10.これでも魔族です
「落ち着きましたか?」
「……ああ」
俺は今、目の前にいるウサギと対話していた。
茶色い毛並みに大きい目、もきゅもきゅしている口など、見た目は完全に可愛いウサギだ。
異常にデカイのと返り血さえなければな!
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【通常スキル『観察』のレベルが1からに2へと上がりました。】
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あっ、ども。
スキルレベルも上がったし、とりあえず相手の情報を知ろう。
まずはそれが先決だ。
『観察』
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種族:『ラビトニオン・クレイ』
分類:『魔族』
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まっ……魔族!?
このデカウサギが!?
こいつもしかしてさっき熊をワンパンしたことといい、本当はめっちゃ強いんじゃないか?
出来るだけ刺激せずに情報を引き出すしかない。
「何故俺を助けてくれたんだ?」
もしかしたら俺を勇者と知って魔族側に引き込もうとしてるのかもしれない。
「?困ってる人がいたら助けないといけませんよ。」
デカウサギ(仮)のその言葉に、俺は冷えきっていた心に何か暖かい物が広がっていくのを感じた。
……いやいや駄目だ!
何落とされかけてんだ俺は!エロゲのチョロインじゃないんだぞ!
こいつは魔族なんだ。
そもそもここにいる魔物共もこいつが発生源なんじゃ?
「この森の魔物はお前が発生させたんじゃないのか?」
俺がそう言うと、ウサギは助けた相手が自分を怪しく思っているにも関わらず、嫌な顔1つせずにこう答えた。
「私達魔族は魔物を発生させません。発生させるのは私達の魔石です」
あ、あれ?王様から聞いた話と違うぞ?
王様の話では、魔族は人類に仇なすために魔物を発生させまくっている様な口振りだった。
というか魔石が発生させるのと魔族が発生させるのはいったい何が違うんだ?
「どういうことだ?」
「ええっとですね…私達魔族は死ぬと魔石だけが残ります。そしてその魔石からは本来魔族の力になるはずだった濃密な魔力が周囲に充満します。そしてそれと空気中に漂う様々な魂と結び付き、魔物が誕生するんです」
「じゃあ昔ここで魔族が死んだのか。」
「そうです!それが言いたかったんです!多分何百年も昔この地で強大な魔族が何らかの理由で死んだのでしょう。そしてその魔石に何層も地層が積み重なり今に至ると言うわけです!」
デカうさぎが胸を張りながら、「ふんす」と鼻息を荒げた。
この態度を見ていると、このうさぎが急に人畜無害な存在に見えてきた。
俺はこいつに一体何を恐れていたのだろう。
確かにこいつの力は強いかもしれないが、こいつ自身が進んで人間に危害を加える存在にはとても思えなかった。
俺はもう一度、デカうさぎの顔をしっかりと見つめる。
デカうさぎは「分かりましたか?」とばかりに自信に満ち溢れた顔でこちらを見返してくる。
恐らくさっきの話も本当なのだろう。
王様と情報が違ったのは、人間が魔物の生産サイクルを知らなかったせいか?
俺は何故かこいつがとても信用できる存在の様に思えた。
理由が分からなかったが、すぐに気づいた。
似ているのだ。俺の母に。
当然姿形がという訳じゃない。
少なくとも俺の母さんはうさぎさんではなかった。
相手を安心させる様な雰囲気、理知的な言葉遣いだが少しポンコツな所など、他にも多々有る。
別に俺がマザコン気味だったわけじゃないが、この世界に来て初めて純粋な好意で接してくれた相手という事もあり、俺はこいつに対してかなり心を開きかけている。
「……ウサギさん」
「は、はい!何でしょう!」
ウサギは緊張した面持ちで俺を見てくる。
「助けてくれてありがとな。」
「!!!!」
ウサギは目をカッと見開いた後、急にワナワナと震えだした。
「ど、どうしたんだ?」
「私は今まで人間さんと仲良くなりたくて色んな努力をしてきました……だけど皆さん私を見れば逃げるばかりでした」
「お、おう」
そりゃそうだろうな。
こんな血みどろのデカイうさぎが目の前に躍り出て来たら誰でも逃げるわ。
「だけど今日はお話出来ただけでも嬉しいのに感謝までしてもらえてっ!私は……!私は……!」
感謝しただけでこれとは一体どれだけ人に飢えていたんだろうな。
喜んでくれているのは良いんだけどこれ若干変態入ってねぇか?
「あの…もし良ければ貴方のお名前を教えてくれませんか?」
名前か、良いだろう。
この森で定住する以上こいつと関わることも多々あるだろうし、いつまでもデカうさぎでは不便だからな。
「ケンイチだ。お前は?」
「ブラウです!」
ブラウは少し食い気味に言ってきた。
多分お互いの名前を交換し合うというシチュエーションに興奮してるんだろう。
「あの……貴方さえ良ければ村に帰った後もたまに森に来て私とお話してくれませんか?もちろんお礼はします!」
ブラウがモジモジしながらそう口にした。
モジモジするウサギ……これは需要ある。(確信)
と言うか、たま来るも何も俺はこの森に住むつもりだからな。
「俺はこの森に定住するつもりだぞ。」
「へ?」
「俺で良ければ何時でも話し相手になってやろう。」
「ケンイチざぁぁぁぁぁん!!!」
ブラウが涙やら鼻水やらあらゆる液体で顔をデロデロにしながら俺に抱きついてきた。
うわっ!汚ねぇ!
俺が引き剥がそうとしても凄まじい力で抱きつかれているためびくともしない。
ギシ、と鎧が軋む音が聞こえた。
やべぇぞこれ!お前の大事な人間さんが死んでも良いのか!?