表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第二部
98/232

#091「郷に入れば」【竹美】

#091「郷に入れば」【竹美】


 今日は日曜日。水曜日がバレンタインデー。直前になって焦らなくても良いように、前もってチョコレートを買っておくことにしようと、国道沿いにあるショッピングモールに来ている。

「竹美。こっち、こっち」

 呼び声に反応してキョロキョロと視線を左右に走らせたあと、竹美は自分へ向かってバタバタと駆けてくる人影を認めた。

「あっ、風華。風華も、買い物に来てたのね」

「そうよ。もうすぐ、バレンタインデーでしょう。だから、贈り物を買いに来たの」

「何だ。風華も、チョコレートを買いに来てたのね。それなら、メッセージを送れば良かったわ。さっ、一緒に行きましょう」

 催し物開場へと行こうとする竹美を、風華は手を引いて止める。

「ちょっと待って、竹美。私の目当ては、チョコレートじゃないわ」

「えっ。だって、バレンタインの買い物でしょう」

 風華は竹美の腕を離し、人差し指を立て、指先を左右に振りながら喋る。

「チッチッチ。分かってないわね、竹美は。バレンタインの贈り物、イコール、チョコレートという認識は、日本でしか通用しないわよ」

 出たな、ニューヨーカー。さぁ、ブルックリン仕込みのポップでゴージャスなセンスをひけらかすがいい。

「それじゃあ、何をプレゼントすれば良いのよ」

「その前に念のため確認するけど、贈る相手は永井先輩で間違いないわよね」

「そうよ。それで、風華のほうは」

「よし。三階へ、レッツゴー」

 風華は、疑問の表情を浮かべる竹美を置いたまま、吹き抜けにあるエスカレーターへと駆けていく。竹美も一瞬遅れて、風華のあとを追う。

 もう、鉄砲玉なんだから。見切り発車にも程があるわ。

  *

「そっか。それで笠置は、リュースケに渡したんだな。――俺は、一人で結べるから」

「そうなのよ。風華と中原先輩の仲が、そんなに良いとは思ってなかったから、ちょっと驚いちゃった。――駄目ですよ。これを贈るとき、私が結んであげるって決めたんですから」

 ワイシャツにセーターでソファーに座る永井の首元で、竹美はネクタイと格闘している。

「気持ちだけで充分だから。それに、何度も徒に往復させると、摩擦で布が傷んでしまうんだぞ」

「もうちょっとで出来そうなんです。我慢してください」

 おかしいなぁ。お姉ちゃんで練習してたときは、こんなに手元が狂わなかったのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ