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化物騎士の森林生活   作者: 幕霧
龍神編: 製龍侵虐呪廻村カリス. 《アルタイル》
119/138

119.『製龍』の始まり

前回のあらすじ~(本編には無関係です)


グレイ「急遽再生した肉体のせいで……あなたの体はボロボロだ!」

ケンイチ「そんな……おれの体が、ボロボロに……」

グレイ「本来なら、今のような無様な顔立ちにはなっていない!」

ケンイチ「うそだ……うそだそんなことーっ!」





「村で、ちゃんと治療すれば、きっとまだ間に合うんです!」


「……そうか。」


「そ、そうか、って……死んじゃうかもしれないんですよ!?」


……もう、森から出ないと決めたんだ。

それに、自分の問題でハーネスを差し置くなんて出来ない。

俺のせいでハーネスは死にかけたのに、いざ自分が危なくなったら必死に助かろうとするなんて、許されるわけが無いんだ。


「それが、どうした。」


「……え?」


「私がこのまま野垂れ死んだとして、貴様らに何の問題がある?」


出来るだけ冷たい声を意識して言った。

グレイとカーニャは一瞬たじろいだが、俺から目を背けようとはしなかった。

……なら。


「……貴方は、村の英雄で……」


「全て、ハッタリだ。」


俺はこいつらに、″真実゛を伝えることにした。


「……え?」


「お前達が心打たれた言葉も、行動も、感情でさえ、全て嘘っぱちなんだよ。お前らのためにやったんじゃない。全て自らの保身のためにやったんだ。」


「そ、そんなの……」


「要するに、『かっこよくて尊敬できる騎士様』の外面を被ってるだけだったんだよ、私は。お前らも本当の私を見て良く分かっただろう?」


そして少しの間を置き、唖然としている二人に向かって口を開く。


「ーーこれが本当の『俺』。煌びやかな英雄なんかとは対極に位置する、血と欺瞞(ぎまん)に濡れた怪物の末路だ。」


両腕を広げ、高らかに宣言する。

……積み重ねた嘘が、崩れ落ちる時だ。

はは、こいつらは、一体どんな反応をーー


「……黙れよ。」


ーー俯き、震えながらグレイがポツリと言った。


「……何?」


「何が怪物だ……?そんな、泣きそうな声で煽ってくる怪物が居るもんか……!」


「なら、俺はなんだ?醜悪な獣か?」


「っ!僕の英雄を馬鹿にするヤツは、たとえ英雄(あなた)だろうと絶対に許さない!」


俺の返答に剣を抜き放ち、グレイが叫ぶ。


「許さない?ならば、どうする。」


「力づくで、あなたを連れ戻すだけだ……!」


……は?

こいつが、俺を、力づくで?

無理に決まっている。

予想外の返答に、思わず少し笑いが込み上げてくる。


「……やってみろよ。」


指をクイ、と折り曲げ挑発すると、向こうは体勢を低くし突進の構えを取った。


「……僕は『龍狩り』グルット・ゼルレイドが一番弟子、グレイ・ゼルレイド!今、あなたを狩る!」


グレイが叫びながら突っ込んできた。

……名乗り、か。なら俺はさしづめーー


「【『半龍』ブレイヴイーター】って所か?」


「黙れえぇぇ!」


踏み込んできたグレイの剣を指で摘まみ力を込めると、軽々しい音を立てて簡単にへし折れた。


ーー奇跡が起こる筈も無く。


「ぁ、がぁぁ……っ!!!?」


ーー圧倒的格上に挑んだ小さき勇者は。


「……寝てろ。 」


ーー勇者喰い(ブレイヴイーター)を前に破れ去った。


「ぅ……ぐ。」


雪に倒れたグレイの首筋に屠龍聖剣を添える。

深紅の刀身から放たれる痺気が、その白い肌を僅かに焦がした。


「この通り、別に俺はお前を殺したってどうも思わないんだ。」


「ぅ……だ。」


「だが、別に殺す意味も無い。今日の所は見逃してーー」


「嘘だ!嘘だ、嘘だ……っ!」


折れた剣を杖代わりにして、足をガクガク震わせながらグレイが立ち上がった。

……意識を奪うつもりで殴ったんだぞ。なぜ立てるんだ。

何がこいつを、ここまで……


「あんなに優しい声で僕に話し掛けてくれたの、あなたが初めてだったんだよ!っ、僕は、『よそ者』だから、村の皆の、家族じゃないから……っ!ほんとは、あそこに居ちゃいけない人間だから!あの日、長老に言われたんだ、『お前みたいなのを庇って死んだカーニャの兄が浮かばれないって』!だから、ぼくは、私を捨てて……!」


「ぐ、グレイ?私の兄って、なんのこと……?」


血ヘドを吐きながらグレイゆっくりと歩み寄ってくる。

その爛々と輝く瞳に宿った蒼い光は、グルットやハルメアス、『英雄』と呼ぶに相応しい連中が放つ物だった。


ーー何故、お前が()()を持っている。


「っ……!?」


思わず気圧され、俺は後ずさった。

既に虫の息なのに、自分より遥かに弱いはずなのに。

何故だか、絶対こいつには勝てないと思った。


「……来るな」


「出来ません……」


「来ないでくれ……!」


「出来ません!」


俺の心中を支配していたのは、底無しの『恐怖』。

目の前にいる、この細身で小柄な青年こそが、真の怪物に見えた。

……だから、だろうか。


「か……ふっ……」


バイルバンカーを使ってしまったのは。


脇腹を貫かれ、今度こそグレイは倒れ伏した。


「あ……あぁ……」


……やってしまった。

あまり深くは当たってないから死にはしないと思うが、このまま放置すれば少し危ないだろう。

……俺はカーニャを見やった。


「う、そ……」


その目は一点を見たまま、開かれている。

俺がグレイに攻撃したのが余程ショックだったのか、今にも失神しそうなぐらい怯えていた。


「はぁ……」


グレイを背負い、雪に足跡を作りながらカーニャへ歩いていく。


「ひっ……!」


俺が手を伸ばすと、カーニャはそのまま意識を失ってしまった。

……気絶されたのは、むしろ好都合だ。

村の前にでも転がしておけば、誰かが回収してくれるだろう。


二人を持ちながら、村へ歩みを進める。

……森から出るのは、今回で本当に最後だ。

こいつらも懲りただろう。今回は、『俺が自分達に攻撃してこない』と言う確信が有ったから、恐れなく訪ねて来たんだ。

名実ともに化物となった俺には、きっともう近付いてこない。


「……よし。」


……村に、着いた。

俺が防衛用の柵の前に二人を寝かせ、立ち去ろうとしたときーー


くぢゃ、ぽり、くぎ、ぼりゅ


ーー何か、固いものを噛み砕き、柔らかいものを咀嚼する様な、そんな音が聞こえた。


「なんだ……?」


つい、俺は音の聞こえる方向に目線を送ってしまった。


そこには、″無数の武具が突き刺さり、原型を失った白い鱗の塊″の上に股がり、それを獣の様に貪ぼっている、一人の男がいた。


「グル、ット……?」


祟り龍を、食ってる……?


「ァあ?誰だテめェ。」


振り向いたグルットの顔は、半分が白い鱗に包まれていた。

片目の瞳孔は純黒の泥に濡れ、口から覗く歯は鋭く、牙のようになっている。


「っ!?」


俺は驚き、寝かせた二人をもう一度背負って、森へ走り出した。

なんだあれ……なんだよアレ……!?

分けわかんねぇ……!

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新作はじめました。 現代日本で騎士の怪物になってしまった男の物語です。 貌無し騎士は日本を守りたい!
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