125.継承
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【経験値30000を取得しました。】
【『斎藤健一』のレベルが43から62へと上がりました】
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【″ドミネーター″『勇者クウガ』を淘汰しました。固有スキルの継承を開始します。】
【『グルット・ゼルレイド』を淘汰しました。″龍因子″を『斎藤健一』へ継承します。】
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「は……?」
固有スキルの、譲渡?
突如脳内に鳴り響いたアナウンスに、俺は困惑した。
辺りを見回すと、グルットと、砕け散った双大剣の片方……クウガの方から黒い砂嵐の様な粒子が沸き立ち、それがこちらへ向かってきていた。
アマネの方はクウガに比べて損壊率が低く、まるでクウガに守られたみたいに見える。
俺は何故かそれから目を離せず、不覚にも黒い砂嵐の接近を許してしまった。
「ぐ、う、っ!?」
鎧の隙間から入り込んできたソレは、同じ要領で口にも侵入してくる。
その瞬間、喉が焼ける様な激痛に包まれた。
激痛は次第に体、そして脚や手へと伝染し、俺の全身は瞬く間に激痛に支配された。
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【適応度が不十分。器の崩壊が懸念される。】
【″空間制圧″の開放率を100%から、既に取得している″魔力変質″と同様の27%へ低下。器の崩壊が免れる。】
【『グルット・ゼルレイド』が保有していた龍因子を継承……失敗。】
【″屠龍聖剣″により龍因子の継承が失敗しました。】
【再度、龍因子の継承を開始します。】
【″屠龍聖剣″により、龍因子の継承が失敗しました。】
【″屠龍聖剣″により、龍因子の継承が失敗しました。】
【″屠龍聖剣″により、龍因子の継承が失敗しました。】
【″屠龍聖剣″により、龍因子の継承が失敗しました。】
【″屠龍聖剣″により、龍因子の継承が失敗しました。】
【″屠龍聖剣″により、龍因子の継承が失敗しました。】
【″屠龍聖剣″により、龍因子の継承が失敗しました。】
【″屠龍聖剣″により、龍因子の継承が失敗しました。】
【″屠龍聖剣″により、龍因子の継承が失敗しました。】
【……継承不可。龍因子は『グルット・ゼルレイド』に帰結します。】
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『キィィィ!』
屠龍聖剣がそれこそ龍と間違うような唸り声を挙げると、黒い砂嵐は消え去った。
……守って、くれたのか?グルットを″白痴の龍″にした龍因子から、俺を……
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【固有スキルに、『空間制圧』が追加されました。】
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……これは、勇者クウガの固有スキルか。
もしかして、勇者を殺すと、そいつの持つ固有スキルを奪えるのか?
この場合は武器に生体パーツとして組み込まれていた勇者クウガの脳を破壊したから、継承できたのだろう。
ーー僕の力はくれてやる。だからアマネには手を出すな……
「っ……!?」
その時、風に乗ってどこからか青年の声が聞こえた気がした。
耳を澄ますが、もう聞こえる事は無かった。
今のは……勇者クウガの声か?
俺や一緒に召喚されたクラスメイト達とは違う、もっともっと大昔の勇者ーー
「……あれ」
ーー瞬間、俺の胸中に疑問が生まれた。
どうしてそんな奴が、脳だけになって武器なんかに組み込まれていたのだろう。
「……」
まさか俺は……否、俺達は、とんでもない奴らに召喚されてしまったのだろうか。
人を人とも思わない、真性の外道共に。
「……もしかしたら、クラスメイト全員もう死んでたりしてな。」
心に渦巻いた不安を口に出すと余計不安になったので、これ以上何も言わないように口を閉じた。
もう、俺には関係無い事だ。
地球の裏側で人が死んでいるニュースを耳にした時と同じで、憐れだとは思えど自分が助けに行こうなど思える筈はない。
「……ケンイチさん。」
「なんだ。」
「どうして……そんな悲しそうな顔してるんですか?」
そう言ってきたブラウに、俺はカラ笑いしながら『冑で顔見えないだろ』とツッ込んだ。
それに、悲しそうな顔をしているのはプラウの方だろう。
「はは、なんでも無ーー」
「ヴラァァァァァ!!!」
「っ、なんだ……!?」
咆哮のした方を向くと、そこには半身を泥に包まれたグルットが、両腕で大事そうにカーニャを抱え、体と同じく泥の翼を広げながら飛び立とうとしていた。
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【『″動屍の半龍″グルット・ゼルレイド』ランクB】
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「アンデット化……!?」
……前に、既に死んだグレーターベアが動いている事があった。
それと同じだろう。
その右手にはボロボロの『陰剣アマネ』が握られており、刀身からは血が涌き出ている。
恐らくそれは内部に有るであろう勇者アマネの脳からの出血だ。
「……俺は、必ず″真龍″に成る……」
凄まじい風圧と共にグルットの翼がはためき、離陸する。
ブラウは追い掛けようとしたが、千切れ飛んできた樹のせいで見失った。
「……凄まじい、執念ですね。」
『ああ。』と返し、俺は座り込んだ。
……グルットは居なくなったが、森はぐちゃぐちゃになってしまったな。
木は多くが倒壊し、地面は穴だらけ。
そして……
「ん、うぅ……」
雪の冷たさによって止血されたのか、グレイは目を覚ましかけていた。
……こいつを、村に返さなきゃいけないな。
「よっ……と、こいつを村に送るから、ブラウは先に帰っててくれ。」
「……分かりました。」
背におぶるとグレイは、ハーネスと同じぐらい軽かった。
……こいつ、ちゃんと食ってるのか?死ぬほど細いんだけど。肌も病んだみたいに白いし、本当に病気でも持ってるのかも知れない。
……まあ、それは良いとして、村に着くまで久々にステータスの確認でもするか。
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【斎藤健一】
Lv:62/80
種族:人間
状態:勇者
HP:329/490
魔力:43/500
攻撃力:390+500
防御力250+15
魔法力:100
素早さ:380
装備:
『崩れかけたルビエド騎士の鎧』F+
『屠龍聖剣』*
固有スキル:
『魔力変質Lv__』
『空間制圧Lv_』
耐性スキル:
『刺突耐性LV1』
『痛覚遮断LV6』
「殴打耐性LV4」
『石化耐性LV1』
『衝撃耐性LV6』
『熱耐性LV5』
『凍傷耐性Lv1』
通常スキル:
『観察Lv6』
『刺撃Lv4』
『斬撃Lv1』
『射撃Lv1』
『蹴り上げLv1』
『殴打Lv1』
『バイルバンカーLv4』
『精神鎮静化Lv1』
『狂化Lv6』
称号:
化物騎士LV1
村の英雄LV2
ロードオブナイツLV1
災禍の元凶LvMax
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屠龍聖剣の補正+500って……強すぎないか?
しかも、一つ見覚えの無いスキルがあるな。
【『狂化』Lv6】
……随分物騒な名前だ。
効果は大体予想できるが、あまり使いたくはない。
「やです……きしさま……あなた、だけは……」
俺の背中で眠るグレイは、何故かうなされていた。
そっと頭の上に手を乗せてやると、少しだけ表情が緩和する。
遠くに、村が見えてきた。




