11.カルチャーショック
「落ち着いたか?」
「……はい」
やっとの思いでブラウを引き剥がした俺は、こいつのせいで更に歪んだ鎧に目を向けながらそう言った。
貴重な一張羅だったのに…
つかこのやりとりに猛烈なデジャブを感じるな。
「あの……すいませんでした。つい興奮しちゃって……」
「ああ」
まぁこいつ本人に悪気がないなら良いが、出来ればもうやめてほしい。
鎧が無ければ普通に即死だったからな。
うさぎに抱きつかれて圧死とか字面は幸せそうだが自分では絶対に体験したくない。
「この森に定住するというのは本当ですか?」
とブラウが聞いてきた。
当然だ、多分王様は今頃俺を血眼で探し回ってるだろうし、仮に見つからなかったとしても、もし何かにつけて鎧を剥がされたりしたら俺に待っているのは間違いなく人類の敵バッドエンドだ。
「そのつもりだ。」
というかそれ以外に選択肢が無い。
もっともこの森での暮らしも悪くなさそうだが。
「良かったら私と一緒に暮らしませんか?」
ブラウがワクワクした顔でそう提案してきた。
それに関しては俺からも提案しようとしてたところだ。
さっきの『グレーターベア』といいこの森は一人でサバイバルするにはちょっと……いや、大分危険すぎる。
レベルがある程度上がるまではブラウのお世話になろう。
「良いぞ」
「やった!それでは早速私達の家に行きましょう!」
恐らくこいつの言う『家』は藁とかで作った『巣』だろうが無いよりはマシだ。
俺は森の奥へ奥へと進んでいく。
道中何度か魔物が現れたが、
『リトルコカトリス』
ブラウの拳で沈んだ。
『スライム』
ブラウに踏み潰された。
『グレーウルフ』
ブラウ蹴りで意識を刈り取られた。
全てブラウが蹴散らした。
お陰で俺は暇だったので、周りの植物を『観察』してスキルレベルアップに勤しみつつ、めぼしい物を回収していく事にした。
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【『雷神草』】
【食べると半日ほど体が麻痺する。】
【薄めると一応麻酔としても使える。】
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不採用!やばい草じゃねぇか!
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【『ルデスの実』】
【実の表面が湿っているがそれは塩分で、焼いて表面を削れば良質な塩となる】
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これは良いな。
食事に彩りを与えてくれそうだ。
というか村人とかは採集しに来ないのか?
まぁモンスターのせいで来れないんだろうが、一応持てる分だけ持っていこう。
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【通常スキル『観察』のLvが2から3へと上がりました】
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おっ、やっと上がったか。
もう持てそうにないし、良いタイミングと言える。
目の前を見るとブラウが【『ケンタウロス』ランク:E+】を踏み潰していた。
どうやらLv3では対象のランクが分かるらしい。
これは中々便利じゃないか?
相手の強さの指標になるからな。
そういえばブラウのランクはなんだろうな。
『観察』してみるか。
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【『ラビトニオン・クレイ』ランク:C+】
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C+か………
俺の見る限りでは、この森の中でもブラウはかなり強いらしい。
しかし逆に考えればブラウより強いAとBは一体どんな化物なんだ?
恐らく魔王とかがAなんだろうがさっきのブラウとケンタウロスの戦闘を見るに、この世界でのランクという物はかなり大きい。
俺がレベルを上げれば恐らくブラウよりは強くなれると思うが、それより上は全くの未知数だ。
もしその『未知数』とはちあわせたらどうする?
ブラウに庇って貰うにも、さっきのケンタウロスが2体いたとしても、二つ上のランクのブラウに勝てるとは思えない。
俺自身が強くなるしか無いって事か。
「着きましたよ!」
俺が密かに決意を固めていると、ブラウから声が掛かった。
どうやら開けた場所に来た様だ。
家はどこに有るんだ?
「こっちです!!」
俺が辺りを見渡していると、ブラウが先へとぴょんぴょん跳ねていった。
俺が急いで追いかけるとそこには……小さいが立派な作りのログハウスがあった。
「え?」
「どうですか!?」
ブラウがキラキラした目で聞いてくる。
いや、どうですかって言われても想像とあまりにも違うっつーか……
てっきりウサギだから藁とか敷き詰めただけかと思ってたのにログハウスって。
その短い指でどうつくったんだよ!?
「い、良いと思うぞ」
「良かった!人間さんの家を真似したんですけど上手く出来てるか心配だったんですよ!」
上手く出来てるかとかそういう次元じゃなくて、売れるか売れないかとかの次元に入ってきてるぞ!
まぁ住みやすいに越したことは無いんだが、どうやって作ったのかが本当に謎でしょうがない。
「これを作るのにどれくらい時間がかかったんだ?」
これで10年とか言ったらまだ納得できる。
「?、1ヶ月位でパパーっと仕上げました」
……だめだ。
もう考えるのは辞めよう。
ここは俺の元居た世界とは違う。
そこに現代の常識を持ち込むのは、アニメの粗探しをしてそこだけを見てゴミアニメだと批判する様な物だ。
……いや、結構違うか。
まぁ郷に入れば郷に従えと言うし、これからはこの世界の常識に順応していかなければ、この世界を楽しむことは出来ないだろう。
自分に都合の良いことは気にしなければ良いのだ。
そう自分に言い聞かせ、俺はブラウの家に入っていった。