12.優良物件
俺がブラウのログハウスに入ると、そこには部屋全体に敷き詰められた藁があった。
いや、薄々感ずいてはいたけどログハウスの中に一面の藁って……
まぁ布団などが無い以上、これが最も良い選択肢なのだとは分かっているが、少し思うところがある。
つかどうせ最終的に藁になるんだったらログハウスである必要
無かったんじゃないのか?
多分人間に憧れて見た目だけでも人間の家にしたんだろうが、藁が敷き詰められているとはいえ元々人間が設計した家だからブラウには少し不便そうだし、当然部屋などという概念は無い。
でも、辛口になってしまったが実を言うと俺のこの家に対する評価はそこまで悪くはない。
もしこの家が町の中に建ててあったら不満に思っていたかもしれないが、もし俺が一人でこの森で暮らしていかなければいけなかった場合、寝るのは基本的に木の上などだっただろう。
家を建てようにも俺に建築のノウハウは当然の如く無いし、そもそもこんな人外魔境で木材を集めること自体至難だった。
それにこの家にはブラウという話し相手兼セ○ムが居る。
こいつが居る限り、孤独にも危険にも悩まされる事は恐らくない。
そう考えるとここは森の中とはとても思えないような優良物件に思えてくる気がする。
するだろ?な?な?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
家賃ゼロ!
広大な庭と良すぎる日当たり!
可愛いウサギの同居人もいます!
少しヤンチャな動物達が居ますが、備え付けの警備員があなたの安全を保証しますので安心です!
森で暖かみのある生活を送りましょう!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
つまりこういう事だ。
いやぁとんでもない優良物件ですね!
セキュリティの全てがブラウに委ねられてるのが少し不安だけどな!少しだけな!
俺が思想に耽っていると、ブラウが「ちょっと待ってて下さいね!」と言って部屋の裏口らしきところから出て行った。
何しに行ったんだろう。
今更ブラウが俺を取って食おうとしてるとは全く思っていないが、やはり気になる。
俺が先ほど採取したリンゴらしき果物をすこしづつかじっていると、ブラウ出ていったドアが開く音が聞こえた。
俺が音のした方に目を向けると、山盛りの果物を持ったブラウが立っていた。
食べ物を持って来てくれたのか。
俺はブラウの好意に思わず目頭が熱くなった。
「今日はお祝いです!たくさん食べて下さいね!」
引っ越し祝いか。
確かに召喚されてからマトモに食ったのはさっきのリンゴだけだし、召喚された時とは違い、辺りはもうかなり暗い。
そんなとても腹が減っている俺にとってこの量の果物はとてもありがたい。
「なあブラウ」
「なんですか?」
「ありがとうな」
「!!!」
俺の言葉にブラウがもんどり打っている。
感謝する度にこれじゃしばらく大変そうだな。
俺はそう思いながらまず手始めに目の前にあったバナナらしき果物に手を伸ばした。
この森には実る季節も気候も別々の果物が数多くあるが、もう気にしないと決めた。
俺は兜の中へとバナナを入れ、食べた。
……うん、うまい。
よくもぎたてのフルーツは旨いと言うが、それは異世界でも同じらしい。
腹が減っているせいかもしれないが、俺が普段食べていたバナナよりも数段旨く感じる。
俺がバナナを味わっているとブラウが、
「あの、嫌だったら話さなくても良いんですけどケンイチさんは何故鎧を外さないんですか?」
と聞いてきた。
うーん、見せるべきか否か……
見せても問題ないとは思うが、少し不安だ。
今の俺の顔は人間どころか生物全体で見てもかなり異様だからな。
今俺は寡黙な騎士ロールをしてるわけだし、顔に酷い傷を負った事にして、もっと信頼関係を築いてから見せよう。
「顔に醜い傷があるから見せたくないんだ。」
「そうですか…けど私はケンイチさんがどんな姿でも絶対に味方ですからね!」
ブラウが若干前のめりながら言ってきた。
……これ騙したみたいで罪悪感が半端ないな。
ブラウには悪いがこれは俺にとっても死活問題だ。
情けない話だが、もし俺が今ブラウに見放されればこの森で生きていく手段は無い。
いや、もしかしたら生きていけるのかもしれないが、それはきっとリスクが常について回る危険な生活だ。
それに今ブラウに裏切られれば精神的ダメージも大きいだろう。
その場合ウサギに裏切られて人間不信という訳のわからない状況になりかねないからそれだけは避けたい所だ。
……今考えてもしょうがねぇな。
腹が膨れたら急に眠気が襲ってきた。
今日はもう寝よう。
明日もやんなきゃいけねぇことがたくさんある。
まずレベル上げだろ?そして……あれ、思い付かない。
……俺って実は暇なんじゃないか?
パッと思い付く優先事項といえばそれくらいしか無い。
まぁ良いか。
元々レベル上げはしなきゃいけなかったしな。
出来れば1週間以内にあの熊にリベンジしたい所だ。
俺はそう思いながら横になり、硬い鎧を柔らかい藁に委ねた事による独特な浮遊感を楽しみながら、迫り来る眠気に意識を預けた。




