれが村娘の言うグルットだろう。
僅かに胸が上下している。よし、死んでないな。
おそらくグレーターベアの方もあの傷ではトドメを刺したか確認する余裕が無かったんだと思う。
つかこの傷全部コイツがやったのか?
だとしたらグレーターベアって思ったより弱かったりすんじゃない?
とりあえず『観察』してみっか。
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【『グレーターベア』ランクC+】
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は?
C+っていうと、コカトリスと同格?
んなもん無理じゃん。
しかもコカトリスは状態異常とかを使うトリッキーな戦法だったが、多分このグレーターベアは付け入る隙のないパワータイプだ。
コカトリスのくちばしでさえ見えなかった俺に勝ち目はない。
今からでもブラウを呼んでくるか?
いや、ダメだ。
リスクが大きすぎる。
いつグレーターベアが目を覚ますかわかったもんじゃない。
いや、落ち着け。なにもコイツと戦う必要は無いんだ。
グレーターベアは寝てんだから、グルットをサクッと回収してすぐ逃げりゃあ良い。
うし、それでいこう。
俺はグルットとグレーターベアの距離を確認する。
だいたい1mくらいか。結構近いぞこれ。
……いや!俺にならできる!小さい頃親戚の家でやった番犬ガオガオを思い出せ!
ちょっと命懸かってるだけで基本変わんねぇだろ!
俺はグレーターベアに近づいていく。
今のところ起きる気配は無い。
よーしそのまま寝とけよ?
そろり、そろり、
俺は忍び足で、倒れてるグルットの前にたどり着いた。
頬を嫌な汗が伝う。
グルットにゆっくり手を伸ばしていく。
ーーその瞬間俺を凄まじい衝撃が襲った。
痛ぇ!痛い痛い痛い!何が起こったんだ!?
とりあえず地面から足が離れてることしか分からない。
また、俺に衝撃が加わった。
2回目の衝撃が加わると同時に浮遊感が消えた。
どうやら俺はぶっとばされていたようだ。
……何にぶっとはされたかって?
そんなの決まってるだろう。
「ゴァァァァァァァァァァ!」
憤怒の表情で俺を睨みながら、グレーターベアが雄叫びをあげた。
……すまん村娘、俺しくじったわ。