16.これからの事はこれから考えれば良い
今俺達の前には、先程倒した『リトルコカトリス』と『グレーウルフ』と『コカトリス』の死体がある。
グレーウルフは石化が解けて浮き足立ってる隙に2匹纏めて倒させてもらった。
ナイフでメッタ刺しにしたリトルコカトリス以外はあまりグロくはないのが救いだな。
俺は改めて目の前のモンスター達の死骸を見つめる。
グレーウルフは犬だがコカトリスシリーズに至っては完全に鳥だ。七面鳥だ。
それに俺はまだ成長期だからな。
ずっと果物ばっかの食生活は正直きつい。
要するに俺が何を言いたいかというと、コイツらを持って帰って食いたいのだ。
しかしリトルの方は鶏サイズだから良いとして、コカトリスはかなりにデカイんだよな。
4m位あんじゃないだろうか。
それに対してうちのエースであるブラウさんはせいぜいが2m、持てるとは思えない。
とはいえ荷車とかを作る時間も無いからな。
さっきみたいに血の匂いに辿ってきてまた変な奴をが寄ってきたら困る。
そもそも俺は荷馬車を作れる大工的な能力は備えていない。
2日前まで普通に高2やってたしな。
今こうして普通にファンタジー世界の森で生きていこうとしていられるのが異常なのだ。
これも普段からの妄想による賜物か。
いつも異世界召喚されたときなどのシュミレーションはやっていたのだ。
もっとも、その努力が今こうして報われるとは全く思っていなかったが。
まぁそれは置いといて、要するに『コカトリス』を持って帰るのは厳しいということだ。
狼を食うのには抵抗があるが、背に腹は変えられない。
それに確か昔読んだ戦争の本の描写で飢えた人が野良犬を食べている描写があった。
極限状態になったら好き嫌いなど言ってはいられない。
俺は今のところブラウのお陰で飢えてはいないが、これからどうなるかわからないからな。
食料は出来るだけ確保しておきたいのだ。
「ブラウ、狼何匹持てる?」
「ええと……全部持てます」
「よし、頼む」
俺はリトルコカトリスを右手に持った。
ブラウは両脇に2匹、持ち、口に1匹グレーウルフを持くわえている。
ブラウにだけ無理させてるみたいで申し訳ないな。
帰ったら旨い鶏肉料理を振る舞ってやるとしよう。
さて、帰るとするか。
俺とブラウは家のある方向に向かって歩きだした。
いやー!今日は大分レベルも上がったし中々好調だったな!
というか俺の今のレベルは『5/80』だけど最大レベルになったらもう強くなれないのか?
城で見た鈴木のステータスはあまりはっきりとは覚えていないが、最大レベルは確か『999』だった。
あの時は何とも思わなかったが、今考えればあれはあまりにも異常だ。
俺がどうベストを尽くしても鈴木には勝てねぇって事か。
やっぱり顔か!?顔なのか!?
……それについてはかなり悔しいが良いとして、大事なのは最大レベルになった俺がどの位の強さになるかだ。
出来ればBランク位にはなりたいと思っていたが、さっきのCランク上位同士の戦いを見て考えが変わった。
あれは無理だわ。
あんな戦いに俺が顔を突っ込めるとは思えない。
もしかしたら頑張れば突っ込める様になれるのかもしれないが、それまで安全にレベリングできるとは限らない。
森に来て2日目でC+にエンカウントしたんだ。
もしかしたら明日にはB級に会うかもしれない。
今日ブラウは同ランク帯に圧勝したが、それは恐らくレベル差があったからだ。
もし『コカトリス』のレベルが高かったりしていたら、どうなっていたかわからない。
とりあえずしばらくは雑魚狩りに徹しよう。
もし今日みたいに高ランクモンスターに会ったら逃げて、そしてまた雑魚を狩る。
そうやってレベルを上げて、ある程度上がったらブラウと一緒に同格を安定して倒す。
よし、このプランでいこう。
人間欲張ると大抵ロクな事にならないのだ。
俺が今後の計画を立てていると、家がある開けた場所に出てきた。
やっと着いたか。
俺とブラウは家の前に『リトルコカトリス』と『グレーウルフ』を置き、家の中に入った。
ブラウの口にくわえられた『グレーウルフ』はよだれでデロンデロンになっているが、気にしないことにする。
俺は『リトルコカトリス』を部屋の隅に置き、藁の上に寝転がった。
ここに来て2日目の分際で言うのもなんだけど家はやはり落ち着く。
先程まで命のやり取りをしていたというのもそれを助長している。
あー眠い。
まだ明るいけど一眠りするかな。
ちょうどブラウも眠そうにしている。
俺はブラウのお腹に体重を預け、目を閉じた。
異世界召喚されて見た目完全に化物になったけど、俺結構頑張っちゃってんじゃないの?
順調に強くなっていってるし、頼り強い仲間もいる。
まるで物語の主人公みたいだ。
前の世界もこっちの世界も外見がひどいのは変わりないけど、今は前とは違い人生を楽しめている。
唯一両親にもう会えないのが心残りだが、多分向こうは俺みたいなブサイク、居なくなってせいせいしているだろう。
両親はいつも俺に優しくしてくれたが、俺はいつもそれが疑問だった。
俺だったら自分達の息子がこんな何も長所の無いブサイクだったら、きっとあんなに優しく、真摯に接する事は出来ないと思う。
きっと両親はただ面倒だったのだ。
家庭内の空気を悪くするのが。
だから表面上は俺に優しくしてくれたんだと思う。
そうに違いない。
っと……嫌なこと考えちまったな。
とりあえずもう寝よう。
これからのことは、これから考えれば良いのだ。




