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化物騎士の森林生活   作者: 幕霧
ベルゼビュート編:蝿皇君臨都市ルビエド. 《アルデバラン》
133/138

133.システム:グラトニー

ベルゼビュートのスキル名を変更しました

「むてきの、ちから……?」


『そうだ。知力、財力、……暴力。どれに関してでも、いやいっそ全てでも構わない。』


ベルは、考え込む。

恐らく、今までの人生で最も頭を回転させた瞬間だった。


「おなかいっぱいたべて、あたたかいところでねむって、あとは……」


『馬鹿、それでは動物と変わらんだろう。』


「あうっ、」


ベルゼビュートが、ベルの頭をこづく。


『……これは、個人的な話だがな。』


空に浮かぶ雲を眺めるような目で、ベルゼビュートはベルを見つめる。


『私はかつて……ここからとてもとても遠い国で、“正義の番人”みたいな事をやっていたんだ。』


「せいぎの、ばんにん?」


『そう。謎を(あば)き、逃げる者を追い詰め、隠れた奴はどんな手を使ってでも引きずり出す。……まあ、分かりやすい偽善だがな、当時はそれを絶対正義だと信じて疑わず……いや、信じようともしなかったか。』


「んぅ……?」


『……でもある日、その『社会的正義』の大元が、破綻している事を知ったんだ。例えば、私達が、人を一人殺した者を捕まえる間に、星の裏側では百万人以上死んでいる。……命は、平等じゃない。私はその時にやっと気が付いたんだ。』


ベルはその話の内容をほとんど理解できなかったが、ベルゼビュートの口調から『とてもとても悲しい事なのだろう』と感じた。


「しかもだ。その『正義と抑止の象徴』とやらのトップに君臨する連中は、それに見向きもせず、社会のガン共と結託し私腹を肥やす事に夢中になっているのだから、余計始末が悪い。……それで、私は……」


ーーもう、分からなくなってしまったんだ。


ベルゼビュートは平淡な声色だったが、なぜかベルには、泣いてしまいそうに見えた。


「命の価値をねじ曲げる機構……それは、『社会』だ。平民より貴族、奴隷より平民……おかしいよな。みんな、同じ命なのに。」


「……おなじ、いのち。」


『そして……私は、気付けばこの世界に来ていた。世界を変えられるぐらいの、『無敵の暴力』を引っ提げてな。……その時には、私を含めて72人の、『無敵の力』を持った奴らが同時に呼び出されていた。無敵の知力、無敵の魔力……各々が、得た力を様々な事に使っていた。……人を救う者も、(おとし)める者もいた。』


「……」


『そして、私もその例に漏れず、この世界から『社会』というシステムを排斥しようとした。さっき言った『無敵の暴力』を使ってな。……まぁ、この通り、未遂に終わったわけだが。』


ベルゼビュートは自らの体を見せつけるように、典型的な『やれやれ』のポーズをとった。


『……まあ、話は逸れたが。とにかく、人は『善意』なんて機能が存在する特異な生き物なんだ。たとえば知能の低い動物が無敵の力を得ても、欲望のままむやみに暴れる事しかできない。でも人間は、それを他者のために振るうことができる。『力』を手に入れた時に何を成すか、それで人の価値は決まるのだ。』


「……わたしは、そんなひと、みたことない、です。」


『たった今、見ただろう?あの冒険者たちは、『掛け値無しの善意』でお前を助けたんだ。』


ベルの目が、見開かれる。

驚きと言うよりは、『よく分からない』という顔をしていた。


『人は、世界は……貴様が思うより、少しだけ優しいのだ。』


「……」


「まあ、今日はもう寝ろ。貴様は幼いからな。これからの人生で、ゆっくり『善意』という概念(もの)を理解すれば良い。」


「……はい。」


小さく返事をしたあと布団にくるまり、ベルは寝台に横たえる。

物心ついてからは初めての、心休まる夜だった。


■□■


「朝よ!ベルちゃんっ!」


「わっ……!?」


体を包んでいた暖かな衣が剥がされ、光が流れ込んでくる。

驚き目を細めると、曇った視界の向こう側に昨日の受付嬢の姿があった。


「おはようベルちゃん!」


「おは、よう、ござい、ます……」


寝台の上で目を擦るベルの首に、受付嬢はネックレス状の何かをかけた。


「これ、は……」


「これ、冒険者カードね。昨日はすぐ寝ちゃったから渡せなかったのよ。」


ベルは、緩慢(かんまん)な動作でそれを手に取る。

鉄製なのだろうか、ひんやり冷たいプレートに、ベルの読めない文字がビッシリと記されていた。


「今日からこれが、この国に於けるあなたの『免許』になるわ。……多くの冒険者達が勘違いしてるけどね……それは強さではなく、『優良さ』を示す物なのよ。」


「ゆうりょう……?」


「ええ。弱くても仕事が丁寧だったりとかね。そういう『信用度』をランクとして換算し、依頼主からの仕事を斡旋する……それが、ギルドの仕事よ。」


それに続けて受付嬢は、『ベルちゃんはまだ一つも依頼を受けてないから信用度はゼロね。』と苦笑いしながら言った。


「ま、これから頑張れば良いのよ。あなたは小さいんだから。あと、ご飯出来てるから早く下に降りてきてね。」


そう言い残して受付嬢が部屋から出ていくと、布団からベルゼビュートが顔を出した。


『よし、まずは飯だ。たくさん食べてでかくなれ。そんなちんちくりんじゃ冒険者なんてやっていけないぞ。』


怪訝そうな顔をして受付嬢の出ていった方向を見つめているベルに、ベルゼビュートはそう言った。


「……やっぱり、ここのひとたち、おかしい、です。なんで、わたしみたいなやつ、に、ごはんなんて……何も、かえせないのに。」


『……だから、それが『善意』だ。本来は極限まで生存効率を上げなければいけないはずの生物が、進化の過程で偶然手に入れた神々のビルドエラー。そして世界のバグだ。』


ベルはベッドから立ち上がり、ゆっくりと階段を下りていく。

古い木の臭いがいやに生々しかった。


■□■


「よし、依頼に出るぞベル。」


ベルが朝食を食べ終えた後、朝早くからギルドに来ていたギルタニオンが、何やら植物の絵が描かれた羊皮紙を片手にそう言った。


「……?」


「これは薬草採取の仕事で、比較的安全だが、お前一人で森に行くのは危ないからな。俺が着いていってやる。」


そう言いながらギルタニオンはバッグをごそごそし、一振りのナイフを取り出した。


「武器を買える金が貯まるまで、それを貸してやる。お前にやっても良いが、自分の金で買った武器の方が愛着が沸くからな。」


なかば押し付けられるように、ベルはそれを受け取る。

小振りとは言え、重い金属。落としそうになり、慌てて両手で持ち直した。


「全身防具はしなくて良い。サイズが合わないのを着ても動きを阻害するだけだ。」


ギルタニオンは、ベルに申し訳程度の帽子、そして胸当てを着け、出発した。

馬車に乗り込むと、ベルの目が途端に輝きだす。


「すごい、です、はやいです!」


(なんだ、馬車は初めてか?)


「おとうさんたちとべつになるまえに、のりました!」


(……そうか。)


その返答に、顔をしかめるベルゼビュート。

その横では、小声でぼそぼそとかなりヘビーな独り言をこぼしているベルに、ギルタニオンは必死で気付かないフリをしている。めちゃくちゃ気まずかった。


「ヒンッ!?」


「っ!?」


ーーその時、馬の恐怖が混じった嘶きと共に、馬車が急停止する。

焦ってギルタニオンが御者台を降りると、そこには三十人程の、武器を持った盗賊らしき風貌の男たちがニヤつきながら立っていた。

だが、降りてきたギルタニオンの姿を見て顔色が変わる。


「……あれ、よく見たらアイツ、”砦落としのギルタニオン”じゃねぇか?」


「ちょっ……っっ、何やってんだよ!団長!なんつー馬車襲ってんだ!いくらあんたでも勝てねぇって!やべぇよ、やべぇよ……」


「……ベル、俺が良いと言うまで、目と耳を塞いで待ってろ。分かったな?」


そう言ったギルタニオンは、背中から刃渡り一メートル半程のツヴァイヘンダーを抜き放ち、盗賊どもの目では到底反応できない速度で斬りかかった。

間合いが一瞬で潰れ、盗賊たちは目を見開く。


「ほう……噂通りの馬力だ。やるじゃないか、砦落とし。」


ーーそう、”並の盗賊では”反応できないはずだった。


「ッ!?」


全体重を乗せた渾身の一撃は、黒いコートを着た優男の細剣に易々と止められている。

いくら力を籠めようと、微塵さえ押し込めない。


「……だが所詮、”噂通り”だな。」


黒コートの前蹴りで、ギルタニオンは吹き飛ぶ。

数メートル転がった後、口から血の塊を吐き出していた。


「お前ら、そいつにとどめを刺しておけ。あと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……オレは少し寝る。」


それを聞いた盗賊達の目線が馬車へ移り、一部の者はその顔に下劣な笑いを張り付けた。

黒コートはそれを軽蔑した目で睨んだ後、野営地へ戻ろうとしーー


『油断したな。チェックメイトだ、小僧。』


ーー恐ろしく冷たい、男の声を聞いた。


「何者だ、きさ……」


『起動。”システム・グラトニー”』


「へっ、あっ……?」


瞬間、黒コートの体……いや魂から、大事な物が根こそぎ抜き奪われた。

記憶、人格、刻み込まれた技能(スキル)まで。

そしてそれらは全て、ベルゼビュートの『宿主』であるベルへ自動的に送られる。


「ぁっ……!?、……えっ、あっ、あっ……ベルゼビュート、さま……なんか、へんなの、はいって、きてま、す……」


ベルは、『魂のデータが流れ込んでくる感覚』に、悶えている。

……これが、”暴食”の権能。魂喰い。

宿主を強くする。そのために。他者を喰らうのだ。


「まだ勝負は着いてねえぞ黒コートォォォ!そんな蹴りで俺の腹筋を……って、気絶してんじゃねぇか……何だったんだこいつ……」


ギルタニオンが脇腹を擦りながら立ち上がる。ベルゼビュートは木陰に身を隠した。

他の盗賊たちはそれを確認すると短く悲鳴を上げ、黒コートを抱えて怯えながら逃げ去っていった。

ギルタニオンは追おうとしたが、馬車にいるベルが頭を抱えているのを見て踏み留まる。


「け、怪我はないか?ベル。」


「ん……ああ、大丈夫だ。そちらこそ大事ないか?」


「……えっ?」


「どうしたギルタニオン、そんなあほ面晒して……え、あれ、ベルゼビュート様……なんですか、これ。あたまが、変、です……」


急に流暢に、しかも男口調で話し出したベルに、ギルタニオンは『なんじゃこりゃぁぁぁ!』と叫ぶ。

それを見てベルもビクっ、とする。ギルタニオンと言うより、自分が怖かった。


(ベル、ステータス、と念じろ。)


「えっ、あ、ああ、承知した。……あっ、ちがう、わかり、まし、た。」


頭を抱え、少しだけ涙目になりながらベルはステータス、と念じる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー

『ベル』

状態:記憶統合×2

Lv:2/50

HP20/240

魔力0/300

攻撃力250

防御力100

魔法力200

素早さ320


装備:


『オリハルコンナイフ』C

『胸当て』D

『市民の服』F+

『市民のズボン』F


通常スキル:

『算術』Lv1

『土下座』Lv7

『大陸語』Lv5

『大陸文字』Lv3

『ルビエド求道剣術』Lv7

『バリスヒルド式防衛剣術』Lv4

『ドボラ流槍術』Lv2

『砲術』Lv1

『縮地』Lv4


固有スキル:

『システム:グラトニー』


耐性スキル:


『毒耐性』Lv5

『飢餓耐性』Lv8

『殴打耐性』Lv4

『火炎耐性』Lv2

『恐怖耐性』Lv6

『苦痛耐性』Lv7

『裂傷耐性』Lv4


称号スキル:

『剣鬼』Lv6

『飽くなき求道者』Lv5

『堕ちた英雄』Lv6

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『増えているのは全て、先ほどの黒コートのスキル。……これが私の、”暴食のベルゼビュート”が持つ、簒奪(さんだつ)の力だ。……今の貴様では、使うたびに魔力が空になるがな。』


「んっ、あっ、なんかっ、足に、力が入らなっ……」


『魔力切れだな……今はゆっくり眠ると良い。それにまだ、意識の”チャンネル”が合わないようだ。私が調整しておく。』


どさり、と倒れるベルをギルタニオンが慌てて受け止める。

その安らかな寝顔は、ギルタニオンにとって、昨日までの無知な子供と同じには見えなかった。

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新作はじめました。 現代日本で騎士の怪物になってしまった男の物語です。 貌無し騎士は日本を守りたい!
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