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20.とある村娘の視点2(sideカーニャ)

私は今、村の方に向かって走っている。

……グレーターベア は文字通り破壊の権化だ。

長老から、ヤツの怒りを買って壊滅した村の話を何度も聞いたことがある。なんでも騎士団を動員しなければ倒せない程らしい。

確かにグルットさんは優秀な狩人だし、この村には他に5人の狩人が居る。

しかし当然グレーターベアには敵わないだろう。


グレーターベアは、テリトリーに入らなければ安全な魔物だ。

今回の場合私がヤツのテリトリーであるあのモモンの木に近づいたからこうなったのだと思うけど、流石にあの狂乱ぶりはおかしい。ツガイでも死んだのだろうか。

とにかく村の皆にこの事を伝えなければ、騎士団を呼ばないとこのまま長老の話通りにこの村も壊滅しかねない!


「ガルルル!」


しばらく走っていると、後方から獣の声が聞こえた。

グレーウルフが一体追ってきている。


ああもうこんなときに!しかしこれはまだ良い方だ。

グレーウルフは通常3匹以上の群れで狩りを行うが、今回の場合私程度仕留められると思ったのか、1匹しか追ってきて居ない、もしかすれば逃げ切れるかもしれない。


流石にグレーターベアを村に呼び込んだら私は村を壊滅させた大悪党になりかねないけど、グレーウルフ程度ならば村の狩人達で充分対処できる筈だ。

と言ってもただの村娘の私とグレーウルフの身体能力の差は歴然で、グングン距離が縮まっていく。


けど、もう少しだ!

後少し浅い場所に行けば、いつも村人達が採集とかをしている場所に着く!


ゴトッ。


「あっ」


私は石につまづき、顔から地面にダイブする様に転んでしまう。

相当前のめりになって走っていたし、かなり勢いがあったと思う。

口の中から血液と土が混ざりあった変な味がする。


「こんな所で立ち止まっている場合じゃないのに……!」


しかし私の足は、極度の恐怖と疲労のせいでうまく立ち上がってはくれない。

グレーウルフの方に視線を向ける。

グレーウルフは、「散々追わせやがって」とでも言う様にヨダレを垂らしながら、心底うれしそうな顔で私の方へとにじりよってくる。


嫌だ。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。死ぬのはやだ。

私のせいでお父さんや村の皆が死んでしまうかもしれないのはもっといやだ。


「誰か!助けてくださいっ!」


私は近くに人が居ることに一縷の望みをかけて、助けを求めた。

しかし私の声は森に吸い込まれ、肝心の誰かには届かない。


狼がさらに近付いてくる。

……ああ。ごめんなさいグルットさん、逃げ切れませんでした。

これだったら私を囮にしてグルットさんがグレーターベアから逃げた方が何百倍もよかったかもしれませんね。


狼が私の目の前に来た。

大好きなお父さん、もしお父さんが助かったら私が居なくても強く生きて下さい。

顔も知らないおかあさん、今からそちらに逝きます。


私は、静かに目を閉じた。

死ぬのって、痛いんだろうなぁ……。


…………


……あれ、痛くない……?


「怪我は無いか?」


「うえぁ!?」


私の耳に、そんな声が聞こえた。

声色は若く、そして抑揚に欠けていたが、力強く落ち着いた声だった。


私は目を開けた。

そこにはヨダレを垂らした狼ーーではなく、『騎士』がいた。

私の倍にも届きそうなくらい大きな体、血液で汚れ、ちぎれかけの群青色のマント、所々へこんだり穴が空いて返り血が着いていたりするが、その輝きはまるで失っていない白銀の鎧。


紛れもない、騎士だった。

そして騎士様の横には先程まで私を食い殺そうとしていたであろうグレーウルフが死んでいた。

背中に切り傷がある。この騎士様が持っている長剣で殺したのだろう。


凄まじい勢いで脈打っていた心臓が少しづつ落ち着いていくのを感じた。 ……これが、騎士様。

私は自然と目が潤んでいくのを感じた。

自分がまるでおとぎ話の一員になった様な気分になった。


……いや!今はそんな事を言ってる場合じゃない!

グルットさんがグレーターベアと戦っている筈だ!

私は、もう一度目の前の騎士様を見つめる。

騎士様の姿を一言で表すなら、正に『歴戦』というのが相応しい、とても強そうだ。


この人なら、もしかしたらあのグレーターベアだって……不思議とそう思ってしまっている自分がいた。

普通に考えて、騎士が一人でグレーターベアなんて怪物中の怪物に勝てるわけないけど、目の前の騎士様には、この人ならあるいは……と思わせる力があった。


……この人に助けてもらおう。

厚かましいことこの上ないけど、私の助けを求める声に反応してくれたということは少なくとも冷たい性格はしていないだろう。

それに今グルットさんが助かるには、この人を頼る他ない。


「騎士様!グルットさんが……グルットさんが大変なんです!どうかお助け下さい!」


私は地面に頭を擦り付け、目の前の騎士様に懇願した。

この世界における住民からの騎士へのイメージは、警察官と仮面ライダーを足した感じです。

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新作はじめました。 現代日本で騎士の怪物になってしまった男の物語です。 貌無し騎士は日本を守りたい!
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