表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
化物騎士の森林生活   作者: 幕霧
ハーネス編: 凍森忘我懺哭少女. 《ベネトナシュ》
101/138

101.『紛い物』

「どういう……事だ?」


酷く狼狽し、額に玉の様な汗を浮かべた長老へと俺は問いかけた。


「……騎士殿、『ハーフエルフ』という種族については、何処まで知っていらっしゃいますか?」


知ってるも何も……実際に会ってるしな。

とりあえず特徴でも言うか。


「耳が少し尖っていて、チビで、髪が緑で、ロリババアか?」


「……最後のは分かりかねますが、概ね合っています。しかし、重要なのは外見ではありません。……アレは言わば、時限式の爆弾なのです。」


……爆弾?話が見えないぞ。


「どういうことだ。」


「……まず、ハーフエルフと言うのは、本来存在しない種族なのです。通常、ヒトとエルフが交わろうが生まれるのはどちらか。……私の様に多少能力を継いでいても、外見は混ざらないのです。」


……そういえばハーネスは自分の事を混ざり物だと言っていたな。

でも、それがどうして爆弾なんて事になる?


「……そして、外見以外で通常のエルフとハーフエルフが違う点、それは二つあります。一つ目は、魔力の量と質が異常な事。もし熟達したハーフエルフが存在したのならば、国を落とす事も可能でしょう。……そして、もう一つは……」


「……もう一つは?」


長老は龍神の話をしたときと同じく、何かを懺悔する様な雰囲気で口を開く。


「……通常のエルフは、20歳前後で心身共に成長が限り無く遅くなるのですが、ハーフは……ずっと、時の感覚が人間と同じなのです。


時の感覚が人間と同じ……?

……まるで、それがとんでもなく残酷な事みたいな口ぶりだな。

時の感覚が同じだったとして、どうなるんだ?


「……永久(とわ)に等しい命を持ちながらも、それに見合う精神を持ち合わせていない、だから300年やそこらで狂ってしまう。そして狂乱しながらその強大な力を振り回す。それゆえ災渦と呼ばれるのです。」


……確かハーネスは、60歳だっけか。

たまに頭がおかしくなってはいたが、まだ正常の範疇だろう。

それにあいつは、俺の仲間だ。騎士団に連れていかれたりしたら困る。


「……長老、私がなんとかするから、もしまた王国の騎士が来ても『ハルメアスの勘違いだった、ハーフエルフなんていない。』と言ってくれないか?」


「……騎士殿、ハーフエルフに、心当たりが有るのですか?」


薄氷を思わせる鋭い目で長老は言う。


「……いや、言えない。だが私を信じてくれ。この村には死んでも被害を出させない。」


「……分かりました。騎士殿がそう言うのならば私達は信じるしか有りません。ですが……どうか、お気をつけ下さい。仮に今は穏やかであったとしても、ヤツらはいつか必ず狂う。まるで降り積もった雪の様に……外見の美しさと冷たき死は、常に表裏一体なのですから。」


そう言い遺し、長老は、自分の家の方向に歩いていった。

……よし、ハーネスの様子を見に行こう。

別に何があると言うわけではないが、こんな話を聞いた後だとなんか心配になる。


「ハーフエルフには気を付けろよ。騎士様。」


後ろから歩いてきたグルットがそう言った。


「戦った事があるのか?」


「……いや、昔のパーティにいたんだ。仲間思いの優しい奴だったよ。」


おお、グルットは昔冒険者だったらしいから、一緒に仕事をしていたのか。

なんだよ……そんなにヤバくなさそうじゃん、もしかしてこの村に居たりするのか?


「そいつ、今はどうしてーー」


「殺した。」


「え?」


「他の仲間が死んだのを境におかしくなっちまってな。『私が本当に狂ってしまう前に殺してくれ』って言われて俺が首をハネて殺した。」


自分の手の平に目を落とし、グルットが淡々と言う。


「……ごめん。」


「良いんだよ、昔の事だからな。それに今は生きてる奴の方が大事だ。……もし、そのハーフエルフがおかしくなってんなら、さっさと楽にしてやれ。他人を傷つけて一番辛いのは本人なんだぞ。」


「……ああ、行ってくる。」


「おう、行ってこい。どうするにしても、後悔の無いようにな。」


俺は森へと歩きだした。

あいつの家に向かう足が、とんでもなく重たくなった気がした。

ハーネスを、殺す?俺が?

考えた事も無かった。いや、考えてたらヤバイんだけども。

ハーネスは、この世界で初めてできた人間の友達だ。

……コミュ障で、卑屈で、たまにおかしくなるけど。


「……願わくば、そんな事にはなりませんように。」


遠くにハーネスの家がある土壁が見えてくる。

俺は雪に足を取られながらもその壁の前に辿り着いた。


コン、コン


恐る恐る、ドアをノックをする。

しかし、反応がない。

……嫌な胸騒ぎがする。


「……バイルバンカー……!」


土壁を破壊し、扉をこじ開ける。

その先にいたハーネスは、床へうずくまりながら座り込んでいた。


「……ケンイチ。」


「……ハーネス、何か変なことはーー」


しかし、俺はその顔を見て違和感を覚えた。

そしてすぐにその正体に気が付く。


ーー右の瞳が、赤くなっているのだ。


充血とかそういうレベルではない。

左目はいつも通りの蒼色だが、右目がワインレッド色のルビーみたいな、鮮やかな紅へと変わっていた。


「ど、どうしたんだ!?ハーネス!?」


「ケンイチ、儂は……」


左目だけに大粒の涙を溜め、嗚咽を漏らしながらハーネスは口を開く。


「儂は……消えてしまうんだ……!」


「……え?」


ーー今日何度目かも分からぬマヌケな疑問符を浮かべながら、俺は鎧の下で目を見開いた。


「……儂は『紛い物(ハーネス)』ですらなかったよ。」


鈍器で殴られたみたいに、頭の奥がジンジン痛む。

俺はハーネスの顔を見た。

左半分は泣いているのに、赤目の右半分は、まるで愛おしい物を愛でるかの様にうっとりと俺を見詰めながら、口で歪な弧を描いていたーー

章名の読みは、《とうりんぼうがざんこくしょうじょ》です。そしてベネトナシュの星言葉は『泣き叫ぶ少女』。

これの意味する所とは……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作はじめました。 現代日本で騎士の怪物になってしまった男の物語です。 貌無し騎士は日本を守りたい!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ